魔界の洗礼
結界の外に出た俺は、収納魔法からありったけの武器を取り出す。ただし剣、刀、短剣、棍棒などの普通の武器だけだ。さらに自分の体の強化をすべて消し、柏木勇也という人間本来の力のみを使えるようにする。改造で手に入れた能力や自分の体に付与した魔法の発動も三日間だけ抑えておく。
よし。やるか。
少し離れたところに岩が見える。あれに背を預けておこう。死角からの攻撃は避けたいところだ。
とはいっても、結界の外に出たからと言ってすぐに襲われるわけではない。そんなに警戒しなくても……
ギャァァァァァ!!
……
気を緩めようとした瞬間に人間の物とは思えないヤバそうな生き物の鳴き声が聞こえてきた。
あれ?もしかしてフラグ立っちゃった?
その間にも鳴き声はどんどん近づいてくる。それほど時間が経たずに声の主が見えてきた。
それは、創作では有名な英雄の好敵手にしてこの世界の魔物の三強の一角。赤茶色に近い体色に大きな二枚の翼。大きな口には鋭い派がたくさん生えており、その指の鋭利な爪と獰猛な瞳は見るものに恐怖の感情を植え付ける。
ドラゴン……その中でも体が細く腕が長い翼が発達した種族、ワイバーンだ。
現れたワイバーンは全部で四体。強化なしの俺では敵うことはないだろう。だが、逃げられるとも思えない。やるしかないんだ。
ワイバーンは俺を喰おうと空から急降下してくる。
「グゥッ!」
それを地面を転がって避けながら地面に激突した瞬間のワイバーンの首筋ににそこらへんに広げていた武器のうち刀を拾い、突き立てる。
だが、刀はワイバーンを覆う鱗に弾かれてしまう。固すぎだろ!
そうこうしているうちに残りの三体も次々と急降下してくる。
「うわぁあ!?」
逃げるのが精いっぱいだ。隙を見て思い切り刀を振り下ろしてみるが、また弾かれる。これは……俺が戦って勝てる相手じゃない。
攻撃を避けられたワイバーンはまた空中に戻っていくが、俺が最後に攻撃した一匹が尻尾で薙ぎ払うように攻撃をしてくる。
「グフォガァッ!?」
俺はそれをもろに喰らってしまう。速い。それに、重い。
そのまま数メートル吹っ飛んで岩壁にぶつかる。
「ああぁぁぁぁぁあああぁあ!」
痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたい
あまりの痛さに絶叫する。これまでは必死で痛みもすぐに回復させたり興奮で感じなかったりしていたが、今回は違う。普段ならこんな攻撃ではビクともしない。だが、今回は違う。
痛みで頭が回らない。
霞む視界で空を見るとワイバーンがこちらに向かって急降下していた。
「あぁぁぁぁあああああ!」
痛みを紛らわすように大声を出して刀を垂直に立てる。
ワイバーンがぶつかるギリギリでその場を離脱する。ワイバーンの方を見ると、刀が顔に突き刺さっていた。
「ギャァァァァァア!?」
痛みに絶叫しながら暴れまわるワイバーン。俺は全力ダッシュでワイバーンから逃げるしかなかった。
「グギャァ!?」
直後、背後から断末魔のような声とグチャ、という音が聞こえた。振り返るとワイバーンが苦しんでいるワイバーンに上空から飛び降り、殺したのだ。
それを見た時の俺の思考は、左腕と右のアバラが折れていて全身打撲をしている。
すでに何度か吐血もしている。自分の状態でいっぱいいっぱいだ。
背後からワイバーンが口を大きく開けながら低空飛行で迫ってくる。
どうせ死ぬくらいなら、最後まであがいてやる!
置いていた剣を取り、口の中に思い切り突っ込んだ。手を引くのが少し遅れて牙に引っ掛かり出血するが、そんなことはどうでもいい。高速飛行している物体にあたるだけでもこちらには大ダメージなので翼に当たらないように地面に倒れこみながら避ける。と、同時にナイフを二本拾い、今度は痛みで口を開けているワイバーンの口内に二本とも突き刺す。残りのワイバーンも降下してきたが、それを走って避けつつ、落ちてきたワイバーンが手負いのワイバーンにぶつかり、手負いの方がダメージで動けなくなった。
落ちている武器はまだまだある。このまま押し切ってやる!
「はぁ……はぁ……ゴフッ」
息を整えながら口からビチャビチャと血反吐を撒き散らす。ワイバーンは何とか全員倒せたが、すでに満身創痍だ。意識も朦朧としていて気絶しないように意識を保つのがやっとだ。
気絶するならせめてどこかの岩陰で……
少し離れたところに大きめの岩がいくつかある。そこまでは、何とか……
赤黒い痕跡を地面に残しながら、岩陰にたどり着いたところで、その場に倒れこみ、俺の意識は闇に落ちた。
だから俺は気づかない。俺に近づく人影があることに。
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次回は本日の18時に投稿します




