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諏訪見町のわんこたち、時々ねこ  作者: 竹 美津
わんこやにゃんこ達のお話:本編
13/24

ミルクのどこ


走る。走る。ミルクは走る。追われて走る。口に咥えたタオル地の、塞ぐ苦しさ、もさもさが舌にえぐっとなっても離さない。

家から出てきて何日か、おっきくぱんぱんだったお腹のミルクは、目をつけられた。

同じノラのクルヤが教えてくれた。あれは、あくしつペット業者なんだって。ペットってのが間違いだって、クルヤは言った。だって、こうして。

ミルクのお腹、混ざり合ったこどもが、ちゃんと生まれた。

ミルクは自分でしたい人とした。ぐっときゅんとぐるぐるなって、その人のことが欲しかったから。窓から入って布団に潜り込んだら、ひえっと言ってでも、ミルクの事を、そっと抱いてくれた。


嫌い、って言われちゃった。

もう会わない。でも、ミルクは後悔していない。


一緒に居たいのは、ミルクを育てた藤原のお父さん。ミルクの全部を持つひとだった。ずっと一緒にいると思ってた。

でも、ミルクが他所で済ませてくると、泣いて、泣いて、またミルクのお腹がおっきくなる度、泣いて辛くて仕方がないって顔をした。

その内、別の犬がきた。

もう、ミルクの事で泣かなくなった。


目が真っ直ぐ見えない。繋がらない。

それが分かってミルクは家を出た。


藤原のお父さんが、ミルクのお腹を見て泣いた、その気持ちと、同じにミルクはなった。でも仕方ない。だってミルクはしたい人としたかった。藤原の父さんが、ミルクとそれをしたかったなんて、ずっとずっと、落ち着く心地の良い匂いは優しかったから、思いもしなかった。


じゃあ、って、お腹が大きくなるまえ、藤原の父さんともしてみたんだけど、もうダメみたいだった。


だからいいんだ。

ミルクはしたいことをした。

お母さんだ。つよいんだ。


ミルクが蹲る、血とお腹の水の匂いがむっとする建物の隙間、その奥。

クルヤはご飯をくれに来た。お乳がたくさん出るように。

ミルクはふらっとなっては寝て、寝てはお乳をあげて、クルヤのご飯を良く食べた。こどもの尻尾は4本、1本だけ、ぐわんと大きい。似てる。すき。


こども服、おしめのパッケージ。どこからかクルヤは持ってくる。時々ミルクのほっぺを舐める。

こどもは毛布に包まって、キュンキュン鳴いて乳を探す。

あったかくて、ほっとする匂い。ふるふる、がたがた、まとめて集めて、もう寒くはないでしょう。

ミルクの泣いた気持ちを吸い取って、ぐんぐん日に日に大きくなる。


その4匹を、はじめてごはんを食べにそこを出た、ミルクの留守に、やられたんだ。


呼んだ。呼んだ。夜に遠吠え、どこ、どこ、どこ!

どこ、どこ!!

おあーあ、あおーうおうおう!


ひゃん、と遠くで声がした。車のドア、ごー、バタンと閉まる音。連れていかれる!


ミルクは走った。車のエンジン、ぎぎぎ、ぐぎぎぎ。るるるるん。

ドッ、と走り出すその瞬間に、窓からごわんと飛び込んで、運転席のしっちゃかめっちゃかを蹴り出して、ほら居た!ミルクのこどもたち。3匹抱えて1匹口に、ドア開けバッと走り出る。


いやだ、いやだ。だってきゅんきゅん泣いてるじゃないか。ミルクのだ。ミルクのだ!


ジグザグに走って細い道。車で追われてぜえはあ、脚がぬるっとしはじめた。血の匂い。指の爪は車のドアに引っ掛けて剥いだ。

滴る匂いが気になるけど、ひとはミルク達ほど匂いを知らない。だから大丈夫、たぶん。


木の匂い。立て掛け材木、その、壁と木の間につるっと入り込む。先へ、先へ、追いかけてくる、車を降りて、ひたひた、音がする、声がする、どこだどこだ、あの雌はどこだ、やっちまおうか、どうせ傷ものだし、邪魔だ。


ミルクと、ミルクの泣いた気持ちを吸ったこどもは蹲る。

木と木と木が、たくさんある、暗い部屋。ごそごそ、削り屑。ふー、はー、息に舞い上がる、木の乾いた匂い。コンクリートの冷たい床、だけど、冷たくない場所もある。古い畳が重なってる。

そこへ、そうっと身体を寄せる。

汗かいた胸に、こどもがきゅんと鳴いてお乳をふんふん探した。ふんふん、ふん。口がばくばく、もうそんな時間だった。

ミルクは服をぐいっとあげて、小さいのから抱き上げた。



「あら、赤ちゃん。と、お母さん?」

力さんの工場に、いらっしゃい?


低くて優しい声の人が、見つけてくれて。

ハイクロ、カンロ、ペパロニ、ソルティの4匹のこどもが大きくなって。ミルクに挨拶にくるようになるまで、木の匂いのおうちに匿ってくれるだなんて、ミルクは知らなかったけど。


「あらあら、可愛いわねぇん。力さんが来たからには、もう大丈夫よ!」


一緒にいたり、したりする人じゃなくても、ほっぺを撫でて、ほっぺをぺろりとしてくれる、人は、犬は、いるんだ。


ミルクは、後悔しない。

ミルクのどこを、ちゃんと。

八千代とこども、ちゃんと、見つけたんだから。


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