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人造勇者の理想郷  作者: 鈴花雪嶺
第三章 人造勇者の理想郷
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この子を奪いたければ俺を倒してからにしろ!的な?

 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 俺ってば、素で戦ってる時いつも息切れしてる気がする……。


 現在俺は大勢の魔族と戦闘をしている。


 魔族側はおよそ20人。武装はしていないが全員普通に魔法を使ってくる。対する俺は魔法無し、武装無し、能力無し。戦力差は圧倒的だ。だが、勝てないということがわかっていても、戦わないといけない。これは覚悟だ。何があってもユエナを守るという、覚悟。


 借りた服を汚さないようにしながら乱発される魔法をギリギリのところで躱していく。近接戦では経験値と力がある魔人たちにかなうわけがないので敵との距離を保ちつつ攻める機会をうかがう。


 「うわぁっ!?」


 あっぶねぇ!もう少しで当たるところだったぞ!


 放たれた魔弾をギリギリのところで躱し、次の攻撃に備えて体制を立て直す。


 こんな街の真ん中で戦っているが、魔人たちは周りに被害が出ないように考えているらしく、魔弾はどこかに着弾する前に空中で霧散している。こういう気配りができるならもっと俺のこともいたわってほしいものだ。


 そんなことを考えていると、眼前に魔人が迫っていた。黒い炎のようなものを纏った拳が繰り出される。


 「ッ……!」


 足をひねり地面に倒れこむようにして何とか攻撃をかわし、地面に着く前に今着ている服と収納魔法に入っているいつもの服を入れ替える。地面に着いた後は転がってその場から距離を取り、転がったことで痛くなった頭を押さえつつすぐに立ち上がる。


 「グフゥ!?」


 次の瞬間、腹部に鈍い衝撃が走る。それと同時に腹の奥に座るような激痛を感じた。


 自分の腹を見てみると拳が見える。どうやら魔人に殴られたらしい。魔力は込められていたが、死なない程度に手加減されたようだ。


 「なんだよ、そんなもんかよ。そんなんでユエナと結婚しようとしてんのかよ!」


 俺のことを殴った魔人が煽るように、非難するように怒鳴ってくる。俺だって好きでこんなに弱いわけじゃない。毎日特訓だってしてるしそれ以外の時間には筋トレだってしてる。いつか、この力が無くなってもユエナを、大切なものを守れるように。


 「ハッ。誰に向かって口きいてやがんだ。そんなわけねぇだろ」


 痛みに耐えながら立ってみたものの、さっきの攻撃のせいでかなり動きが鈍っている。これではまともに戦うことすらできないだろう。


でも、男には引けない時がある。これは意地の戦いだ。改造された力を使わない。魔法の武器も使わない。これだけやられても立ち上がる。全部自分の意地のためだ。自分だけの力でユエナを守りたいというエゴだ。でも、わかっていても引きたくない。


目の前の……俺を殴ったであろう魔人は拳に魔力を纏わせた。黒い炎のような魔力が見える。これは、今の俺が喰らえば致命傷だろう。


ジリ……と足を少しずつ引き、攻撃の準備をする魔人。


俺はというと、これまでの戦いとダメージでスタミナ切れを起こしていた。しかも痛みで体が思うように動かない。でも、頑張れば攻撃のダメージを片腕を失うくらいには抑えられるだろう。連続で攻撃されたら別だが。


うまく動かない指を無理やり動かしぎこちなく拳を握る。


「いいのか?死ぬぞ?」


「構わな……いや、それは困るな」

この世界に来てから俺の感覚は麻痺したように感じる。


これが現実だと思えないのか、チートみたいな力を植え付けられて死ぬはずがないと思っているのか。はたまたほかの理由か。いずれにせよ俺は自分が死ぬかもしれないという実感がわかない。ここまでボコボコにされて全身が痛みでまともに動かなくなっても、俺は自分が死ぬかもと本当の意味で思えていない。


だからこそ魔人の挑発にも即答できる。そうしようとした。


でも、思い出したのだ。俺が傷つくと涙を流しながら心配ッしてくれる人がいる。こんな自分のことを必要としてくれる人がいる。


だから俺は、死ぬことが出来ない。死んでも死んでやるもんか。


「なんだ?やっぱり死ぬのは怖いのか?」


「そんなんじゃねぇ。この命、この体はもう俺だけのものじゃねぇってことだ」


「……」


睨みつけるように相手を見る。威圧できているかはわからないが戦う意思が消えないということを見せつける。


「はぁ……」


すると、急に目の前の魔人は大きくため息を吐くと、降参だとでもいうように手を

ひらひらと動かした。


 「俺たちの負けだ。お前ならユエナを幸せに……いや、見捨てない気がする。それに、俺たちが一番考えなきゃいけないのはユエナの幸せだからな」


 そう言うと、まだ名前も知らない魔人は手を差し出してきた。これはシェイクハンドってやつかな?


 手を握りながら、体中の激痛で歪んだ顔で不格好な笑顔を作る。


 「お前が覚悟と信念を持っているのは分かった。でも、あれが本気ってわけじゃないんだろ?出し惜しみしてたよな。それを見せてくれないか?」


 「出し惜しみってわけじゃないんだけど……まぁ、いいだろう。ここじゃ危ないから街の外に出るぞ」


街の外に出ると、俺は思いつく限りの魔法を思いっきり発動させまくった。爆発、竜巻、雷、火球に氷の槍、光の弾丸……さらに気迫……闘気のようなものも体から放出する。


 周りの魔人たちは驚きが隠せないようだった。アルベルトやエレナさんまで驚いている様子だ。

 

 こんな反応をされると自分が化け物みたいで何とも言えない気持ちになる。ふとユエナを見ると誇らしげな表情を浮かべていた。俺が人間性を残していられるのはこの子のおかげかもしれない。


 「はい!これが俺の全力です」


 パン!と手をたたいて魔法をすべて消すと、その場にいる全員を初めにいた広場に転移させた。さらっと攻撃以外の魔法も使えることもアピールできたしこれで俺の力は十分に見せられただろう。個人的には殴る蹴るの方がやりやすいんだけど、この方が見栄えがいいし、まぁいいよね。


 その後の結婚記念のパーティーや挨拶は俺の全力を見た衝撃が大きすぎるようでみんな内容があまり頭に入っていないようだった。

今回も読んでくださりありがとうございます。高評価、ブックマーク登録もありがとうございます。いつも励みになっています。

不定期投稿ですが、次回も読んでくださると嬉しいです。

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