それぞれの戦い 勇也編
今回は少し長めです
皆と別れてから十分もしないうちに前方に開けた空間が見えてきた。脳内に映し出したマップも自分の感覚もこの場所がこのダンジョンの最深部だと言っている。
「速攻でぶっ潰す」
自分のここに来るまでの時間のかかりように苛立ちつつそれを発散するように今の自分の気持ちを乱暴に吐き捨てる。
広さはみんなと別れたところと同じくらいの少し広いホールくらい。学校の体育館の一回り小さいくらいだ。空間の両サイドには石でできた柱が等間隔に並んでおり、その奥にはこれまた石でできたイスがある。まるで玉座のようだ。
「まるで玉座だな」
どこかの異世界転生者のような言葉をつぶやきながら空間を注意深く観察する。
薄暗くて気が付かなかったが、玉座(?)の前には跪いたような体勢のブラックスライムがいることに気が付いた。
マップと自分の感覚は目の前のブラックスライムがこのダンジョンの最後の魔物だと示している。
「死ね」
その姿を確認し、敵だと認識した瞬間情け容赦なく攻撃を…………しようとしたが、目の前のブラックスライムはこちらに振り返る。
その瞬間、目がないはずのブラックスライムと目が合ったように感じた。
その時の俺はなぜかブラックスライムを攻撃することができなかった。一瞬ためらった……というより言葉にできない何かを感じた。こいつにはまだ何かある。無意識の中でそう考えていたんだろう。
謎の現象が発生しているダンジョンで唯一残っている魔物。普通に終わるわけがない。
後から考えればそう考えていたんだろう。
だが、この時はそんなことを考えている余裕はなかった。
なぜなら…………
「!?」
目の前のブラックスライムの様子がおかしかったからだ。
体がボコボコと盛り上がっていき、どんどん大きくなっていく。
こういう時、「さっさと攻撃しろよ!」と思うかもしれないが、実際は目の前の異様な光景に咄嗟に動くことができないものだ。
その間にもブラックスライムはどんどん姿を変えていく。俺は何があってもすぐに対応できるように魔力銃を取り出しておくが、目の前の異様な光景に気圧され構えることはできなかった。
その間にブラックスライムは変形を終わらせたようで、これまでのマネキンのような見た目ではなく、右手には大きな盾を、左手には大きな槍を持ち、体全体は鎧のような装甲で覆われ、顔も兜で覆われていた。
黒い粘体ではなく黒粘性騎士ってところか。
その変形を見届けて先程までの隙だらけの間に攻撃しなかった自分を責める。
だが、いつも切り替えが遅い俺でもさすがに今だけは悔やむよりとっととこいつをぶっ潰そうと気持ちを切り替えて魔力銃を構える。
「とっとと死ね」
俺は連続して引き金を引いた。
パパパパァン!!
洞窟内に連続して発砲音が響く。光り輝く弾丸が一斉に目の前のナイトスライムに向かって飛んでいく。
ほとんどのものを容易く貫通する魔力の弾丸。それが無数に飛んでいく。これで倒す真ではいかなくとも致命傷レベルまではダメージを与えられると思っていた。
だが、実際はカカカカァン!!という硬質な音が響くだけでナイトスライムは無傷だった。それも特に防御する素振りは見せず棒立ちしているだけで。
それだけで目の前の敵と自分とのレベルの差を思い知らされる。
「チッ……」
武器が全く通用しない相手に舌打ちしつつ魔力銃を収納魔法にしまいつつ、両手に剣と刀を取り出し高機動モードに入り、さらに剣と刀に魔力を流しつつ表面に魔力を纏わせ、地面を思い切り蹴って一気に距離を詰め、連続で切りまくる。
超強化された斬撃が無数にナイトスライムを襲う。だが……この攻撃も全く効いている気配がない。いや、魔力銃よりはダメージを与えられている。さっきは全くキズが付かなかったが今回は浅い切り傷が無数についている。でもこれでは倒すことはできない。
「こっちのが楽だ!」
俺は軽く飛び上がりながら両手に持っていた剣と刀を収納魔法に仕舞いつつ体を回転させながら勢いをつけてナイトスライムに今の苛つきをぶつけるように殴りかかった。
俺が一番苛ついているのはナイトスライムを倒すのに手こずっていることでも全くダメージを与えられていないことでもない。今のナイトスライムの態度についてだ。
今のナイトスライムは俺の攻撃に対して防御の姿勢を全く見せていないのだ。
俺がここまで全力で攻撃をしているのにあいつはそれを全く脅威と思っていない。俺はいいやつでも聖人君主でもない。自分でもクズだと思っている。こんな時だがそのことを再認識してしまった。今、俺は自分の行動が、努力が全く評価されていないという現状にとてつもなく苛ついている。だが、すぐに気持ちを切り替える。この気持ちも力に変えて目の前のこいつをぶっ飛ばしてやるんだ!
