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諏訪見町のわんこたち、時々ねこ  作者: 竹 美津
わんこやにゃんこ達のお話:本編
16/24

頭の固いヤン


ヤンはいやいや。いつでもヤン。とりあえずヤン。横にフリフリ耳もぺふぺふ。真っ先にヤンってゆっとく。

だって言う事聞いたら未散はおいてった。ヤンの事。

学校、大学の寮、アパートが狭いからって。

一緒に住めるらしいけど、大学に行ってる間、お世話もできないし、狭いのいやでしょ。いいわよね、ヤン。会いにくるから。


ヤン!


そんでそのまま帰ってこない。時々お電話くるかな。もう大学には行ってなくて、お仕事大変だってさ。

ヤンはヤン。

もう言うこときかない。

一人暮らし、さみしいわ、一緒にくる?って言うのだけど、また違う所に置いていくんでしょ。

なにもかもヤン。な気持ちにまたさせる気だ。

ヤンは縦には耳振らないよ。もうかまわないで、あっちいって。

ヤンにヤンって言わせないで!




「未散、ヤンの事どうするの?ずっと待ってるのよ。電話の前で、玄関に寝そべって、音を気にして、いつ帰るかいつ帰るか、って。」


「ええ〜?!だって、誘っても一緒に来ないって言うわよ、ヤン、ヤンってジトっとした目で。いつもそっぽ向いてるのに•••どうしたら良いのかしら。私だって会社で忙しいし、ヤンのご機嫌ばっかり、とれないわよ?」



ヤン!!!!



未散の何回目かの帰省の後で、ヤンは家出をこころみた。

心がすうすう、もう戻らない。

家族のおとうさんとおかあさんは、優しいけど、ヤンにごめんね、って言うばかり。

ひゅるり〜河原の風、ヤンの耳がそよぐ。


もう午前中からここにいるけど、誰も迎えに来てくれない。


「おや、かっこ可愛いわんちゃんだね。ノラちゃんかい?」

「ノラ違う。だれ?」

半目になる。ヤン、仕方ないけど応える。

にこ、とした郵便やさん。帽子を被って自転車で、チャリ〜キキー!と河原に止まった。

「お隣いーい?お弁当、食べさせて?」


飯田吾郎と言った郵便屋さんは、ヤンにお弁当のコロッケをくれると、ふんわりふんわりと撫でてくれて。

汗の埃っぽい、良い匂いがするな。

未散のお花みたいな匂いじゃないけど、クンクンってする。


「ノラちゃんじゃないのか。良いなあワンちゃんて。家出でもしたの?こんな所で。」

ドキ。


飯田だけだった。

ヤンが家出だって。ゆったのは。

お父さんもお母さんも。

ここにいない。


飯田が、自転車の後ろの荷台に乗ってお散歩しない?

ってナンパ。

ヤンは、ヤン!

って言ったのに。

チラリ。荷台でお散歩、楽しそうなんて思ってないぞ。


「ヤンか、ヤンか。そうか。まあ付き合ってよ?お願い。」


お願いなら仕方ないな。


ヤン、自転車二人乗り、面白かったねえ。って送ってくれた飯田は、お仕事良かったのかな。

でも、ぼっちで帰るの、ヤン•••。


お家は真っ暗で、誰もいなかった。

鍵もかかってた。

締め出しヤン。


「あれあれ、どうしたかな。ヤン、俺と待ってようか。」

「ヤン!お仕事だろ!帰れ!」


飯田は、ふりふり振り返り、からから自転車帰っていった。


お腹減ったな。

ヤン、ヤンって言ったから、お父さんとお母さんにも捨てられたのかも。

グスッと涙、なんかしてない。

鼻がツン。ヤン。ヤン。

こんなのヤン!


「あ〜まだいた、ヤン。お家の人、まだ帰ってこないのか。」

「飯田!」


クンクン。安心するにおい。


もう真夜中ってやつ。帰ってこないのはヤンじゃない。

ちゅんちゅん、鳥が鳴き出して、一緒に座っててくれた飯田は、ぐーってはらへりヤンの手を引いたから。とぼとぼ歩いてヤンは。

飯田のお家に行く事にした。


「ヤン、ご飯、袋ラーメンでいい?」

「ヤン•••。」

まあまあ、割と美味しい麺のやつ、高いのやるから、一緒に食べよう?

目を赤くした飯田が言うから、初めてヤンは、コックリ、頷いたんだ。



「ヤン!帰ってらっしゃい!!ご迷惑でしょ、交通事故で帰れなくて、ごめんねだったけど、そんなに拗ねないで•••仕方なかったの。」

「ヤン、さあ、お父さんとお母さんが悪かったから。」


ヤンの声はうるうる低い。

「どこ行ってた?お父さん、お母さん。」


グッと飲み込んで、お父さんとお母さんは、未散のところに行ってたとーーー。

ヤンを置いて。


飯田のところにいたら、未散がきた。


「ヤン。わがまま言わないで。私だって会社から休みもらって来てるんだから!時間もそんなにないし!時々、ウチに来ても良いから!時々なら面倒だって見られるわよ!」


「ヤン!!!」


ヤンは初めて未散を噛んだ。

やわがみだったけど、牙当たりして、痛かったみたい。未散は、ボーとして、手を押さえて、ヤン•••て。


飯田と未散は、犬保護団体に仲裁ってやつを頼んだらしい。

帰ってこいと未散は言うけど、ヤンはヤン。絶対にヤン!!!


だんたいしょくいんは。

「飼い主を噛むなんて、よほど信頼がない場合じゃなきゃ、ありえないです。飯田さんにヤンをお任せしては?」

と言った。

飯田は、ずーっと、黙ってヤンを撫でて、一緒にいてくれた。

未散は泣いたけど、もう知らない。



「ヤン、郵便局に一緒に行こうか。職場の皆に紹介するよ。」

「ヤン•••じゃない。良いよ。」


ヤンは飯田と自転車、雨の日も風の日も。キコキコ、お金を貯めた飯田がもう一台、自転車を買ったから、赤い自転車で帽子を被って、ヤンはお手紙お届けする。飯田と一緒に。

美味しいラーメン屋のお店も覚えた。

ヤンは毎日、たのしくなった。


ヤンはヤン。

もうヤンじゃない。

だけど、もうどこにも、飯田じゃない所に行くのは、ヤン!

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