シスコン令嬢は妹の婚約者を許さない。
ここはムーン帝国。私は、ムーン帝国にたった二つの公爵家の長女、ディーナ・ルッツだ。弟もいるため家を継ぐ必要もなく、社交界の陰口にうんざりした私は、学園を卒業してすぐ、学園で見つけた仲間とともに旅に出ていた。そして私は、学園に通っている間隙あればダンジョンに潜っていたため、たまーに、ほんとにたまにダンジョンに潜った後の真っ白な制服がきれいに魔物の返り血に染まった姿で授業に出席していたからなのか、はたまた妹をナンパしたどっかの侯爵令息をぼっこぼこにしたときなのかはわからないが、いつの間にか「赤薔薇令嬢騎士」と呼ばれるようになった。
それはそうと、私は妹を溺愛している。妹の名前はティナ・ルッツ。夜空を思わせる真っ黒な髪に、きれいな金色の瞳。少しの吊り目が威厳を滲み出している。
男、と呼ばれる私とは正反対の淑女。礼儀作法も完璧で、論理的で客観的に動き、正しいことは正しいという。だが、普段は乙女なのに大事な時や有事は上に立つものとしての威厳を滲み出す姿に、「白薔薇令嬢」の異名がついている。
今は、ムーン帝国の学園、シード学園の卒業パーティで、美しく咲き誇る本当に白薔薇のような妹のダンスを見ながら、妹がこの場所で踊る最後のダンスを楽しんでいる。ダンスが終わり、妹の方へ向かおうとした、その時。
王太子アランの大きな声がこだまする。
「ティナ・ルッツ、そなたは婚約者である私と親しいからと言って、ティアラをいじめたな。よって、そなたとの婚約を破棄する。そして、新しくティアラと婚約を結ぶのだ!」
ピンク色のふわふわした髪に、露出の多いドレス。そして王太子の腕にしがみつき、ブルブルと震えている。まるで小動物。それも妹のような賢い感じではなく、バカですぐ捕食される方のようだ。
冒険で研ぎ澄まされた感覚で、それが演技だとわかる。私のかわいいかわいい妹よりこいつがいいと?
私の中で、何かが切れた。
「お前は馬鹿か。私の妹がそんなことをすると?そこの弱っちい女に洗脳でもされたのか。そもそもそんなやつ、いじめる価値もない。」
頭の中で思っていたことが、つい口から出てしまった。
私のかわいい妹が、あんな小物をいじめるはずがない。
昔から妹の性格も知っているだろうに。バカでクソでアホな王子には、わからないのだろうか。
私が言ったところで妹を見ると、私には嬉しさと呆れが混ざった表情を、バカ王子とバカ女には軽蔑の目を向けていた。さすが私の妹。三人兄弟の一番下にして5個も上の兄を尻に引いているだけある。
「アラン様、怖いです。」
ブルブルと震えるゴミ。私の剣幕に一瞬怯んだバカクソ王子。
「ふっ。姉妹揃ってティアラをいじめるとは。」
お前は幼少期からのティアラを忘れたのか。
「王子、頭がおかしくなりました?幼なじみで姉貴分である私が、直々に直して差し上げましょう。」
次の瞬間、私は王子を殴り、糞女を睨んでいた。
一応、女は殴らない。
「ふ、ふ、不敬罪だ!」
「そうですわ、王太子であるアラン様を殴ってただで済むとでも?」
うるさいクソどもがなにかさえずっている。
と、ここで王族の登場を告げるラッパが鳴る。
「第二王子、フェイ殿下の御成ー。」
私の婚約者にして冒険パーティーのメンバー、第二王子フェイの登場だ。
ーフェイは、会場に入ってきた瞬間に、
怒り狂う婚約者、苦笑いを浮かべる婚約者の妹、
無能な兄と共にブルブルと震える女。全てを悟り、兄のことはスパッと切り捨てて、怒りがマックスに達したディーナに話しかける。
「で、婚約者殿、なぜ兄上を殴ったのかな?」
ーお前はわかるだろう!なぜこんなところでおちょくる!?
