頭の固いヤン
ヤンはいやいや。いつでもヤン。とりあえずヤン。横にフリフリ耳もぺふぺふ。真っ先にヤンってゆっとく。
だって言う事聞いたら未散はおいてった。ヤンの事。
学校、大学の寮、アパートが狭いからって。
一緒に住めるらしいけど、大学に行ってる間、お世話もできないし、狭いのいやでしょ。いいわよね、ヤン。会いにくるから。
ヤン!
そんでそのまま帰ってこない。時々お電話くるかな。もう大学には行ってなくて、お仕事大変だってさ。
ヤンはヤン。
もう言うこときかない。
一人暮らし、さみしいわ、一緒にくる?って言うのだけど、また違う所に置いていくんでしょ。
なにもかもヤン。な気持ちにまたさせる気だ。
ヤンは縦には耳振らないよ。もうかまわないで、あっちいって。
ヤンにヤンって言わせないで!
「未散、ヤンの事どうするの?ずっと待ってるのよ。電話の前で、玄関に寝そべって、音を気にして、いつ帰るかいつ帰るか、って。」
「ええ〜?!だって、誘っても一緒に来ないって言うわよ、ヤン、ヤンってジトっとした目で。いつもそっぽ向いてるのに•••どうしたら良いのかしら。私だって会社で忙しいし、ヤンのご機嫌ばっかり、とれないわよ?」
ヤン!!!!
未散の何回目かの帰省の後で、ヤンは家出をこころみた。
心がすうすう、もう戻らない。
家族のおとうさんとおかあさんは、優しいけど、ヤンにごめんね、って言うばかり。
ひゅるり〜河原の風、ヤンの耳がそよぐ。
もう午前中からここにいるけど、誰も迎えに来てくれない。
「おや、かっこ可愛いわんちゃんだね。ノラちゃんかい?」
「ノラ違う。だれ?」
半目になる。ヤン、仕方ないけど応える。
にこ、とした郵便やさん。帽子を被って自転車で、チャリ〜キキー!と河原に止まった。
「お隣いーい?お弁当、食べさせて?」
飯田吾郎と言った郵便屋さんは、ヤンにお弁当のコロッケをくれると、ふんわりふんわりと撫でてくれて。
汗の埃っぽい、良い匂いがするな。
未散のお花みたいな匂いじゃないけど、クンクンってする。
「ノラちゃんじゃないのか。良いなあワンちゃんて。家出でもしたの?こんな所で。」
ドキ。
飯田だけだった。
ヤンが家出だって。ゆったのは。
お父さんもお母さんも。
ここにいない。
飯田が、自転車の後ろの荷台に乗ってお散歩しない?
ってナンパ。
ヤンは、ヤン!
って言ったのに。
チラリ。荷台でお散歩、楽しそうなんて思ってないぞ。
「ヤンか、ヤンか。そうか。まあ付き合ってよ?お願い。」
お願いなら仕方ないな。
ヤン、自転車二人乗り、面白かったねえ。って送ってくれた飯田は、お仕事良かったのかな。
でも、ぼっちで帰るの、ヤン•••。
お家は真っ暗で、誰もいなかった。
鍵もかかってた。
締め出しヤン。
「あれあれ、どうしたかな。ヤン、俺と待ってようか。」
「ヤン!お仕事だろ!帰れ!」
飯田は、ふりふり振り返り、からから自転車帰っていった。
お腹減ったな。
ヤン、ヤンって言ったから、お父さんとお母さんにも捨てられたのかも。
グスッと涙、なんかしてない。
鼻がツン。ヤン。ヤン。
こんなのヤン!
「あ〜まだいた、ヤン。お家の人、まだ帰ってこないのか。」
「飯田!」
クンクン。安心するにおい。
もう真夜中ってやつ。帰ってこないのはヤンじゃない。
ちゅんちゅん、鳥が鳴き出して、一緒に座っててくれた飯田は、ぐーってはらへりヤンの手を引いたから。とぼとぼ歩いてヤンは。
飯田のお家に行く事にした。
「ヤン、ご飯、袋ラーメンでいい?」
「ヤン•••。」
まあまあ、割と美味しい麺のやつ、高いのやるから、一緒に食べよう?
目を赤くした飯田が言うから、初めてヤンは、コックリ、頷いたんだ。
「ヤン!帰ってらっしゃい!!ご迷惑でしょ、交通事故で帰れなくて、ごめんねだったけど、そんなに拗ねないで•••仕方なかったの。」
「ヤン、さあ、お父さんとお母さんが悪かったから。」
ヤンの声はうるうる低い。
「どこ行ってた?お父さん、お母さん。」
グッと飲み込んで、お父さんとお母さんは、未散のところに行ってたとーーー。
ヤンを置いて。
飯田のところにいたら、未散がきた。
「ヤン。わがまま言わないで。私だって会社から休みもらって来てるんだから!時間もそんなにないし!時々、ウチに来ても良いから!時々なら面倒だって見られるわよ!」
「ヤン!!!」
ヤンは初めて未散を噛んだ。
やわがみだったけど、牙当たりして、痛かったみたい。未散は、ボーとして、手を押さえて、ヤン•••て。
飯田と未散は、犬保護団体に仲裁ってやつを頼んだらしい。
帰ってこいと未散は言うけど、ヤンはヤン。絶対にヤン!!!
だんたいしょくいんは。
「飼い主を噛むなんて、よほど信頼がない場合じゃなきゃ、ありえないです。飯田さんにヤンをお任せしては?」
と言った。
飯田は、ずーっと、黙ってヤンを撫でて、一緒にいてくれた。
未散は泣いたけど、もう知らない。
「ヤン、郵便局に一緒に行こうか。職場の皆に紹介するよ。」
「ヤン•••じゃない。良いよ。」
ヤンは飯田と自転車、雨の日も風の日も。キコキコ、お金を貯めた飯田がもう一台、自転車を買ったから、赤い自転車で帽子を被って、ヤンはお手紙お届けする。飯田と一緒に。
美味しいラーメン屋のお店も覚えた。
ヤンは毎日、たのしくなった。
ヤンはヤン。
もうヤンじゃない。
だけど、もうどこにも、飯田じゃない所に行くのは、ヤン!




