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第17話

「おそ~い! 私を待たせるなんて重罪もんよ?」

 待ち合わせ場所の中層ロビーには既に海里達が揃っていた。

「そうは言ってますが、海里姐さんも今さっき来たばかりですけれどもね」

 相変わらず上半身はほぼ裸のJが補足する。

 上層階ではドレスコード的にアウトな感じもするが、その辺は店主が裏でどうにか話をつけたらしい。

「それでそれで♪これからどうするのかな?」

 瑠沙が早速セイガの横にするりと入り込む。

「む……」

 メイの視線を知ってか知らずか瑠沙がセイガの手を引く。

 ここにいるのは8人、店主はいつの間にか消えていて、エンデルク達は部屋に残っていて参加していない。

「ええと、そろそろ船が出るからそれに合わせてファルネーゼの街を見てもらおうかと思ったんだ、それと船内をみんなで見て回れたらと考えてね」

 客船の前方、展望デッキに向かいながらセイガが説明する。

 セイガ自身もこの船旅を楽しむつもりで考えたプランだった。

「あはっ、それは楽しそうだね♪」

「船は3日くらい掛かるって言ってたよね、だったら退屈しないよう道中でも遊ばないとね~!」

 海里もいつの間にかセイガのもう片方の隣りに並んでいた。

 ユメカとしてはやや拍子抜けというか、ちょっとだけ寂しいような気分…

 そんなユメカはセイガ達より後ろでメイと一緒に歩いていたが、時折海里と視線が合った。

「?」

 ただ、海里からは特に何も言葉がなかったので、気にしないでいると、丁度船が出航する合図の汽笛が鳴った。

「わ♪ 動き出したよ~」

 待ちきれないようにメイが走って太陽の下へと駆け上がる。

『おお~~!』

 展望デッキから眺める港街ファルネーゼの姿は、とても綺麗だった。

 いつもは陸から見ていた街並み、海の方からだとまた違う趣きがある。

 朝だというのに、埠頭には見送りの人々が並んでいて、大きく手を振っている。

 セイガ達以外にも展望デッキには人が集まっており、その近くでは楽団が爽やかな演奏を披露してくれていた。

「ふふ、なんだか……見慣れた街を離れるのは、ちょっとしんみりしちゃうね」

 ユメカにとっては長らく暮らしている場所だけに感慨深いものがあるのだろう。

「…ユメカさん」

「レディよ、これは新しい旅のはじまり、美しい貴女の涙は似合いませんぞ?」

 ユメカに寄ろうとしたハリュウを押しのけてJがユメカの手を取る。

『あ!』

 セイガとハリュウがそれを見て声が揃ってしまった。

「ねえ、そんな女はいいからフランと仲良くしよ?」

 ハリュウの後ろから、フランがそっともたれかかる。

「う……柔らかいじゃないかよ」

 その姿は完全に美少女なだけに、ハリュウも混乱している。

「ハリュウって絶対見た目が良ければなんだっていいよね…」

 メイが少し離れた場所から面々を見ている、まだJが近くにいると怖いのだ。

 出来ればセイガの後ろに隠れに行きたいけれど、その場所は空いていない。

『メイ殿、不埒な輩からは某がお守りしますぞ』

 心配したのか巻物のマキさんがメイの前に出てくる。

 マキさんは普段はあまり会話には参加せずに見守っているのだが、今回は主の貞操の危機とあって、やや臨戦状態なのだ。

「……ダンケ、マキさん」

 俯きながらも、ささやかに微笑むメイ、セイガは客人をもてなすことに集中しているからか、そんなメイの様子には気付いていなかった。


 一行はひとまず、展望デッキから離れて、中層の商業エリアを散策する。

 ティル・ナ・ノーグ号の構造は大きく分けて操船と上級の客が利用する部屋、施設のある上層と中級客室や幅広い用途の施設がある中層、それから機関部や貨物や船員、下級客などのいる下層とがある。

 一番広いエリアが中層で、幾つもの飲食店や小売店、カジノや劇場などの娯楽施設、大浴場やプール、アクティビティなども揃っていてそれだけでまるで観光地のような光景が広がっていた。

「わぁ、パチスロもあるよっ☆」

 カジノの一角、様々な遊具が並ぶエリアでメイが目を光らせる。

「おいおい、お前パチスロってなんだか知ってるのかよ」

 メイがかつていた世界には到底無かったであろう機器だったので、ハリュウがやや呆れている。  

「うん、ワールド(こっち)に来てから教えて貰ったんだけど楽しかったよ♪ 当たりそうになると色んな演出が見れて面白いもん」

 様々な機種の中から、知っている台なのかちょこんと座っておもむろにメイがゲームを始める。

「別にいいけど飲まれないよう気を付けるんだな」

 軽く手を振り、ハリュウがその場を離れようとすると、メイが不意にその手を取った。

「……なんだよ?」

「あのね……」

 そのままメイが何かを口にするが、その場は大音量が流れていたため、他の人には何を話しているかは聞こえなかった。


 その後は各自、カジノで遊んだ。

 ビギナーズラックなのか、セイガが大勝ち、他の面々もそれなりに楽しんでいたが、ハリュウだけ大金を失っていた。

「くそぅ、なんでオレだけ?」

「日頃の行いじゃない?」

「ははは♪」

 ひとり悔しそうなハリュウを見てメイとユメカがからかう。

「……仲がいいんだね」

 そんな光景を見て、海里が隣りのセイガにそう言った。

「そう感じて貰えると嬉しいよ……俺にとって大切な仲間だからね」

 だからこそ、今回の案内役もこの4人で良かったと、セイガは思っていた。

「そちらの4人も、とてもいい雰囲気だと俺は思うよ」

「そうかな?」

 海里が薄く笑った。

「ルーサーは昔からダチだからそうだけど、『道化』や『魔獣』は本来はライバルというか対戦相手なコトが多いから、こうやって仲良しっぽくしてるのは不思議なんだよね」

 海里の視線の先では、Jがカジノのバニーガールに迫っている所を瑠沙とフランが背後で見ながら笑っていた。

 そんな無邪気な姿、だが本来この4人はシックストの実力者でWCSという競技で戦っている間柄なのだと、セイガは改めて感じた。

「確かに協力したら……セイガ氏達よりも、強いかもね」

 挑戦的な瞳だった。

「……俺達も、強いよ」

 セイガがハッキリと答える。

「あはは、アンタ達と対戦したら、面白いかもね♪」

「…それって」

「冗談だよ、一応私達正式なゲストとして第4リージョンに来ているから無駄な戦闘とかは禁止されているんだよね」

 先程までの微かな戦意を否定するように海里が大きく首を振った。

「そうなのか、まあ戦わなくてもいいのなら……それで問題はないのだろうね」

 セイガ自身も、つい戦闘になると熱くなってしまう性格なので、戒めるようにそう告げる。

「アレ?もしかしてワイ等とヤりあいたい?」

 そんなセイガの表情が面白かったのか、海里が試すように見上げてくる。

 黄と青、左右違う色の瞳、それはとても綺麗だった。

「確かに、俺は強くなりたい……けれど無理に戦いたくは、無いかな」

 今のこの、平和な光景を守りたい、そうその時のセイガは本当に思っていた。

 だから…

「奇麗」

 考え事をしていて、不意に海里が自分の頬に触れていたことに反応しきれなかったのだ。

「うわっ!?」

「あっはは!」

 からかわれたとセイガが気付いた頃には、海里はここにはいなくなっていた。 

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