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人造勇者の理想郷  作者: 鈴花雪嶺
第三章 人造勇者の理想郷
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勇也VS隕石

 「いやぁ~負けた負けた!こんな気持ちのいい負け方は久しぶりだ!久しぶりに楽しい戦いだった。礼を言うぞ、カシワギ!」


 「は、はぁ……」


 衝動のままに戦っていたからほとんど覚えていないなんて言えない……


 なぜこんなことになっているのか。今は決勝戦が終わった日の夜。後夜祭が行われていた。後夜祭は武術大会のステージが片づけられ、出店の数も増え、規模が大きくなった。どんちゃん騒ぎをしているところもあれば、満天の星空を眺めながらロマンチックな雰囲気を楽しんでいるところもある。


 そして俺たちは……皇帝と皇帝の妃のエーネ・ギルティーゼ、そして娘のサーシャとターシャとともになぜか星を見ていた。それも飲み物を片手に軽食を食べながら。


 「あなたお強いのね。うちの旦那を負かすなんて。この人は公務よりも戦いの方が達者なものですから……」


 「は、はぁ……」


 ホホホと笑いながら楽しそうに話すエーネ。この人たちはいつも楽しそうだな……


 ちら、と皇帝と妃の後ろを見ると心労が絶えないといった顔のサーシャとターシャと目が合った。二人はなんとも言えないやつれた笑顔をこちらに向ける。俺も自然と苦笑いしてしまう。いつも苦労しているのだろう。今度機会があれば労ってあげたいものだ。


 ちなみに、ユエナには俺が最後に皇帝に腹パンしたのはその理由までしっかりとばれており、大会の後で少しきつめにお叱りを受けた。ユエナ、ほんとにいい子。


 俺たちが今いるのは静かにお酒を楽しみながら雰囲気も静かに楽しむ人たちがいる静かなエリアだ。同じ広場にいるはずなのにどんちゃん騒ぎの喧騒はあまり届いてこない。皇帝曰く、そこまで計算して出店を立てているらしい。このおっさん、そういう気遣いもできたのか。


 感心していると、辺りが少し騒がしくなった。


 「見て。流れ星よ」


 誰かが言った一言で全員が思わず空を見上げる。どうやら騒いでいた人たちも一度静かになって空を見上げたらしい。


 確かに綺麗だ。暗い夜空にいくつもの星が煌めいている。そこに軌跡を描きながら流れる赤い星。


 ……


 ……あれ?なんかおかしくないか?


 流れ星ってすぐに消えるイメージなんだけど、これはずっと見えてる。というか大きくなってる。……近づいてる?


 「皇帝、まずい、あれって……」


 俺が全て言い終わる前に皇帝が叫んだ。


 「全員出来るだけ遠くに逃げろ!隕石だ!星が降ってくるぞ!」


 周りが一瞬静かになったが、皇帝の言葉の意味を理解し始めると、段々と騒がしくなってくる。


 そして、広場はすぐに阿鼻叫喚の渦へと変化していった。


 「でも、あんな大きな星、どこへ逃げればいいんだ……もう間に合わない……」


 どこかの誰かがポツリとこぼしたその呟きは、広く騒がしい広場にやけに明瞭に響き渡った。


 今度は広場全体が絶望の雰囲気で満たされ、急にシーンと静まり返った。


 そんな雰囲気にのまれていないのは俺たちだけ。誰もが、この状況をどうにかできるなんて考えていない。皇帝たちはどうするべきか頭を抱えている。この隕石が落ちたら今俺たちがいるこの帝都は完全に消滅してしまうだろう。


 そんな時、クイックイッとコートの袖が引かれた。


 「ユウヤ……」


 見ると、ユエナがこちらを見上げていた。


 俺たちだけで転移で逃げることもできる。ここにいる人全員を転移で逃がすこともできる。この帝都という空間をどこかに転移させることもできるかもしれない。だが、ユエナが言いたいのはそういうことではないだろう。


 俺はユエナをまっすぐ見てニッと笑う。


 「いっちょかましてやろうぜ。俺たちでさ」


 「うん!」


 その言葉を待っていた、というようにユエナの表情も明るくなる。どうせならこの機会を利用して魔人のイメージもよくしておこう。


 そうと決まれば急がなければ。


 「おい、皇帝、それとあんたたち、急いでついてきてくれ」


 「カシワギ、お前……」


 「早く!」


 「わかった。お前たち、行くぞ。あ、あとカシワギ。そのしゃべり方の方がいいと思うぞ?」


 この皇帝は今の状況を分かっているんだろうか。だけど周りに指示を飛ばしてくれる辺り、やるときはやるんだろう。


 広場の真ん中に着いた時には、隕石はかなり近くまで落ちてきていた。それはもう、隕石の大きさが嫌でも、嫌というほどわかるほどに。


 「ユウヤ……」


 この顔は……自分も力になりたいという顔だな。


「サーシャさん、ターシャさん、この子を頼みます」


「え?わかりました」


よし。これでいいだろう。


「ユエナ、思いっきりやっちゃえ!」


俺は最高の笑顔でサムズアップする。


「うん!」

 

