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諏訪見町のわんこたち、時々ねこ  作者: 竹 美津
わんこやにゃんこ達のお話:本編
12/24

クルヤのおうち:椎根とクルヤ:よっぱらっぱ

川に流されるおうちの記載があります。

苦手な方は、すみません、避けてやってください。



てんてん。と、てん。てん。


クルヤの家はトタンの屋根。

やねとやねとの間の隙間、クルヤの身体がふたつ分の幅。

隣はタバコ屋、もう一つの隣はたこ焼き屋。間のクルヤは、なんでも屋。


今日の雨は、お上品だ。


てんてん。と。てん。てん。と、てん。


台風の時。クルヤの家は、隣と隣の家の屋根から、どざっと水が集まって、ざあざあ川底の音になる。


どどど、どどどどどろろろろろ。どどどど。

ざざ、ざああ、ざざざああ。ざああ。


どばしゃーって感じの屋根打たれ。


たぶん呼んでる。

昔むかしの、お乳を分けた兄弟が、冷たくなって川の底。

まだ、目が開かないうちに流された。川の側のおうちにいた、誰かと、誰か。

むぎむぐ、あったかかったお乳の感じを覚えているから、きっと母さんも。

どっと来た時、大きな手、水の中。苦しい苦しいのクルヤを、ほっぽり投げた。

がんっ!とキラキラがきて、ぷつっときれた後、目が覚めたらもう、クルヤのお家は無かったらしい。流されたんだ。

時々、最後にクルヤを掴んでほっぽり投げた手を、思い出す。

ギュウっと握って、ひと掴み、ほんとに痛かったんだ。時々その、ぎゅっと痛いのが、欲しいような気もする。


てん、てん。と。てん。


ぼんやりしてたら、松坂のレツが来た。黄色い傘。長靴、ぶかぶか。てん、と、てん。

レツが、ぐいっと、差し出す布。


「えー?」 まーたぁ?