意趣返しでもしてやろう。
・・
「殿下、見ればわかりませんか?そこの勘違い王太子、
・・・ ・・・・
アホンがわたくしの妹を愚弄しましたので殴ったまでですが?」
昔から私達が公の場でも愛称で呼び合っているのは周知の事実だ。おうおう、なんか言いたげな顔をしている。大満足だ。
「お、おい、王太子ある俺に向かってアホンとはなんだ!ふけ」
私の短剣が舞った。アホンの髪がハラリと落ちた。が、それがなかったかのように短剣はもう一人のパーティー仲間が魔法で消した。
「まあ、ディーがここまで怒ることはそんなにないからね。それで兄上、申し開きはありますか?閣下がいないところで勝手に決めた婚約破棄、あまりよろしいことではないのですよ。しかも公爵令嬢と婚約破棄して選んだのが男爵令嬢で、悪い噂が絶えない方だとは。身分差の恋は別にいいですが、あなたは王太子ですよ?立太子が済んださ瞬間のこの出来事、あまりよろしくないですよ」
よろしくない、とは立場が危ういということだろう。
「ええ、よろしくないですねえ。本当に。」
と、ここで宰相の息子にしてもう一つの公爵家のアーク家長男、ルークが口を挟んだ。ルッツ家は建国当初から存在する公爵家である。だがアーク家は、元々侯爵だったのだが、先先代の皇帝の妹が輿入れする際、身分をあげるために公爵家なったのである。
なのでルークにも王位継承権があり、継承権を破棄したフェイに代わり王位継承権第二位である。
この男、至極優秀であるのだが、昔からティナを狙っているため好かん。
「今の皇太子殿下が置かれている状況は本当に危うい。
公爵家の権威を使い立太子したにもかかわらず、それが済めばすぐに婚約破棄。更に閣下には無断。それに加えて新しい婚約者として選んだのはティナ様には全く劣る男爵令嬢。ええ、本当によろしくないですねえ。」
よく言った。それでこそこの国の時期宰相。まあ、むかつくが。
だが、勝ち目がないことは普通のやつならわかるはずなのに、口を挟むのはゴミ。
「そんなことないわ!それに、ティナさんは私が可愛くて、希少な光魔法の使い手だからアラン様が親しくしてくださるのを嫉妬していらっしゃるのよ。ルーク様、わかるでしょう?」
上目遣いでルークを見上げるゴミ。ぞわっとする。冷ややかな目で見るルークに気づいてすらいないのか。しかも、その言いようではティナが可愛くないようではないか!
いくら女といえども、堪忍袋の尾がそろそろ切れそうだ。
「あー、大丈夫かな?そろそろそこのゴリラディーナが限界っぽいけど」
ここでもう一人話に口を挟む。
この国の魔法省のトップである大魔導師の息子にして私のパーティーメンバー、侯爵令息のカリードだ。さっき私の短剣を決して、証拠隠滅してくれたのもこいつだ。
だが、聞き捨てならぬ言葉が。おぬし、ゴリラといいおったな。覚えとけよ。全ての怨念を乗せてひと睨みすると、カリードが思いっきり尻込みする。まあ今は一旦それは置いといて。
目の前の愚物たちをどうしてくれようか。と、前に目を向けると、ブルブル震えている愚物が一匹、愚物が二匹。
さあ、どうしてくれようか。ここでボッコボコにして今すぐ逃げたらワンチャンセーフかも?ていうか、私って世界最強だからみんなある程度気絶させれば王国乗っ取れるんじゃ。なんて危険思考になり出したところでフェイが止めに入ってきた。
「ディー、また物騒な事考えてるだろう。もしかして、この一件だけで王国乗っ取ろうとか考えてないよな。」
えへへ、そんな事ないですってー。
「図星だったか。」
ちっ、ばれた。
次の瞬間、ドーンと音がして入口が開く。
「だめだからな!まじでやめとけ、そんなことしたらティナが姉さんのこと嫌いになるって!」
遅い!この愚弟が。
やっと来たのはティナの尻に轢かれ、私にパシられいる次期公爵で弟の
ジュン・ルッツである。
「これでもう役者は揃ったな。さあて、兄上。お覚悟を。」
リーダー格として言葉を発したのはフェイ。楽しい楽しい断罪劇の始まりさ!
「まず、状況を確認させていただきます。アラン王太子殿下は、ティナ・ルッツ公爵令嬢との婚約破棄を望み、そちらのティアラ・ノック男爵令嬢との婚約を望んでおられます。理由は、根拠がなく、一方的ないじめの証言のため。」
と、ルークが状況説明をする。次期宰相なだけある。気に食わんが。本当に。
「尚、今回のことに関して皇帝閣下は、私たちの世代の王のことなため、私たちに判断を任せる。だが、自分の息子が悪いことは明白なので、こちらの有責ということでティナ嬢との婚約を白紙とし、愚息の処罰はティナ嬢、ひいてはルッツ公爵家に任せるというというお言葉を預かっております。」
閣下がちゃんとしたお方でよかった。危うくこの国がなくなって、ルッツ公国?になるところだった。そして、すかさずティナがとどめを指す。
「では。アラン殿下は次期王に相応しくないとして廃位。お連れ様と2人で平民に身分を落として頂きます。本音を言わせて頂きますと、貴方は無能でゴミでクズです。貴方への愛なんて、微塵も残っておりませんわ。さようなら。」
ティナが言い切った後、周りの貴族たちの冷たい視線に見送られながら、アホンは魂が抜けたようにして退室していった。ゴミはギャーギャー叫んでいたが。
時は進んで一年後。
新たな後継者にはあのルークがなり、やはりというべきか、ティナが婚約者になった。悔しい。本当に。ものすんごく。
だが、ティナが幸せそうなのでよしとする。泣かせたら殴りに行くが。
ちなみに私は今、旅に出ている。パーティーメンバーは、私・フェイ・カリード・カリードの婚約者であるリナ嬢の4人。
私とフェイが前衛。カリードとリナ嬢が後衛である。こうして、ムーン帝国は守られたのであった。ん?愚物か?しらん、風の噂で平民になってすぐ借金を背負いまくって破滅したそうだ。
ちゃんちゃん。
初投稿です。誤字脱字などが多発すると考えております。アドバイスなどは大歓迎ですが、アンチコメは倍返しにいたしますので。