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第18話

 その日の夕食はエンデルク達も揃って上層でお寿司を食べることとなった。

「いや~、今日はホンっトーに楽しかったよ♪」

 乾杯の後、ビールを一気に流し込んだ海里がセイガを見ながら大きく笑っている。

 カジノの後も、商業エリアを渡り歩いたり、劇場のショーを見たり、展望デッキで夕陽を見たりと丸一日、セイガ達はずっと一緒に遊んだ。

「私もおみやげをいっぱい買っちゃった♪ こっちの物って可愛いのがもう盛り沢山なんだもん、えへへぇ♪」

 そう言って笑う瑠沙を見ながら、セイガはその時のことを思い出す。

 女性陣で雑貨やコスメを見て回る光景は、とても華やかだったがセイガは流石に遠目でそれを眺めるのみだったのだ。

「あんなに買ってどうすんのよアンタ」

 ジト目の海里に

「送っちゃえば大丈夫だもん☆ 『飼い主さん』達にもあげるんだぁ♪」

 と平然と返す瑠沙、飼い主さんというのは瑠沙の率いるチーム『SOラビッツ』のメンバーの異名であり、リーダーである瑠沙をみんなで飼っているというコンセプトなのだという。

 セイガとしては凄く不思議な感覚だったが、そういう考え方の組織もあるのだろうと一応は納得していた。

 ちなみに、精神年齢が近いのか、瑠沙とメイ、そしてルーシアは特に仲良くなっていた。

 出会い頭にライバル視していたのが嘘のようだ。

「がくえんきょうにもカワイイものがとってもあるらしいですよ?」

「そうなんだ、ボクも学園郷にはまだ行ったこと無いから絶対楽しみだよ♪」

 ユメカも嬉しそうにそんな3人の姿を見ながら大好きな巻き寿司を口に入れる。

「ん~~~~♪」

 ぱぁっと晴れたその表情に周囲の視線が集まる。

「ワイは、魚大好きだから分かるけど、このお店はイイのを使ってるね!」

 海里が中トロを飲み込んでから言い放つ。

「うん、とても美味しいよ」

 流石に上層の最高級店、大人数のため個室にセイガ達はいるのでいつものように賑やかにしているが、内装も材料も職人も一流、本来なら気軽に騒げるような雰囲気ではない。

「ま、セイガは何を食べても『美味しい』って言うよな?」

「いや……それは全部美味しいから…」

 ハリュウのからかいにセイガが悩んでいると

「ふむ、心のこもった料理は全て美味しい、それも一理ありますな」

 何故かJが助け船を出してきた。

「そう、世の女性が全て美味しいのと同じ理です」

 …どうも助けるというのとは違うようだ。

「それにしてもさっきは折角私がカップルシートに座ってたのに誰も一緒に座らないなんてヒドくない?」

 海里が突然、思い出したように声を上げる。

 それは夕暮れ、海里を含む数名で展望デッキに行った時のこと、その一角に恋人向けにだろう、ハートを形どった綺麗な二人掛けのソファーが置いてあった。

 そこにまず海里がすとんと座って周囲の反応を見ていたのだが、結局誰も隣りに座らなかったのだ。

「へえ~?そんなコトあったんだぁ」

 その場に居なかった瑠沙が笑いこける。

「ワガハイは座っても良かったですぞ?」

「オレもオレも♪」

「俺は……何というかあの流れでは、この場は座らないという方がいいのかと思って……」

 セイガの場合、その近くにユメカの姿が見えたので、座らなかったというのが本当の所だが、雰囲気的にそう思ったのも確かだった。

「こんな綺麗なお姉さんの隣りに肩を並べて座れるなんて、滅多にないんだからね、ホントみんな勿体ないことをしたわー」

 くすくすと笑いながら海里が周囲を見渡す。

 上座に座るエンデルクはそんな様子も気にせず静かに寿司を食していた。

「うふふ、でも本当に水平線に沈む夕陽……綺麗だったね♪」

 その後、せっかくだからと皆を集めて記念写真を撮ったことを思い出しながらユメカが海里に微笑みかける。

 最初は海里をちょっとだけ警戒していたユメカだったが、一日一緒に居て少しずつ打ち解けていったようだ。

「あ、うん!そうだよね~」

「ボクもあの綺麗な景色は絶対忘れないと思うな♪」

 セイガはそんな様子を見つめながら頼んだ穴子を食べている。

 ワールドに来てからは多分初めて食べる食材だが、とても好みだった。

「ここの玉子、おいしいね♪」

 セイガの隣りの瑠沙がもう一個残っていた玉子をセイガに差し出す。

「あ~~~ん?」

 瑠沙がセイガを見つめる。

 そのまま箸にのせられた黄色いギョクがセイガの口へと入っていった。

「ん……美味い」

