那緒は三日月に笑う1
月に叢雲、夜の水飲み場。
地面が綺麗なタイルのそこは、ワタクシたち猫の、集会場なの。
しなやかでしょう。密やかでしょう。誰も彼も、飼いもノラも、足音立てずに、今日は何の話か、ってウキウキ、ひそひそ、忍んでくるのよ。
「おートウジュウロー。」
よく来た、ばんわ、ニャオ。
ナ、ナ、ナ、ナ。
挨拶飛び交う。ダラリとベンチに寝転がり、手枕ゆうらり、那緒は尻尾を揺らしてた。
魚屋の看板猫、真綾が藤十郎を呼ばわって、鼻と鼻をツンとつけ、挨拶、ニコリ。
「今日、高瀬の智久。可愛がりっこの、チョコと仲良しさん?」
「ダナ。真綾、サスガ。話はやい。」
藤十郎は、すっすっとあちこち手を振って、返事を返した。
那緒の前まで、月に照らされ、うっすら微笑み。こんな時の藤十郎は、面白い事を考えてる顔よ。
「ナオのボス。お願いにきた。」
なーぁうん。
言ってごらん、とワタクシは、頷いたわ。那緒はボス、雌ボスよ。
メイン・クーンて猫らしくって、センターでも、賢くって大きくって、温厚だね、ってお墨付き、カールのお家に来たんだわ。
カールはね、もういないの。
おじいちゃんだったから、初めて会った時も。
大好きよ、ってした時。
「あぁ、こんなムスメができちゃったら、死んで天国になんかいけないよ!」
って、泣き笑い。
面白楽しく暮らして、ありがとう、って眠るまで。そう、看取ったの。
カールはここ、日本の、諏訪見町が大好きだった。
漁師町よ。生まれた海を思い出すんですって。
最後がここで、そして那緒がボスになったと知って、ものすごく喜んでいたわ。
「Oh my goodness! 那緒がボスだって!?いやいや!そりゃそうだ、うちのムスメは賢くって美しい!立派なお耳も、ふさふさの尻尾も、相談すれば親切に考えて上手くやるところも、頼り甲斐があるものな!この町のどの猫だって一目おいてる!」
そういった訳なのよ。
執事の勅使塚は、那緒が夜、猫集会に行くのを心配して、ほら、あんな所で見守ってるわ。
「遺された那緒様を、次のパートナー様に無事にお渡しし、そしてそこでもつつがなくお過ごしになられますよう。お助けするのが勅使塚の生き甲斐にございます。」
なのですって。心配症ね。
でも、猫集会に近づき過ぎたら無粋だからね、って重々言ってあるのよ。
「ナオのボス。高瀬の智久、猫が貰う。広丸の千代子にキーッと言わせる。どうだ?」
なぅん?
手枕から起き上がって、仁王立ちの藤十郎に、鼻をツンと上げたわ。
「ふんふん。広丸の千代子。確かに、最近、猫にもっと酷いわ。広丸の旦那さん、猫に夢中だって?智久は、千代子の浮気っこ、優しの仔だっけ。」
「ニャオ。智久、寂しっこ。トウジュウローが預かった。猫がみんなで、可愛がってやる。そんでさ。」
智久の父親、司も、猫がいただく。
「浮気の家でデカイ顔、犬猫イジメにわがまま放題。そろそろシメて、仔っこを泣かせたツグナイさせる。」
面白いだろ、どうだ。
藤十郎がニシャ、と笑えば、猫たち皆、ニシャシャシャ、にゃおにゃお、と笑い合う。
「千代子、うざかったよな。」
「石とか投げる。」
「水ぶっかける。」
「叩く。」
「何もしてないだったのに。」
「広丸とこの猫も、イジメてるらしー。だから外に出さない、広丸のダンナ。」
「隠してんだ。大事にしてる。」
「知ってるけど。」
「知ってるけどニャオ?」
「色々やられニャンだぜ。そろそろこっちもやったろニャン。」
雄たちが腕組みすれば。
「智久、優しの仔よなぁ。」
「ウチの仔、迷子、送ってくれた。」
「転んで泣いたら、お菓子くれたよ。」
「ウチも。」
「ウチも、千代子が水かけ、智久がタオル。」
「千代子が智久、パシッしてる見た。」
「しょんぼりしてた。」
「かわいそう。千代子冷たい。」
「可愛がってやろ!智久、かわいっ仔!」
雌もニャゴニャゴ、お胸に抱いてやろ、と頷き合う。
「ナオのボス。どうか?」
ふぅむ。
ニシャアとワタクシも笑う。
猫ですもの。そりゃあイタズラ好きよ。
「智久もらう。司もらう。良いね。司も優しい雄だって?」
千代子さんが、結婚してるって知らなくて、お父さんがごめんね。
でもね、智久ができた事は、お父さん、すごく嬉しい。
智久が来てくれたから、全部良かったんだ。
お父さんが情けなくって、ごめんね。
「千代子の文句、智久に言わないらしー。」
うーん。
gentlemanね。智久が傷つく、母親の悪口言わないだわ。
「紳士は猫が貰うに相応しい。では藤十郎。」
「ナオ、ボス!」
ヒソヒソヒソ、ニャゴニャゴニャ。
猫の集会は大概、愉快な集会よ。
どうイタズラしてやろっか、ニャシャシャ!
笑いが止まらないけれど、ボスとしては、ニンマリ口の端、三日月ほどにカーブさせ、それじゃあみんな。
「智久と司は猫のものに!」
「「「「猫のものに!」」」」
ニャー!