ユエナはいい笑顔で返事をすると、隕石に向かって手をかざし、魔法を発動させる。


それは、俺が初めてユエナと会ったときにユエナが見せたあの魔法。


ユエナの周囲に小さな黒い魔法陣が無数に展開され、そこから黒い魔力弾が無数に放たれた。


隕石に無数の穴が開くが、巨大な隕石にはあまり効いていないようだ。


 一方、ユエナは魔力切れになってしまい、あの時と同じようにその場に倒れそうになる。


 それを支えつつ、サーシャさんにユエナを任せ、俺は強化された身体能力を全開にし、思い切り地面を蹴って飛び上がり、さらに飛行魔法も使って隕石に突っ込んでいった。


 隕石に向かう途中で収納魔法から刀を二振り取り出して構え、高機動モードに入りさらに加速する。


 隕石に衝突する直前で、両刀を思い切り振り下ろす。


 カキィィン!!という甲高い音とともにビキビキという音を立てつつ刀にひびが入り始めた。この刀には魔法強化と切れ味増加を付与してあるためそのあたりの武器よりも固く、切れるのだが、圧倒的な質量の前にはそれも限界のようだ。


 さらに俺の腕にも大ダメージが入り、激痛が走る。腕の中身がぐちゃぐちゃになっているのを感じる。だが、以前体に付与した再生が働き、腕が再生され、常に激痛が襲ってくる。


 こんな状態では集中できない。一時的に体の痛覚を遮断する。


 隕石にめり込みながら壊れていく刀の傷を反射的に魔法で再生させつつ刃に魔力をまとわせ、さらに刀に魔力を流して切れ味を増加させる。そのまま高機動モードで隕石を連続で切りつけた。


 隕石に無数の切り傷が付く。だが、大きさが違い過ぎて普通の刀では歯が立たない。隕石は先程よりもさらに地面に近づている。


 「これならどうだ!」


 刀が効かないなら魔法だ。


 刀を二振りとも収納魔法にしまい、身体強化の魔法を使い、さらに拳に魔力を纏わせ、高機動モードのまま連続で隕石を殴る。


 ドドドドドッ!という轟音とともに隕石が大きく抉れる。刀で切るよりこっちの方がずっといいや。


 拳で隕石を殴りつつ、さらに魔法を連続で発動させる。


 大きな竜巻、風の刃、炎の玉、光の弾丸、氷の槍、爆発、圧縮された水、白光の雷。様々な高威力の魔法を連続して常に発動し続けつつ攻撃の手は緩めない。


 確かにさっきよりはダメージが入っているのが目に見えてわかる。だが、やはり圧倒的な大きさの前には無力も同然だ。


 ちら、と下を見るとかなり地面に近づいていた。


 これはまずい。早く何とかしないと帝都が吹き飛んでしまう。やるしかない。


 もう一度二振りの刀を取り出すと、極限まで集中するために今まで自分にかけた魔法をすべて解除し、発動していた魔法も解除する。


 想像するのは攻撃手段ではなく、結果。結果のための力を生み出すんじゃなくて結果そのものを直接生み出す。俺にならできるはずだ。


 「はぁっ!!」


 俺は高機動モードで隕石を切りつけだ。何度も何度も連続で。そのたびに隕石はどんどん細切れになっていく。イメージしたのは結果。俺が刀を振るうと目の前の隕石が切れる。そういう魔法を使った。疑問を持ってはいけない。それが当たり前だと思わなくてはいけない。自分の思った通りの魔法が使えるなら、今隕石が切れないと考えてしまうと、その瞬間隕石は切れなくなるだろう。そうなってしまっては今度こそおしまいだ。


 高機動モードで動いているため、周りには一瞬で隕石が粉々になったように見えたことだろう。


 だが、これで終わりではない。隕石のかけらはいまだに地面に向かって落下を続けている。これをどうにかしなければ結局帝都は壊滅してしまう。


 俺は刀をしまうと隕石のかけらたちに手をかざす。


 物質変換能力の物質を吸収する能力を使い、隕石のかけらを吸収していく。


 吸収したかけらはそのまま収納魔法に吐き出す。


 「おわったぁ~」


 高機動モードということもあり、一瞬で片付いたな。初めからやっていればよかったのかもしれないが、極限状態だからこそできたことなのかもしれない。とにかく今は……


 「つっかれたぁ~」


 そう呟きながら俺は仰向けにゆっくりと地面に降りて行った。

今回も読んでくださりありがとうございます。高評価、ブックマーク登録もありがとうございます。いつも励みになっています。

次回は明日の10時に投稿します。

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