「そうだよね、セイガさんもそう思ってくれて私も嬉しい♪」

 そんなふたりの姿をメイは複雑な表情で見ていた、そして……


「で、オレを呼んだって訳かよ」

 夕食後、メイとハリュウは海の見えるカフェにふたりきりで向かい合って座っていた。

「うん……こーゆーのはハリュウにしか話せないんだもん」

 メイはばつの悪そうな顔で目の前のクリームソーダをかき回す。

「ま、メイ坊の言いたいことも分からなくはないがな……さて、オレはどうしたらいいんだろうなぁ?」

 ハリュウが面白いものをみつけたような表情でメイを見る。

「ううう、分かってるんなら分かってるんでしょ!」

 メイの睨みも、ハリュウには全く効かない。

「言わないとダメなこともあるだろう? まずメイ、お前は何がしたいんだ?」

 口の端を上げながら、ハリュウがメイを見る。

 メイは、口にするのが恥ずかしいのか、ふるふると体を震わせていたが、意を決して自分の意思を告げる。

「ボクは……セイガさんと、あのその、もっと……仲良く、なりたい」

 消え入りそうな声だが、それでもメイの精一杯の気持ちだった。

「仲良く…ね、確かに今の状況は難しいな、ユメカさんのことはさておいても、海里と瑠沙、あのふたりは結構本気でセイガを狙っているようだからな」

「うん、セイガさんはそういうのに簡単になびかないとは思うんだけど、やっぱり目の前であんなにイチャイチャされると焦るというか……嫌だ」

 昼間一緒にいて、瑠沙が悪い子じゃないのは充分に分かってはいたが、同時にどんな手を使ってもセイガの気を引こうとしているのも理解できたのだ。

 それに海里の方も、何か企んでいる、そうメイの勘が騒いでいた。

「それで?オレはどうしたらいい? あのふたりがセイガに近付かないよう邪魔をするか?それともメイがセイガとうまくいくよう協力するか?」

 敢えて、ハリュウはそう言った。

「ボクに…協力して欲しい」

 口を結びながら、メイがハリュウを見上げる、とても真っ直ぐな瞳だ。

「オレはてっきり、メイ坊はこういう場合は自分の方から身を引くタイプだと思ってたけどな、この前オレ達から離れようとした時みたいにさ」

 以前、メイはセイガ達と別れる決断をしたことがあった。

 その時はセイガが引き留めて、メイも結局共にいる道を選んだ。

「そうだよね、ボクも前ならそうしてたと思うんだ……でも」

 メイは周りのことを気に掛ける、とても優しい子だ。

「本当に大切なものだけは、諦めたくない」

 それが我儘なのは分かっている、けれど 

「ボクは……」

 そこでハリュウが手を出しメイを制止した。

「分かってるよ、協力するのは別に構わない、オレにも利はあるからな」

 ハリュウにとって、セイガとメイがくっつくことは悪くない。

 そう、悪くはない。

「じゃあ」

「とはいえ、メイ坊からは何も見返りが無いのはフェアじゃあないよな?」

 意地悪そうな笑み、ハリュウはメイが困るのを知っていながらもこう尋ねた。

「代わりにオレがユメカさんと付き合えるように協力、してくれよ」

 それがハリュウの望みだった。

 静かな店内が、さらにしーんと静まる。

 店内には何人かは別の客がいたが、本を読んだり夜景を見ていたりと空気のような存在だった。

 メイは考える、ハリュウの提案はもっともだ。

 自分ばかり助けて貰うのは良くない、けれどもそれではユメカを売るような感じがしてしまう……

「ま、嫌なら別にいい、というかオレはメイ坊が協力しなくても構わないしな」

「ううん」

 メイが大きく首を振る、ちゃんと覚悟をするべきだ。

 ちなみにマキさんは聞いてはいるのだろうが口を出すつもりは無いのだろう、ずっと沈黙を保っていた。

「わかったよ、ボクもハリュウがゆーちゃんと上手くいくよう手伝う、だからボクを助けてください」

 はっきりと、メイが自分の気持ちを言葉にした。

「よし、ハリュウ・メイ同盟の誕生だな♪」

「むぅ、名前は別にいいけどさ、なんかカッコ悪くない?」

 メイが不満そうに呟く、ただ表情は明るくなっていた。

「名前なんてオレ達しか知らないからいいだろ? それよりも早速今後の作戦を考えようぜ?」

 乗り気のハリュウ

「そうだね、時間も勿体ないしね」

 メイも、だからこそ急いでハリュウに相談したのだ。

「同志よ、やるからには必ず勝とうな♪」

「うん!」

 そうして、結成された同盟会議は夜遅くまで続いたのだった。

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