盤石を約束する猫令嬢は、厄介払いの末に悪しき永遠となる
「はぁ……………………残念だよ、ディアーネ」
婚約者のため息が応接間の空気に溶けて消えていきました。
わたくしの名はディアーネ・マルレーン。
マルレーン男爵家の長女であり、王国屈指の美男子と名高い、グレイム伯爵家の次期当主であらせられるウィルワード・グレイム様の未来の伴侶でもあります。
で、何がどう残念なのかわかりませんが、わたくしはそのウィルワード様にいきなり伯爵家の屋敷に呼び出されていきなり応接間で失望されてしまいました。
寝耳に水すぎて何が何やら理解が追い付かないのですが、彼の話を聞くだけ聞いてみましょう。
それにしても、紅茶の一杯くらいお出しになってくれてもいいと思いますけどね。
「まさか、君があの聖女リリエルを毒殺しようとしたとは。開いた口が塞がらないよ」
「何の話ですか?」
前置きもなく切り出された失望の内容は、まるで身に覚えがありませんでした。
それにしても、聖女の毒殺とは穏やかではありませんわね。
「そうだね。君の立場としては、そう答えるしかないか」
……あらあら、いたって真剣な表情で告げているつもりなのでしょうけど、口の端が吊り上がっていますわよ?
婚約者を断罪する悲劇の御曹司を気取りたいなら、せめて悲しみの仮面くらいはきちんとかぶりなさいな。これだから顔しか取り柄のない男は……
……などと呆れている場合でもないですわね。
これはつまり、どこかの誰かさんの色香にたぶらかされて、わたくしが邪魔になったという事かしら。
思い返してみれば、先月辺りからウィルワード様のわたくしへの態度が明らかに素っ気なくなりました。恐らくその時期に浮気の虫がうごめきだしたのでしょう。
いえ、素っ気なさで言えば以前からでしたけど。
あまり感情を表に出さない……良く言えば寡黙、悪く言えば陰気な性格のわたくしに、初対面の時からあまりいい顔をされてなかったものね。
こちらとしても、美貌以外に褒める要素が薄いこの方に対して、色恋沙汰に興味の薄いわたくしとしては好意を持ちたくても持てなかったから、お相子というか似た者同士ねと、自嘲していました。
そもそも、わたくし達の婚約も、元を言えば、事業に失敗して落ち目になった伯爵家が父の代になって大きく勢いづいた我が家と縁を持ちたいという、下世話な言い回しをするなら夫人の実家の財産目当てで組まれたのだから、この方がわたくしに良い感情を持たないのも当然でしょうけど。
猫背気味な見た目から『猫令嬢』と家族にも揶揄されていた、わたくしのような娘を強引にあてがわれては尚更ですわね。
「心当たりがなければ、誰でもそう答えると思いますけど。町娘でも姫君でも」
わたくしとの婚約が決まるまで、顔の良さと伯爵家の威光によって常に周りに女性をはべらせていたこの方の我慢も、ついに限界を迎えたのでしょう。
無理やり罪を着せてでも、わたくしの夫になる残酷な運命から逃げ出したいと。
「悪いが、とぼけて逃げ切るのは流石に不可能だよ。証拠は全て出揃っている」
でっち上げを積み上げたの間違いでは?