俺の拳が直撃する直前、初めてナイトスライムが動いた。
驚いたように一瞬ビクッと反応したかと思うと右手に持っていた大盾を構えて
俺の拳を防いだ。
ボゴォ!という鈍い音が響きナイトスライムの持っている盾が大きくひしゃげる。これを見た瞬間確信した。イケる!
不安が希望に、希望が確信に変わる。畳みかけるように魔法を乱射する。
光の弾丸、氷の槍、炎の玉、風の刃、爆発、斬撃、炎渦巻き風の刃が襲いかかる竜巻……ここまでやればかなりダメージを与えられたはずだ。
いや、まてよ……。
自分の有利を確信した時、ふと思う。
今までだってヤツは何度も俺の淡い期待を裏切ってきた。なら、ここは用心するに越したことはない。俺は攻撃し続けていた魔法を解除し、立ち込める土煙を魔法で起こした風で一気に晴らす。そこには……
無傷のナイトスライムがいた。その風貌はどことなく「残念だ」と言っているようだ。やはりこいつには魔法よりも物理攻撃のほうが効くのかもしれない。そう思い、拳を構え再び高機動モードに入り攻撃しようとした瞬間、ナイトスライムの持っていた盾のへこんでいた部分がだんだんと盛り上がってくる。
一瞬と表現できるようなとても短い時間のうちにナイトスライムの持っていた盾が元の状態に戻った。勝利を確信していたが、一気に絶望に叩き落される。
だが、何か、何かしなければ。そう思い震える手で拳を構え再び攻撃しようと地面を
強く踏みしめる。
その時、ここまでほとんど棒立ち状態だったナイトスライムが槍を構える。その瞬間、空気が張り詰めたように感じた。
そんな俺にはお構いなしにナイトスライムは槍を構えながら地面を蹴ってこちらとの距離を詰めてくる。
行動予測で攻撃の軌道は見えている。だがどんな攻撃が来るかがわかっていてもギリギリ避けるのがやっとだ。
すべての動きが身体能力全開の俺よりも早い。
「———あっ」
ナイトスライムの槍での連続斬撃。避け、いなすのがやっと。そんな極限の状態だったからこそ、足元まで注意が向けられていなかった。
下から振り上げるようなナイトスライムの攻撃に対処しようとした時、足元にでっぱりが見えた。これまでの戦いでできたものだろう。目の前の敵に気を取られすぎて全く気が付かなかった。攻撃を受けるために後ろに飛んでいたので、そのままでっぱりに引っ掛かり、体制を崩して倒れてしまう。魔法を使うことも高機動モードに入ることもできなかった。ナイトスライムの間髪入れない攻撃がそんな隙を与えてくれなかった。
地面の盛り上がっている場所につまずいた俺は、そのまま地面に倒れる。
倒れたことでナイトスライムの攻撃は避けることは出来たがこのままではいけない。
案の定、ナイトスライムはこの隙を見逃してはくれなかった。
地面に横たわる俺の体にナイトスライムの槍が迫る。
予想外の事態にすぐに対応することができない。
ガキィィン!
硬質なもの同士が強くぶつかった音が鳴り響く。
俺にダメージはないが、精神的ダメージはかなり大きい。
俺のメンタルが大ダメージを受けてる間にもナイトスライムは槍で俺を斬り続ける。
ガガガガガガッ!!
連続して浴びせられる槍戟。ダメージは入らないが精神的には……
んん??
何かがおかしい。何か見落としている。一度冷静になれ。目をつぶり気持ちを落ち着ける。その間にもナイトスライムは攻撃を続けるが無視する。
俺はさっきまで攻撃が当たらないように全力で避けていた。
ガガガガガガッ!!
攻撃を避けるのは行動予測を用いても難しく、高機動モードや魔法を使う暇はない。
ガガガガガガッ!!
…………
ガガガガガガッ!!