レツは家もあるし、一緒いっしょの人だって居るのに、よく抜け出して物を売りに来る。ムッとした顔で。

でも、それって、もってくる家のひとに言ってないから、クルヤは時々怒られるし。


「スカート?えー。」


食べられないものは、あんま売れない。特にこういう、ひらひらの。


「レツ着れば?」

「やだっ!絶対!!」 がーるるるるる。


レツは大人、大人のちびっこ。店番、座ってるクルヤと、立ってても同じ位の背の高さだ。パピヨンっていうのらしい。

木で作った、パタンと倒れたり出したりできるカウンターにこないだ、肘ついてガラガラガタン!と倒れて大暴れした。倒れるよって言ったのに。

自分が悪いのに、よく分かんないけど、いつも怒ってる。疲れないかなー。


「えー。またけんか?」


いつも怪我してる。今日のはなかなかすごい。強いのとやった、みたい。匂いも、うん。


「あー、ハイクロ?」

だな。ハイクロだ。勝てるわけないのに。ハイクロとやったって。

「があああぁぁーっ!おさけ!」


がんっ!とカウンター。またバタンて落ちたけど、今日はレツ倒れなかった。覚えたみたい。

おさけはダメだな。隣のおばあちゃんにもらった三角の、ころころっとしたのあげよう。甘くて、おちちでいちご、美味しい。


「なんで!お酒!!」

「あー、サービス。レツ泣くし、お酒ダメ。」


クルヤは出かけるし。スカート、売れないし。


「乳めぐり!?」

「おー、そー。乳めぐり、ね。」


くんくん、いい匂い乳めぐり。きゅんきゅん、ちっちゃいこども。かわいくてすき。クルヤも産めたら良かったのに。

女の子ナンパしてみたけど、ここのお家狭いから、こどもここで産めないって断られた。

うーん。お家のある子は難しいし、うーん。クルヤはほんとのとこ、こどもはいくらかいるんだけど。

センターに協力、ってやつで、わかんない機械で、ぶるぶるってすると子供のもとが出る。

お金すごくもらえる。

クルヤはどうやら、いい血の犬らしい。シュナウザーっての。書類、流されちゃって、わかんないんだけど。

ほんとはこども、ひとりほしい。って言ったら、センターの針谷さんが、おかねと、おうちと、あとこどもに好かれること、って条件を出した。


クルヤは商売やってるけど、そんな上手くもない。


ぶるぶるってするのは繁殖期の年二回だから、こども、ひとりくるにはあと5回位ぶるぶるしなきゃなんない。

でも、ぶるぶるする時、なんでかあのぎゅっと痛い手を思い出して。弾けるみたいな胸のなか、それからつつうと鼻のなか、しんとしてくるから。

がっかり尻尾が垂れて、痛痒くって、あのあと、なんもする気なしーってぐったり、耳もダレダレ。勇気いる。

女の子とする、柔らかくってほんわり気持ちいいのと、全然違うくって。すごくがっかりする。


「••••••あー、レツー。」

「レツも行くっ。」


レツの耳垂れ。

怒ってばっかりのレツは、あんな感じのがっかりが、たくさんくるんだと思う。それで、すぐまたゴワンと怒るのがくるんだろう。やっぱ疲れそうだなー。


「うん、うん。」


じゃあ、一緒いくかあー。


レツの横、ぱしぱし雨の粒。髪を濡らす、匂い、生きてる。きもちいい。

ぴたぴた、落ちる雫、レツは黄色い傘で避ける。いやな顔してる。

さくさく歩く、ときどき、ぶるるってすると、黄色の傘が、きゅって縮まる。おもしろい。


「冷たい!」

「あー、うん。いーいきもち。」


くすくす。楽しいと笑っちゃうね。レツも濡れればいいのに。


ほんとのとこ、お金がたまっても、あの家を出るかはわかんない。

てん、てん、と。てん、て呼ぶ雨の音、兄弟が、挨拶しに来られなくなるかもだから。

クルヤが、ちゃんと、楽しんでるかどうか、時々、見に来てくれるんだとおもうから。


「もー!」


レツはぶつぶつ。

ぺろんと舐めたら、ひゅっと縮んだ。

隣町のミルクの、二度目のこどもがあったかい部屋のなかから、ひゅんひゅん寄って、雫をたくさん舐めてくれた。

そのときも、レツはうえーいって顔してみてた。


あったかいのと、つめたいのと。

ほんとはどっちも、同じところから来てるって、レツはどうして気付かないんだろう?

クルヤはどっちも、大好きなんだけどもな。


***



そんなこと言ったって会っちゃった。

椎根に。

クルヤの、うああぁんに。


「お店。どうするの?」

レツがうがうが。クルヤはほわほわ。椎根。埃。湿り、黒いあの服、火に乾いてく、クルヤの血。

思い出しては。

「うあああ•••ん•••あー。」


何がクルヤの中に。

入ったのかな。

虫みたいなの。ぞわぞわするの。

火と人ひとと。


椎根の匂いを思うとき、クルヤはゾッとびりびりと。使い物にならないわんこ、溜め息、でもね。

クルヤみたいなおっきいのは、喜ばれないって。

ごめんって。


「あー。ごめんねって•••。」

椎根、言ってた。しゅん。

「があ!あいつやだ!レツはやだね!」

だからいいじゃん、ごめんねでもいいじゃん、てレツはそんなで。


だからってでも、クルヤの中にはもう、何かがあって、どんどんざくざく、椎根の形に削られていく。


どこもかしこも。

あっちもこっちも。


滅茶苦茶なんだって。レツも知ってる癖に。


「あっ椎根!」「わうっ!!」


ああん。尻尾振れちゃう。どきどきやきもき。ああああん。


べしっ

「きゅん!」

「•••恥ずかしい。声に出てるから、クルヤ。」

椎根。叩かれた。耳垂れ尾垂れ。ひんひんと。


「だから声に出てるって。あー。」


唸ったあと、椎根は言った。


「あのさ••••••家出してきたんだけど、•••泊めてくれる?」


クルヤの尻尾は振れすぎて、空の彼方に飛んでった。




***



「もう。クルヤ!止めなっ!」

「あー。やだよう。やだやだ。」


いつもと逆、レツからダメ出し。

ばたばた。やだやだ。

クルヤの家に椎根がいる。

椎根はクルヤとくっついて、ふーかふーかと眠っては、学校へ行く。

「やだあ!」


何がやだって、何もやな事がないのがだ。椎根はいい子で、しつけもきちんと、部屋の隅っこ丸まって、クルヤの邪魔したりなんかしない。


「なにがやだよ。」

「うわん。寂しい。」


寂しい寂しいのわんこ。ワインらっぱっぱ。部屋が一緒だって、こっち向いてくれないんじゃ。

「一人みたいなのクルヤ。椎根いるのに。わんゎん。」


「ふーん。」


ぐびり。

レツもらっぱっぱ。

「さいすけらって全然ダメだもんれつのことわおーん!」


ひあーん!

いきなり泣き出すわんこが二匹。

昼間っから店のまえ、でも椎根帰ってくるんだよな、ってクルヤはやっぱ、片付けよ、なんて台拭いたりして。わおーん。


午後3時までの酔いどれわんこ飲み会だった。


椎根にバレて、ぽこり。頭にげんこ、耳垂れクルヤは、えへへと笑った。




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