「証拠はともかく、どのような理由があって、わたくしが聖女の命を奪おうとしたというのですか?」
「それについても調べはついているよ。君が聖女の地位を彼女から奪い、新たな聖女となろうという邪な計画を企てていたと。君にもささやかながら癒しの力があるのは僕だけでなく皆が知っていたが、高望みしすぎたね。未来の伯爵夫人の座だけでは満足できなかった──ということかな?」
緩く波打つブルーの髪をかき上げ、ウィルワード様がこの状況にふさわしくない優雅な笑みを見せつけてきました。華麗に決めてやったとでも思っているのでしょうか。
その勝ち誇った顔には、婚約者への憐憫などこれっぽっちも感じられません。
「確かに貴方の言う通り、わたくしには、生命に関わる特別な力が生まれつき備わっています。けれど、聖女の地位など一度たりとも求めたことなどありませんわよ?」
怪我をした使用人や、体調を崩した友人を癒してあげたことは何度かありましたが、その善行を殊更にひけらかしたり、ましてや聖女のように振る舞ったりしたことなど、ただの一度もなかったと断言できます。
「何とでも言いたまえ。舌先でどう取り繕っても無駄だよ。……兵よ、この者をただちに捕えよ! 聖女暗殺の首謀者、ディアーネ・マルレーンを!」
ウィルワード様がそう声を張り上げると、応接間に鎧で身を固めた兵士たちがずかずかと入り込み、わたくしの両腕を左右からガッシリ掴みました。
廊下に待機させていた辺り、有無を言わせず最初からわたくしを捕えるつもりだったのでしょうか。普段は短絡的なのに変なところで用意周到ですのね。
「……一応、お伺いしますけど、このような真似をしてよろしいの? わたくしへの託宣のことは貴方もご存知でしょう?」
「知っているさ。君が産まれた時に老神官が天から受けたという託宣──『この娘は不変にして永遠たる者。この娘がいる限り全ては盤石となる』だろう?」
あら、覚えていらっしゃったのね。
貴方の乏しい記憶力では無理かと思っていましたのに。
「しかしだ。君が僕のもとに差し出されたということは、君の実家である男爵家も、その言葉にさして信憑性がないと確信していた……ということじゃないかな?」
信憑性ではなく、わたくしの、貴族の子女らしからぬ野暮ったい見た目で判断しただけだと思いますけどね。
託宣というものをそんな軽視して大丈夫なのかしら。まあ、この方からも男爵家からも捨てられたわたくしが心配する事ではありませんが。
「これ以上の問答はただの時間の無駄だ。名残惜しいが、お別れだよディアーネ」
婚約者への最後の言葉が、皮肉混じりのそれですか。
兵士に両脇から抱えられ、わたくしはその清々したと言わんばかりのウィルワード様の冷めた美貌に愛想を尽かしながら、応接間から連れ出されていきました。
──そんなこんなでわたくしは手早く裁判を済まされ、弁解もむなしく有罪となって投獄生活の末にギロチンにかけられることになったのです。
まだ一七歳の汚れなき乙女の身で処刑台の露と消えることになるなんて、夢にも思っていませんでしたわ。
実家である男爵家がほとんど食い下がらなかったのを見るに、どうやらお父様たちもわたくしをこの世から厄介払いしたかったようですわね。無理もありませんけど。
託宣込みでもなお、わたくしを家の汚点としか思えなかったのでしょうね。血の繋がりってなんなのかしら。
処刑当日。
王国首都の中央広場には、聖女暗殺を目論んだとんでもない悪女、つまりわたくしの処刑を一目見ようと、大勢の市民が足の踏み場もないほど集まっています。
その中には遠方からはるばる来たおのぼりさんも結構な数がいるようで、まるで国を挙げてのお祭り騒ぎですわね。実際、出店もいっぱい出てますし。
人の首が血を吹きながら胴体から切り離されるところが、そんなに見たいのかしら。
「……良き魂、良き隣人として、栄光にきらめくエスタガスの地に再び帰らんことを祈る」
略すると『生まれ変わったら善人としてこの国に戻るように』という、神官さまの、涙が出そうなくらいとってもありがたく無駄に長い祈りの後、いよいよ、わたくしの最期の時が訪れようとしていました。
「何か言い残すことは」
ギロチンの縄を切り離す処刑人が斧を片手に、汗や埃で汚れきったボロ布のようなワンピースだけ着せられているわたくしに、棒読みでそう聞いてきました。
