黒粘性生物対策特別会議
なぜあの場に冒険者パーティーが駆けつけたのか……その理由は、柏木たちがモンスターキャッスルに突入しようとした前日……つまり柏木たちがモンスターキャッスルから逃げ帰ってきた日に遡る。
「では、魔人とその一行には手を加えず、なにか起きるまで静観と言うことでよろしいですか?」
「それが妥当かと……あの場にはこの街でもかなりの実力を誇る者も多くいた……それを一瞬で無力化できてしまうのであれば、我々に打つ手はない」
「あの人間の情報もほとんど無い。受付の話では銅ランクだったらしいが……」
「あの実力なら銀ランクはあってもおかしくはないですね」
冒険者ギルドルスキヤ支部の会議室にはルスキヤ支部のギルドマスター、ギルドマスターの秘書、事務処理部長、受付長が集まって魔人を連れた冒険者……柏木勇也への対処法について話し合っていた。
「では、今回の臨時会議はこのあたりで……」
特にいい案が出なかった会議をいつまでも続けていても生産性が下がるだけだ。そう結論付けたギルドマスターが会議を終わらせようとした瞬間……
バァァン!!
「な、なんだ!?」
二階の会議室にまで届くような大きな音が冒険者ギルド中に鳴り響いた。直後、バタバタという足音が会議室に近づいてくる。
「会議中失礼します!」
「何だ!何があった!」
「申し上げます!例の冒険者が満身創痍といった状態でギルドに戻ってきました!」
「なに!?あの冒険者が満身創痍だと!?すぐに向かう!」
今まさに問題が片付きそうだったのに新たな問題を持ってきやがって……と、心の中で愚痴りながら一階の状況が見渡せる場所まで来たギルドマスターは、報告通り満身創痍といった状態の例の冒険者の姿を確認した。直接接触はしないが、会話内容をよく聞くためにメインフロアである一階まで降りる。ふと二階を見ると会議に参加していた職員たちも二階からだが例の冒険者を見ている。というか、ギルド中の人間が柏木勇也に注目していた。
そんな中、柏木勇也は自分の体験した出来事を語りだした。
いつもは騒がしい冒険者ギルドだが、なぜか今は静まり返り、あまり大きな声で話していない柏木勇也の声が妙に鮮明に耳に届く。彼の言葉を聞いたものの表情に、絶望が張り付いた。
柏木勇也と魔人がギルドを出た後、ギルドマスターは驚きと絶望が入り混じったような表情を無理やり引き締め、先程まで一緒に会議をしていた三人に再び声をかけた。
「緊急会議だ」
◉
暗い顔をするそれぞれの業務の長を見回しながら、ギルドマスターは重々し口を開いた。
「再び集まってもらってすまない……」
「例の魔物の件ですよね……」
「……あの冒険者の強さであの反応とは……。かなりまずい状態のようですね……」
会議室に重苦しい雰囲気が漂う。この街で実力者として名が売れている冒険者を一瞬で戦闘不能にした男が自信を喪失するような相手。それだけでギルドの重役たち……いや、ギルド中の人間が一気に不安と恐怖に包まれた。
そんな中……
「こ、困ります!今は緊急会議中ですよ!?」
「その会議に関わることだって言ってるだろ!」
言い争う声とともに会議室の扉が開かれた。
「あなたは……」
そこにいたのはこの街で一番腕が立つ冒険者、ルキアだった。
「会議中に何を考えているんだ!」
事務処理部長が責めるように言うが、ルキアはそんなことは気にせずに続ける。
「こんな会議開いたってどうせ何も決まらないだろ。俺たちが下で話し合った結果、俺のパーティーでブラックスライムとやらを倒しに行くことにした」
「……!?」
驚きで声が出せない者の中で、ギルドマスターだけがゆっくりと口を開いた。
「死ぬぞ?」
「分かってる」
そう答えるルキアの目は覚悟が決まったように自分の未来をしっかりと見つめているようだった。
「……すまない」
「任せろ」
短く言葉を交わすと、ルキアは会議室を後にする。それを見送った後の会議室は途端に騒がしくなった。
「何故行かせたんですか!?」
「無茶ですよ!」
「人の心がないのか!」
嵐のように浴びせられる言葉にギルドマスターはよく通る、だが決して大きくはない声で話しだした。
「彼は……彼らは自分の命を顧みず我々のために戦おうとしている。それに無策でもないようだ。覚悟を決めた者を否定することはしたくない。それが死を覚悟してのことだとしても……」
ギルドマスターの考えを聞いた各部署の長は黙り込んだ。その顔にはこれから死地に向かう勇ましき冒険者たちの無事と勝利を祈るようだった。
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