第11話
その日も夏らしい、暑くて明るい吉日だった。
救いは潮風が強めで、湿度もそれほど高くはないこと、それでもそこにいる各自に軽く汗が見えるような状況の中、セイガ達は集合していた。
ここは学園内の一施設、飛行場だ。
長い滑走路が海辺へと続いていて、路面には陽炎が浮かんでいる。
予定ではもうすぐ、シックストからの航宙船が着陸する時間だ。
「あ~~~~ち~~~~~何とかしてくれよ、ホント」
みんなの意見を代表して、ハリュウが呻いた。
この場には案内人であるセイガ達4人、学園側から学園長と秘書のリンディ、レイチェルと幾人かの教師が並んでいる。
余談だが、大佐もこの学園の教師の肩書を持っていて、本日も同席する予定だったのだが…
「うっさい、これで満足できないなら凍らせてあげようか?」
急用が出来たので、代理でサラ術次長が参列していた。
一応、彼女は熱に関する魔法が得意なので、実はこの場も現在…周囲よりは数度、気温を落としていた。
「まあ、気分っすよ、確かに気温はそこまでじゃあないけれど、こんな環境で待たされてると愚痴とかも言いたくなりません?」
手を団扇のように振りながらハリュウ
ちなみに、ここには関係者以外にも、沢山の野次馬が集結していた。
ワールドに長くいる者でも、別のリージョンからの人間に会う機会はかなり少ないので、興味本位で集まった者が大量にいるのだ。
既に噂も色々飛び交っており、曰く
「今回の来訪の目的はスターブレイカーを倒すため」だとか
「第6リージョンから第4リージョンへの侵略の可能性がある」だとか
「スゲー美人のお姉ちゃん達が来るらしい」だとか
そんなこともあり、総勢100名以上の人員がここにはいた。
そして、予定より到着は遅れているようで、もう長い者は1時間以上、ここで待っているため、ハリュウ以外にも不満を言う輩が出始めていた。
「シックストからここまで、相当な距離なのだから多少は時間がずれても仕方ないと思うな、俺の知っている海外からの船なんて、数日遅れることも多かったし」
セイガはそんな風なので、気長に空を見上げている。
その視線の先に、ふと光が見えた。
「あ! アレってもしかして航宙船じゃないっ!?」
隣りのユメカが大きく手を上げて指差す。
「わ~、絶対そうだよ、なんか大きいもん」
「めーちゃんもそう思うよね♪」
ざわざわと周囲が沸き立つ、と同時に管制棟の方から着陸に関する放送が鳴った。
いよいよである、セイガは胸の高まりを感じていた。
それは近付くにつれ、形を判別できるようになる。
銀色の流線型の機体、後部には翼のような物を備え、徐々に高度を落としている。
轟音と共に底の部分から格納されていた車輪が現れ、滑走路へと……
『おお~~!』
航宙船は見事に着陸に成功し、そのままゆっくりとセイガ達、出迎えの待つポイントまで誘導されていく。
こうして近くで見ると飛行機をさらに細長くしたような形状だ。
航宙船はセイガ達の目の前で完全に停止する。
サイドの部分にはハッチらしきものがあり、息を呑む皆の前で、悠然と上下に開いた。
すると、セイガ達の背後から歓迎のものと思われるファンファーレが鳴り響く。
おそらく簡易魔法で奏でたものだろう。
それが終了すると同時に、ハッチから人の気配がした。
「……とうっ!」
陽光を浴びながら、紅い何かが空へと舞う。
それは、煌びやかな真紅のドレスを纏い、片手で王冠を押さえた女性……
彼女は綺麗に空中で一回転してから見事に着地を成功させた。
しかも、黒いハイヒールで、である。
その光景に自ずと拍手が起こる。
長くて燃えるような赤い髪、右目が黄色、左目が青のオッドアイ、その綺麗な両瞳がセイガを真っ直ぐに見ていた。
「ど~も~! シックスト出身、世界最強の『超高次元のスペルシンガー』こと
『龍宮殿 海里』です! よろしくっ!」
海里はビシッとマイクを振り上げながら観客を煽るような仕草で歓迎の者たちへと自己紹介をした。
そんな姿を見て、セイガは見た目よりも気さくそうな人だなと思った。
スラっと細いスタイル、顔立ちは圧倒的な美人で、その表情には自分自身への誇りがありありと見える。
派手な衣装のような服装、まるでおとぎ話の女王のような出で立ち。
でも不思議と高圧的なものは感じなかったのだ。
「今日はホント、ワイらのために来てくれてありがと~!!」
マイクを手にしたまま両手を振る海里、するとハウリングが周囲に起きる。
「わわっ」
「カイリたん、そのマイクは振り過ぎちゃダメだよぅ☆」
海里の手から、マイクが取られる、いつの間にかそこに居たのは、とても小さな女性、兎のつけ耳と白いショートブーツ、水色のフリルのついたワンピースを着た姿はとても愛らしい。
青みがかかった白くて長い髪、薄紅色の瞳はキラキラと輝いていた。
「海里たんの友達の『藤枝 瑠沙』です♪ 今回はシックストの代表のひとりとして来ました、よろしくお願いしますっ☆」
そのままぺこりとお辞儀をすると、再び拍手が巻き起こった。
それが鳴り終わるとほぼ同じタイミングでハッチから昇降機が垂らされ、ひとり降りてくる者がいた。
灰色の肌に緑色の足先まで届きそうな長い髪、細めの体に白いミニスカート姿が似合っていたが、胸元は不自然なくらい豊満で魅力的に映った。
すたすたと海里達のいるところまで歩くと軽く手を振る。
「フランはフランだよ♪ みんな、よろしくね~」
黄色い綺麗な瞳で皆を見つめる。
なにやら特に周囲の男性に向けて手を振っているように見えた。
どうも、可愛らしい女性だらけで、セイガとしては上手く自分が案内を出来るだろうかちょっと心配になってきた。
一応、学園で聞いた話ではとある武闘大会の優勝賞品として、第4リージョンへの渡航を希望したということだったので、観光目的とはいえどんな実力者が来るのか、セイガの闘争心が騒いでいたのだが……
「なんだか…予想の斜め上な面々だね?」
小声で隣りのユメカがいう通りだった、しかしそれならそれでまた、気を引き締めればいいとセイガは考え直すことにしたのだが……
「フォオオオオォ!!」
ハッチの奥から聞こえる声にセイガは一瞬、戦闘態勢を取った。
そこにいたのは……
身長はセイガよりも高そうな男性、切りそろえた茶色の髪に緑色の瞳、歳は30代ほどだろうがとても筋肉質な体形、黒いシルクハットと黒いズボンを履いている。
しかし、上半身は裸だった。
しかも綺麗に脱毛しているのか妙にツルツルしている。
ちなみに乳首の所には星型のニップレスをつけていた。
「うわぁ……変態だぁ」
ユメカが口にしてからハッとして両手で口を押える。
悪気は無いのだろう。
男は聞こえていたのか、しかし気にしていない様子だ。
「そう、ワガハイこそが変態であり紳士、どうか『J』と呼んでくださいませ!」
大仰に手を振り下ろすと、大きく頭を下げる。
その所作は確かに紳士的ではあった。