今際の際の発言を一言一句漏らすことなく、伝えたい対象に絶対に届けることが許されるのが、処刑される者の唯一の権利なのだとか。そんなしきたりがあったなんて初耳でしたわ。
さあ、男爵家に生を受けし薄幸の猫令嬢、ディアーネ・マルレーンの人生も、これで一巻の終わりとなります。
貴族の子女としてこの世に生まれ落ちても、最期はあっけないものね。
「お待ちください!」
この後を考えると遺言を残す意味などないので黙っていると、あまりにも場違いで可憐な少女の声が、処刑場と化した中央広場に響きました。
広場に設置された処刑台の上、木枠で固定されてあまり動けない首をどうにか曲げて声の方向を見ると、そこにいたのは誰であろう、聖女リリエルその人でした。
頭にかぶっているフードも上着もズボンもコートも、何もかも青一色の質素な服装ゆえに、清廉なる青という呼び名も持つ、善意の化身のような少女。
聖女の横には、かつてわたくしの婚約者であったウィルワード様と、見慣れない令嬢の姿もあります。
ははん……。あれがわたくしの後釜ですのね。
確かにウィルワード様の好みに沿った、甘え上手で甘ったるい顔で、砂糖菓子にハチミツをたっぷり垂らしたような雰囲気を漂わせています。
どちらが聖女に毒を盛ったのか、あるいは共謀か。そこだけはちょっと気になるところですわね。
「生死の境こそさ迷いましたが、私はご覧の通り無事です。ですから、ディアーネ嬢の処刑だけはどうか許してあげてください。私が天の慈悲で命を救われたのなら、彼女もまた命だけは救われるべきです。どうか、どうか……」
処刑台に登ると、床に跪いて祈るように両手を合わせ、聖女様がわたくしの助命嘆願をこの広場にいる全員に、涙ながらに訴えました。
自分の命を脅かした者すら愛をもって救おうとする美少女。
その悲痛なまでの純粋な懇願に、集まった市民は誰もが感動し、大粒の涙を流してむせび泣く者も無数にいました。
ウィルワード様と新しい恋人は、苦虫を噛みつぶしたような顔をしてましたけどね。
余計な慈悲をかけたせいで、後々この件を蒸し返されるかもしれないと恐れてるのかしら。小心者のカップルですこと。
「いらぬお節介ですわよ」
「えっ?」
ぽかんとした顔で、青ずくめの聖女様がギロチンの木枠に固定された無様なわたくしを見つめました。
当たり前といえば当たり前ですが、拒否されるなどと欠片も思わなかったのでしょう。
「貴女の慈悲にすがるほど、わたくしは安くありませんわ。さあ、処刑人さん、早くバッサリやってくださらない?」
「な、なにっ」
罪人が恐怖に震えるどころか、涼しい顔で首を落とせと命じてくるのには処刑人も面食らったらしく、さらに聖女の懇願の件もあって、どうしていいものか斧を持ってオロオロしているようでした。
「できませんの? 肝心な時に動揺するなんて、処刑人なのに肝の据わりが足りませんわね。なら、わたくしが自分で終止符を打たせてもらいましょうか」
その宣言通り、わたくしは自分の力を縄に向かって放つと、その太く丈夫な姿があっという間にみじめに枯れ果てていき、鉄の巨大な刃をわたくしの頭上に留めておけなくなりました。
その結果──
──なんとも小気味いい切断音が聞こえると、わたくしの細い首はきれいさっぱり胴から離れ、籠の中へとどさりと重い音を立てて落下しました。
……思っていたよりも一瞬で済んだ出来事だったのか、別に痛くありませんでしたわね。刃が首を通り過ぎる時に、ひんやりした気がするかなという具合でした。
これが、人間としてのわたくしの他愛無い終幕です。
そしてこれこそが、しがらみから解放された、まさに生まれ変わったわたくしの華々しくもおぞましい幕開けでもありました。
「ぐっ!?」
まずは、もっともわたくしから近い位置にいた処刑人が、栄えある第一の犠牲者となったようです。
「あっ、あががっ、はひっ、ひひいいぃ……!?」
じわじわとそのたくましい壮年の肉体がしぼみ、老いさらばえ、乾物のように縮んでいきます。籠の中に頭があるのでその様子は見ることができないのですが、今のわたくしには、人知を超えた感覚で知ることができました。
それと同じくして、処刑人の身体から白いモヤのようなもの──精気が出て、わたくしの頭部や胴体へと流れ込むように引き寄せられていきます。
そう、わたくしが吸い上げているのです。
「たひゅ、助けへ。せっ、聖女さまぁ」
