ホシのカナタ
カナタって遠いこと。手を伸ばしても触れないこと。
ホシの家は賑やかだ。五十鈴の布団で寝てたら玉子焼き、朝ごはんの匂い。
一から六までごろっと兄弟、5合飯でもまだ足りない。ホシはまだ、食事の椅子に届かない。
カナタはどっさり家にある。
テレビの台もお菓子の棚も、下駄箱の真ん中から上も、洋服ダンスのハンガーも。
「ホシ、どした。何かとるか?」
「あん。たくあん。」
最初が返事で次はカナタだ。
四海ニイがぴらっと一枚、ホシのお茶碗に入れてくれた。
「五十鈴、俺にハムくれ。お礼として。」
「おあよ。」
五十鈴はホシの人だ。だから時々、こんなで朝から決闘だ。
四海の茶碗には梅干しが三つ。
「みっつはねーべ!」
「ハムもうない。」
言って最後のハムを食べながら、今日の五十鈴は、ぼんより、眠たげ。
ホシはカリコリたくわん噛み締め、耳を片方ぱたっと伏せて、両方の顔をパタパタと見た。撫で撫でと、三州のでっかい手が頭を混ぜた。
がっこへいく。五十鈴はホシの手を握って、道をゆっくり歩いていく。
五十鈴が一ならホシは三、歩幅のタララ、ト・タララ。ホシはとっても忙しい。
鳥が飛んでく。
茶色の雀。追えば五十鈴の周りを、きゅうとまるして、生け垣の向こうへアーチ。
五十鈴が、雀だ、と言ってホシに笑った。
尻尾ふりふり、嬉しの揺れ揺れ、ああカナタ。
あたまなぜなぜ、ほっぺをぺろりとしたいのに、五十鈴はカナタ、ホシの手にまだ届かない。
おっきくなったね、って皆が言うから、きっとごはんを、もっとたくさん、ホシならすぐに届くはず。
タンスや椅子は後でいいから、五十鈴のカナタに頑張ろう。
にこにこぱたぱた、今日も学校で、からあげ、たまご、もちろんハムも、たくさんもらってホシは頑張る。
「良く食べるなーホシ。」
「あん。」
五十鈴もほら、笑って。
ホシを待ってる。