「ああもううるさい!!」
こっちの気も知らないで空気を読まずに攻撃を続けるナイトスライムがいい加減煩わしくなり槍をつかんで槍ごとナイトスライムを投げ飛ばす。
「あ!!」
ようやく今まで感じていた違和感に気が付いた。何を避ける必要があったのか。俺にはダメージは通らない。ならやることは一つ。
「ぶっ潰す!!」
俺はなおも猛スピードでこちらに向かってくるナイトスライムに向き直る。
片足を引き、姿勢を低くして両手を腰に差してある刀を勢いよく抜き放つように構える。
ナイトスライムはそんなことは関係ないというようにこちらに突っ込んでくる。
ナイトスライムの槍が俺にぶつかる瞬間、俺は刀で前方を薙ぎ払うように勢いよく腕を振るう。それに合わせて収納魔法にしまっていた刀を取り出し、刀でのカウンター……居合切りを放つ。
「!?」
その瞬間のナイトスライムは確かに驚いていたと思う。なぜなら、俺の刀がナイトスライムを真っ二つにしていたからだ。
「!?」
だが、驚いたのナイトスライムだけではない。
今まで全く通じなかった攻撃が急に通じるようになったのだから。しかも何も強化していない刀がだ。
なんでだ?これまでの攻撃と今の攻撃何が違う?
ふとナイトスライムのほうを見ると上半身と下半身の間から触手のようなものが伸び、切りはなされた上半身と下半身を繋ぎ、完全に再生していた。
「マジかよ……」
俺が言えることではないが、完全に化け物じゃないか。
再生したナイトスライムはまた攻撃を再開する。俺は刀で応戦するが、さっきのような威力は出ない。それどころかはじめと同じようにほとんどダメージが入らなかった。
さっきと今何が違う。考えろ……考えるんだ……
さっきは自信に満ち溢れてた。今はただ受け流しているだけだ。あの時は攻撃のイメージがしっかりしていた。
まさか……
俺の力の一つはどんな魔法も使うことができるもの。しかも自分の思うように存在しない魔法を自分で作り出せる。
もし……もし、魔法が火球を飛ばしたり瞬間移動したりするだけではないとしたら?自分の行動一つ一つを魔法にすることができたら?ただの斬撃がまるで空間を切り裂くような超常的な結果を生み出すんじゃないか?
「———フッ……」
自然と口から笑みがこぼれる。口角が上がる。俺は空いている方の手に収納魔法から剣を呼び出し、二刀流の構えをとると、しっかりとイメージ……いや、根拠のない自信をみなぎらせる。
俺の剣はこいつを斬れる。切り裂ける!
「テンション上がってきたー!」
謎のハイテンションのまま叫び声を上げ、高機動モードに入り、二刀流でナイトスライムを切り刻む。
攻撃を続けていたナイトスライムの脇をいまだに繰り出され続ける攻撃をよけながら通り過ぎ、すれ違いざまに無数の斬撃を浴びせる。アニメのような、現実では再現できないような動きをしていた気がする。
振り返ってナイトスライムを見てみると細切れにっていた……ようだが、すでにほぼ再生していた。
なら、再生する暇もないほどに細切れにしてやる!