何が起きたのか皆目わからず動揺している青の聖女様が、頭を振り払って正気を取り戻し、処刑人に駆け寄って癒しの神聖魔法をかけます。そんな真似をしても無駄ですのに、どこまでもお優しいこと。
「女神よ、どうかこの者に安らぎと祝福を……』
聖女の祈りに応じて、処刑人の身体が淡い金色の輝きに包まれます。
──ですが、それだけ。
祈りはなんの救いも助けも彼にもたらすことなく、ただ光って終わりとなりました。
「き、効かない? どういうこと?」
めげずに気持ちを切り替え、聖女様が再び祈りを捧げて神聖魔法をかけていきます。恐らく今度使ったのは解呪系でしょう。
どっちにせよ、また光るだけで終わりましたけど。
「い、『癒しの光』も『呪鎖の解放』もなぜ効果がないの!?」
聖女リリエルが焦りの声を上げていますが、わたくしから言わせれば、それは当然のことです。
この行為は外傷ではなく、生命、生物のエナジーそのものを吸っているのですから、どうにか助けたいのなら、治療や解呪ではなく、生命力や寿命なりを被害者に与えてあげないといけないのです。
それはもはや、神や魔王の領域に足を踏み入れたものしか為せない所業であり、『普通』の聖女に可能なことではありません。
まあ、わたくしに吸われることなく無事でいられるのは、褒めてもいいですわね。
そうやって聖女様が手をこまねいているうちに、さらに事態は悪化し、その効果範囲を貪欲に広げていきます。
「なんだ、体が動かなく……ち、力が抜けっ……」
「く、苦しいよぉ。ママぁ、ママあああぁ~~」
「いやぁ! どうしてこんな、皺くちゃになるのよぉ! 嫌よ、誰か助けっ、うぐっ」
阿鼻叫喚とはこのことを言うのでしょうか。
「うわああぁ! 僕の手が、身体がっ、見目麗しき僕の美貌がああぁぁぁ!! わあああああああああああ!!!」
男のくせにいつも持ち歩いていた手鏡を、弱って震える手でどうにか懐から取り出し、しなびていく自分の顔を直視したウィルワード様。
しばらく黙っていましたが、映っているのが自分だという現実をやっと受け入れると、恥も外聞もなく泣き叫んで手鏡を地面に叩きつけ、自慢の青いウェーブヘアをかきむしってその場に崩れ落ちていきました。
その瞳は、もはや正気の輝きは失われているようです。
隣にいた名も知らない令嬢も似たような末路なので、あえて語るまでもないですわね。
浅はかな企てでわたくしを排除しなければ、まさしく盤石でいられたものを……
とまあ、散々地獄絵図が繰り広げられましたが、ようやく最後の一人の精気がわたくしに吸いこまれました。
「よっこいしょ、と」
首と両手首を押さえつけていた木枷を枯れ果てさせ、自由の身となったわたくしは、令嬢らしからぬ、はしたない掛け声をだして立ち上がると、自分の首を籠から持ち上げて元の位置へと戻しました。
デュラハンとかいう首無し騎士じゃあるまいし、すっと首を抱えていられませんしね。
それにしても、身体が軽いですわ。力も全身からみなぎっているのが感じられますし、これが生まれ変わるということなのでしょうか。
こうして、中央広場に残ったのは、悪しき永遠の聖女として目覚める道を選んだわたくしと、何も選べなかった善良なただの聖女リリエルの二人きり。
「どうして……みんな…………干からびて、助けられなかった……わたし、わたし……」
その聖女様は呆然自失という様子で、うつろな目を、無数のミイラと化した民衆の成れの果てへと向けて、死んだ表情でブツブツと呟いているだけです。
「過程はどうあれ、こうしてわたくしが今も在り続けるのなら、貴女もまたそうあるべき……かしら?」
わざわざ直接吸うのもエレガントではありませんしね。つっぱねたとはいえ、慈悲をかけられた貸しもありますし、捨ておきましょうか。
この国で唯一、わたくしを捨てなかった方が捨ておかれて命を拾うというのも、なんだか洒落が効いていますわね。
「情けは人の為ならず。昔から残っている言葉には、やはり含蓄がありますわね」
「これで一応の格好はつきましたわね。ドレスの趣味がよろしくないけれど、そこは借り物ということで受け入れましょう。この状況では仕方ありませんわ」
ウィルワード様の最新にして最後の恋人となった、運のない令嬢の衣服を情け容赦なく剥ぎ取り、代わりに血と埃に塗れたワンピースと交換してあげました。
貴女も、裸のまま冥府には下りたくありませんわよね?
