魔界での日常
俺が醜態を晒してから数日後。
「はぁっ!」
「弱い!もっと力を入れろ!」
「!?うわぁっ!」
「足払いしても相手が倒れなければ大きな隙を作るだけだぞ!」
現在、俺はアルベルトに剣の稽古をつけてもらっていた。
俺は過去や背負う罪などを話し、アルベルトはユグドと魔界の秘密を、ユエナは覚悟を見せてくれた。俺たちはこれまでとはなにか違う、より良い関係になった気がする。
結婚も決まった今、人間界に急いで戻る必要もないので俺は魔界に残ってユエナの家で暮らしている。
いつもの通りユエナと戦闘訓練をしようとしていたら、アルベルトが代わりに鍛えると言ってきた。
なんとなく断りづらく、それからの俺の戦闘訓練担当はアルベルトになった。
だが、アルベルトの戦闘訓練は厳しい。ユエナが優しくほめて伸ばしてくれるのなら、アルベルトは厳しくしっかりと教育する感じだ。しかもその端々に娘を奪われた父親の怒りが見え隠れしている気がする。正直怖い。泣きそうだ。ユエナとの時間が懐かしい。
エレナさんとアルベルトの目もあるのでユエナにべったり、というのもなんとなくやりづらいし……別にやましいことはないしこれまでとそんなに距離感を変える気はないけど。強いて言うならユエナの方が距離が近くなった気がする。
「今日はこのくらいでいいだろう」
「はぁ、はぁ、あ……りがと……ござ…ます……」
息切れがひどい俺に対してアルベルトのは全く息切れしていない。
「キミは速さも技術もないが何よりも体力と力がない。トレーニングはしているみたいだが、こればっかりは一朝一夕で身に着くものではない。このまま続けるといい」
「はい……ありがとうございます……」
息を整えつつ武器をしまう。遠くから見ていたユエナが近づいてきて労ってくれる。
その後は一緒に街を歩いたり人気のないところでゆったりとした時間を過ごしたりする。これが今の俺の日常だった。
「今日も何もなく平和だねー」
「もしかして、暇?」
「少しね。でも、こう暇なのが平和ってことなんじゃない?」
「ならこの暇をもっと満喫しないとね。たまには休まないと」
優しく寄りかかってくるユエナ。尊い。この時間を満喫しよう。
「そろそろ夕ご飯の時間じゃない?」
「じゃあ帰ろうか」
まだ休んでから全然時間が経ってないような気がするけど、きっと気のせいだろう。
魔界で生活するようになって一番驚いたのは食生活の違いだった。
料理は普通に肉、魚、野菜とバラエティーに富んでいて、味も向こうの世界と少し違うが十分おいしい。だが、俺が驚いたのは味ではなくその材料だった。
野菜は街の外に生えているただの草だったし肉は魔物の肉、魚も陸で生活している魚のような魔物の肉だった。
魔物って人間が食べても大丈夫なんだろうか。俺の埋め込まれた記憶を探ってみると、食べたら死ぬ、なんてことはないようなので問題はない。精神面以外では。
初めて魔物料理を食べた時はその材料を知らなくて、おいしいですねー何て話してたら魔物の肉だけど口に合ってよかったわぁーなんてさらっと言われるもんだからめっちゃ焦った。マジでエレナさんわざとやってるんじゃないだろうな。まぁ、素材のことを考えなかったら何も言うことのない素晴らしい料理なんだが。
帰り道。街の人々が声をかけてくる。ユエナはとても慕われている。俺も初めは得体のしれない何かみたいな扱いをされていたが、今ではみんなフレンドリーに接してくれている。
「お、今日はもう帰りかい?」
「やぁ、今日もラブラブだね!」
「いつ結婚式するんだ?」
すれ違う人々にあいさつ代わりに一言言われながら家に帰った俺たちを待っているのはあたたかい料理と家族だ。
この家が、この世界での俺の帰る場所になる。これまでは決まった拠点なんてなかったし、家族なんているはずもなかった。でも、ここでならうまくやれそうだ。そんな気がする。
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次回も金曜日の18時に投稿します。