「はぁぁあぁあぁあぁぁぁあ!!」
気合の雄たけびとともに高機動モードでナイトスライムを切り刻む。だが、ナイトスライムは斬られた瞬間に損傷個所を再生していく。このままではらちが明かない。
こいつは一瞬で全体を消滅させなければいけないようだ。ならば……
「全てを焼き尽くす業火!!」
普通の(?)攻撃魔法も見た目や効果ではなく魔法が引き起こす結果をしっかりイメージできていればナイトスライムのような再生力が高い相手や防御力が高い相手にも十分通用するはずだ。
そう考えての炎の魔法。焼き尽くし、溶かす。イメージしやすい。イメージしやすいという点では炎の魔法はとても扱いやすい。
そう考えている間に、魔法が発動し、ナイトスライムの足下から赤黒い爆炎が吹きあがる。
爆炎がナイトスライムを完全に飲み込む直前、ナイトスライムは持っていた槍をこちらに投げてきた。
「あたるかよ」
それを軽く避け、吹き上がる爆炎を見つめる。爆炎はすぐに収まり、目の前の光景が目に入る。
そこに、ナイトスライムはいなかった。
「ふぅー」
大きく息を吐き戦いが終わったことを実感する。それと同時に、激しい戦いの中で忘れてしまっていた大切なことを思い出した。
みんなのところに戻らなければ」。
この空間からさっさと出ようと振り返った時、ナイトスライムが最後に投げた
槍が目に入る。
その時、言いようのない違和感を感じた。
違和感というか悪寒だ。
その感覚が的中していたことはすぐに目の前の現象によって裏付けられた。
槍の持ち手部分がボコボコと肥大化していき、形を変えていく。その形は俺が今まさに倒したと思っていたナイトスライムとうり二つ……いや、そのものだった。
その瞬間、先程まで感じていた感覚がナイトスライムの気配だったと気づく。だが、もう勝ちは確定したも同然。再生したならまた倒せばいい。斬撃は再生速度に追いつけないのでまた魔法で倒すことにしよう。
一刻も早くこいつを倒して戻らなければという焦りから、さっきの感覚を思い出し、さっさと魔法を発動させる。
「全てを溶かす炎の攻撃!」
先程の赤黒い炎ではなくろうそくにともっているようなオレンジ色の炎がナイトスライムを包み込む。
炎に包まれたナイトスライムの体が一瞬で溶け、蒸発し、消えていく。炎で包まれた部分は。
炎に包まれる直前、ナイトスライムは腕を少し前に出し、全身が解けるのを回避していたのだ。
「クソッ」
なら、再生しきる前に全身を溶かせばいい。俺はまた魔法を発動させ、ナイトスライムを溶かそうとする。
だが、ナイトスライムのほうが一歩早かった。
体を一瞬で風船のように膨らませ、風船が割れるように破裂させ、体を細かく分裂させ、部屋中にまき散らす。俺の魔法はいくつかの破片を消滅させたものの、炎が消えた時には部屋に飛び散った破片が集結し、すでにナイトスライムは再生しきっていた。
こうなってしまっては魔法で倒すこともできないだろう。
魔法も、剣も、通用しない。
もう倒す方法なんて全身を一度に吹き飛ばすくらいしか思いつかないぞ。
……ん?
待てよ?それでいいじゃないか。一撃でこいつを吹き飛ばせるほどの超パワーの攻撃をすればいい。簡単な話じゃないか。
問題はこいつがそんな隙を与えてくれるかということだ。
ありったけの殺意と勝てるという確信からくる自信を込めて射殺すほどにナイトスライムを睨みつける。
だが、気づく。ナイトスライムの様子がおかしい。盾を体に吸収し、力をためるように槍を構えている。まるで、この一撃で絶対に戦いを終わらせるというように。あいつも疲れてきたのかもしれない。俺も精神的疲労がかなりたまっていた。
この一撃で終わらせる。絶対に。
俺は改造された体を動かすためにコアから出ている魔力が流れる道……魔力回路をほぼ全て閉じる。さらに新たに魔力回路を操作し、右腕に大部分の魔力を流し込む。
右腕にこれまでにないほど力がたまっているのがわかる。だが、これだけでは足りない。
身体能力を全開にし、右腕に力を籠める。さらに、この状態の、ここまで強化した、これ以上ないほどに強化されたこの腕から放たれた攻撃が当たったらナイトスライムも一撃で全身が跡形もなく吹っ飛ぶというイメージを明確にし、勝つという自信を漲らせる。
よし、いける!
俺の準備が完了した時、ナイトスライムがこちらの様子を確認するように顔を上げた。
俺もナイトスライムを視界にしっかりと捉える。
俺たちはいっせいに地面をこれまでにないほど強く、強く蹴って勢いよく敵に向かって突っ込む。
地面が大きく割れ、抉れ、土煙が巻き上がる。
一瞬で距離が縮まり、槍と拳がぶつかり合う。
あまりの衝撃に周りの柱と壁は崩れ、土煙は一気に晴れる。
次の瞬間には俺の前方の壁とともにナイトスライムは消えていた。
だがまだ安心しない。気配を探り、目視で確認し、魔法でサーチする。
どれにも反応はなかった。終わったのだ。
「急がないと……」
残心を解くと、一息つく暇もなくもと来た道を引き返す。一刻も早くみんなのもとに戻るために。
今回も読んでくださりありがとうございます。高評価、ブックマーク登録もありがとうございます。いつも励みになっています。
不定期投稿ですが、次回も読んでいただけると嬉しいです。