「あらやだ。髪が……」
ギロチンの刃に切り落とされたのは首だけではなく髪の毛も同様だったらしく、処刑台の床に黒い渦がむなしく横たわっていました。
輝きもなくて、無駄にもじゃもじゃしすぎていた黒髪でしたけど、それでもこうして短髪にさせられたのはショックですわね。
「首みたいに綺麗にくっつくと良いのだけれど……」
手先が器用でもなければ細かい作業が得意でもないので、適当にくっつけてしまい枝毛がたくさん増えましたが、いずれ馴染むでしょう。後は時間に解決してもらいましょうか。
「……さて、これからどうしましょう」
西にあるかつての大帝国の片割れは、ここエスタガス王国とあまり仲のよろしくない間柄と聞きますし、とりあえずそちらへ向かって身を隠すのが最善かしらね。
その前に、実家に見捨てたことへのお礼参りに行きましょうか。……そうそう、一人旅をするにはまとまった路銀も必要ですし、できるだけ捻出していただきましょう。
その後は関与しませんわ。
放っておいても、わたくしを亡き者にしようとしたことで、男爵家も伯爵家も、この国すらも不安定になって傾くことは必定でしょうし。
「なんにせよ、中身のない美男子はもうコリゴリですわ」
やはり恋愛や結婚なんて、陰気な猫令嬢のわたくしには向いてませんわ。
ですけど、もし気の迷いで二度目があるなら、次はさほど美形ではなく、わたくしを大事にしてくれる、賢い年下の子がいいですわね。
そんな完璧な殿方との出会いがあればの話ですけど。うふふふっ。
なんとも都合の良すぎる最高の彼氏くんを想像してにやけつつ、わたくしは呆けた聖女さまを置き去りにして、静まり返った広場を後にするのでした。
──そうそう、後に風の噂で聞いたのですが、やはりわたくしを蔑ろにした罰は盛大に当たったみたいですわね。
かつての肉親だった男爵家の方々も、次々と不吉極まりない死を遂げたとか。いい気味ですわ。
処刑の後に実家に戻ってきたわたくしへ、おぞましい怪物を見るような目を向けてきた、あの時の不快さと憤りは一生忘れることはないでしょうね。
罰はそれだけでは留まらず、王国そのものにも様々な災いが降りかかり、対処できる術もなく、国が傾きかけているそうです。
ここぞとばかりに、不仲な間柄の隣国に攻め込まれて滅びる未来も、そう遠くないかもしれませんわね。そうなってくれると、わたくしも隠れ潜まなくてもいいのですけど。
貴族の大失策による巻き添えを被った哀れな民衆の皆様には、ぜひとも頑張って耐え忍んでもらいたいですわね。耐えきれなくても一向に構いませんが。
「それはともかく、生まれ変わったのだから、あれから少しは男運も上向いてくれるといいのですけど」
祖国のことをあっさり脳裏から消し去り、慰めのような願望を独り口ずさむと、わたくしは今日もまた、隠れ家にしている廃屋へとお花摘みに向かうのでした──
読み切り短編のはずがスピンオフみたいになってしまいましたが、これはこれで
独立したストーリーとなっていますので連載のほうを読まなくても特に問題はありません。




