那緒は三日月に笑う3
一晩、ゴロニャンと寝て起きて。
ワタクシは、高瀬の司のとこへ行く。
用意をしてる。
ジャーッ、ぷくぷくぷく、くつくつ。
厚焼きたまご。
一夜漬けのかぶ。葉っぱも美味しい。
お味噌汁は赤味噌。すこうし白味噌入れる。司は好きか、どうか。智久はどっちかどっち。
ソーセージも焼いた。
お豆ごはんに海苔。トマトにぶろこりバター醤油。たっぷり。
「勅使塚、頼むわ。」
「お任せ下さい那緒様。おかず、お味噌汁のタッパーはクーラーボックスに全て入ります。あちらに行ったらグリルと鍋で温め直せば完璧です!」
ふんふん。ご飯はまだ、ほかほか。
ご飯の冷めない距離だわよ。
ワタクシ、猫だけど。カールの看取りまで、朝ごはんから夕餉の支度、お家の事を、せっせと覚えた。カールは死ぬまで、最後まで、喜んでくれたわ。今でも、そうよ勅使塚と食べてる。
何でもやるわ。
"the way to a man's heart is through his stomach"
胃袋を掴め!ってやつ。
智久のおかあさん、やるなら那緒は、せっせと愛さねば。
身だしなみも、バッチリ。
カールは着物が好きだった。智久、落ち着いた、ワンピースならどうかしら。好きかしら?
割烹着も、ビシッと白よ。
勅使塚がえっちらおっちら。クーラーボックス。
ワタクシはおひつを抱えて、高瀬の家に、いざ!
キーキー声が叫んでる。
知ってる。あれは広丸の千代子。
ご近所中に丸聞こえよ。
縁側、ドシドシ踏み鳴らす音、近付いてみれば、猫たちを、箒でもってぶっ叩き、追いやりシッシと鬼の千代子よ。
だけど箒なんて痛くないもの。
猫たちは、ふわぁ〜あ、と欠伸なんてして、ちょちょっと避けては、ニシシシ、笑ってた。
「あ、ナオのボス。」
千代子を止めて、わたわたと、後ろから箒掴んで前に出て、司は猫たちに。
「やめて下さい千代子さん!……猫ちゃん!今は逃げて、逃げなさい!猫ちゃんたち!……猫は何も悪いことをしていないのに、叩いてまで追い払わなくても良いでしょ!」
「何言ってんのよ!ここは私の家よ!猫なんか入れさせないわよ!」
あれが司。
ヒョロリと長い背。メガネは丸だわ。和よね、和な顔。カールと全然違う。
だけど、ああ。
ぅなぁ〜うん。ビビビの尻尾。
ワタクシが、待っていた。
ナニカはここに、誰かはここに。
すすっと近づき、おひつを縁側へ。
「アンタ、何よ!この家に一歩でも……!」
「千代子さん!やめて!」
いいによいが、するわ。
あっあ〜んの、うっう〜んの、尻尾をフリフリしそうなによいが。
だけど。ワタクシは2度目だから、慣れているの。我慢が効くわ。
泣きそうな智久が、先よ。
智久は、猫たちを庇っている。
千代子と猫の間に、入っては叩かれ、蹴られて。
あんなに小さな背なのに。庇われた真綾は逃げて笑っているけど、ノラの小さな猫っ仔たちは、智久にひっついて、耳をピン、ふがぁ〜お!シャシャシャーッだわ。
「智久。よくがんばった。猫をありがと。」
ギュッと抱きしめ。
なーうん、ぺろりとほっぺを舐めた。
溢れた涙が、しょっぱくて美味しい。
「ワタクシ、那緒。猫のボス。智久、おかあさんに那緒はどう?」
「えっ?」
お胸に抱いてコロコロと。
ニシャシャと笑えば、智久は。濡れたお目々がキラキラと、ワタクシを見て、まん丸だ。ゆらゆら揺れて、海の満月だ。
「…なっ!アンタがなんで智久の!」
千代子は真っ赤だな。みにくい。
「千代子、ワタクシ、那緒。猫のボスよ。司、猫たちを招んでくれて、ありがとう。」
司の細い目。精一杯に丸く、細いのに智久と似てゆらゆら、お月様。
「あ、あ、ああ、いや、猫ちゃんたちが来てくれて、賑やかでウチは楽しいから、良いんだ。でも、その……。」
チラリ、押さえた千代子を見る。その顔は、もう、苦い煮干しのお腹を食べたような顔よ。
千代子、嫌われてるな。クフフ。
ワタクシは、ニッコリして司に言ったわ。
「那緒はボス。司と智久、高瀬の家、気に入った。お近づきな朝ごはん、作ったわ。この家、ワタクシの家とする。猫の陽だまり場よ。もう決めた。」
「なっ……!」
絶句の千代子を、ぐいっと引く。
ワタクシったら、メイン・クーンですもの。でっかい猫よ。暴力は好まないけど、力はあるわ。
「ぎゃ!」
ドンガラガッシャンどて。
「あ、あ、千代子さん!」
司がアワアワしてるけど、ワタクシ、猫だもの。ボスだもの。
雑魚の千代子なんて、オヨビじゃないのよ。
ガッ、と縁側、落ちた千代子の背に足裏。ドカンと乗っけてあらオホホ。ごめんあさーせ、弱肉強食。
「広丸の千代子。お前は広丸。司は高瀬。智久も高瀬。それで千代子のウチだとか?よくも言えたな、ほざいたな!ここは猫がいただいた!広丸の家に、ひんひん泣いて帰れ!」
千代子はかんかんの真っ赤だ。
だけど足裏離れない。もがいても、ドンのグリグリよ。
「ちょっ……いた、痛いじゃない!退きなさいよ!卑しいケモノのくせに!警察よんで!司!けいさつ!」
つかさ?司、呼び捨てですってぇ?
「お前が司をよぶだとか?ワタクシ、許さない。やるか、やるんだな?」
うなぁ〜おおぉぉぉううぅぅぅ。
ビン!と立った耳。
光るまなこ。
ゆうらり、ぶるりと振るう尻尾。
足下の、千代子に。ぐわあり覗き込む。んがあぁ。
真っ赤な千代子に真っ赤なワタクシの口の中。牙は白、キリリと尖る。
千代子は、ピッと怯えて、助けて!って叫んだ。




