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2-2 この世界の今について


チャプター2


この世界の今について



ナリテ村は王都の材木資源を担う重要拠点だ。

さらに王都とは馬でたった3日の距離ともなれば、死守せねばならない村のはず。

この村に僕達が来て2日の間、村に改めて魔族の襲撃が無いかを警戒しつつ村を見て回った。

気が付いたのは、村に若い女性がほとんど見当たらない事と、

兵士が駐留していたと思われる駐屯所に、何も無い事だった。

兵士が敗北して村が占拠された、そう最初は思っていたのだけれど。

駐屯所には武器を含めた資材が何もなく、

埃すら積もっており、ここしばらく誰かが居た形跡すら見当たらない。

こんな要所に兵力が無いなんて、考えられるのか?

僕は思い立ち、老齢の村長の元を訪ねる。


「これはこれは勇者ヒィロ様。皆様のお陰で村は着実に元の姿を取り戻しつつあります」

「いいえ、これも僕らがこの世界に呼び出された役目です。

 ところで、いくつかお話しを伺いたいのですが?」

「はい、なんなりとお聞きください」

「この村に駐留していた兵士達はどうしたんですか?」


魔族に全員やられたのならばもう少しは痕跡が残っているはずだ。

その質問に、村長はむぅと怒りを隠しきれず、しかし落ち着こうと感情を堪えて答えてくれる。


「王都から派遣されてきた兵士達は、とっくにこの村を見捨てていきましたぞ。

 おまけに村の若い女を全員連れていきおって……っ!」


もっとも、若い女達もこんな村はもうイヤと半ば自発的に出ていった者も少なくはないらしい。

村の資産を徴収という名の強奪をしての撤退はかなり強引だったと村長は語る。


「なるほど、やっぱり王都側に問題が大きそうか……。

 村長、この世界の今の状況について教えていただけませんか?」

「それは構いませんが……、王都で説明を受けられたのでは?」

「いいえ、あそこでは何も聞かずに飛び出してきました」

「それはまた……どうして?」

「自分達でロクに人も育てられず、他所の世界から勝手に人を連れてきて、

 戦わせようなんて発想をする連中、信じられませんよ」


これは召喚された瞬間から僕が考えていた事だ。

あの時テンが勝手に動き出さなくとも、頃合いを見て僕は皆で逃げ出すつもりだった。

勝手に人を連れていく連中という言葉を村長はいたく気に入ったようで。

ガハハと豪快に笑い。


「なるほど、勇者様は聡明なお方のようだ。

 わかりました、お話しいたしましょう」


村長から聞いた、今回の戦争の経緯はこうだ。

遥か200年前、人類と魔族の戦争があったという。

大きな犠牲の末、人類側はなんとか魔族の王を封印する事に成功したのだが。

10年前に魔族の王が復活し、過去に封印された復讐と人類側に宣戦布告。

人類側は長きにわたる平和で戦力が劣化しており、敗走を重ねていったという。

当時は大陸に4つあった大国もその1つは完全に崩壊し。

残り3つのうち2つ、このポーラン王国と東のマキマ共和国は壊滅寸前。

最後の1つ、南の大森林にあるケケモ皇国は完全に引きこもり、

魔族への従属を考えているのでは? と噂されているらしい。

ここで気になったのは、僕達がこの村にやってきた時、村人が生かされていた事だ。

魔王が人類への怨恨だけで戦争を起こすのならば生かしておく理由はなんだろう?


「魔族は人間達をどうするつもりなんですか?」

「はい、生きたままある場所へ連れていかれて、魔力と生命を吸い出されて殺されると聞いております。

 魔族側の領土には、人間牧場なるものもあちこちにあるそうです」

「つまり、魔族にとって人間は食料みたいなもの、だと?」

「はい、魔族の監獄から逃れた者がそう語ったそうです」


もしそれが本当ならば人類と魔族の共存は難しそうだ。

人類側は魔族に抗うしか生き残る術はない。

しかし、だというのに魔族に反抗するには、この王国の現状に良い所が見えてこない。


「この村の食糧難もそうですけど、王都もひどい有様でした。

 国の管理能力はいったいどうなっているんですか?」


ある程度予想はついてはいたけれど、聞いた話はそれを上回る劣悪さだった。

まず、王国のトップは王族ではある。

が、それは表向きだけで、現在は王族の権力はそれほど強くはなくお飾りに近いらしい。

長年の平和の中『聖堂教会』という宗教団体が勢力を拡大し、王国の実権を握っていると。

聖堂教会が信仰する主神は女神シチーセブン、飢えた人々に”食”の恵みを施す救いの女神だという。

その話を聞いてすぐに友人の顔が浮かんだ。


(なるほど、村人がマレジキさんを女神と崇めるのはそういう事か)


女神シチーセブンは食を人々に授ける。

その名目で王国で生産された食料は全て聖堂教会に一度集められ、女神の慈悲と繕い彼らの判断で分配する。

それらを守る聖堂教会の直轄軍『聖堂騎士団』は王国最強のエリート達で構成されていて、

今では伯爵や子爵などの貴族よりも立場が上だという。


「王国の食を全部回収して、権力を振りかざす。やることが下衆だな……」

「この村でも聖堂教会の連中が同じことをしておりました。

 そして去り際に食料も根こそぎ持っていきおって……。

 ですが、もはや聖堂教会に神の権威はございませんな」

「ん? それはどうして?」

「今、広場で村の者に食事を振る舞われているお方は女神様の生まれ変わりと聞いております。

 となれば聖堂教会はもはや、女神様の名を騙る逆賊ではありませんか」


生まれ変わりって……。言い出したのは村人の誰かだろうけど、発想が実に宗教だね。

まぁ、無制限に食事を生み出すスキルを、それも女神像に触れて授かったとなれば無関係ではないだろうけれど。


「あの子はただの、恋する普通の女の子ですよ」

「はい、鉄の勇者様ですな?

 女神様が唯一愛された男神、錬鉄のジュートォ神。

 あの方も生まれ変わり、女神様と共に第二の生を謳歌されていると、村人の間でも話題ですよ」


村人がテンとマレジキさんをやたらとホッコリした目で見守っているのは、そういう事。

生まれ変わりはさすがにないだろうけれど、与えられたスキルが無関係とはとても思えない。

あの2人に与えられた力はこの国では非常に大きな意味を持つ事もわかった。

そして、僕がやるべき事も。


「では村長、僕達はそろそろ王都に戻ります」


この一言に、村長の顔色が変わる。


「お、お待ちください! まだこの村は復旧には程遠く、駐留の兵もおりません!

 皆様が去られてはまたいつ襲われるか……!

 それに食料も確保できておりません!

 どうか、もう少しだけ――」


村長の言う事はもっともだ。

僕らが居なくなったらこの村は長くはもたないだろう。

しかし心配はいらない、その用意はもうそろそろ終わるはず。

村長を連れて村の中央へ向かうと、そこではヨツナが待っていた。


「ヒィロ、丁度よかった、できたよ~!」

「さっすがヨツナ」


ヨツナの後ろにあるのは石を積んで作られたかなり大きな門。

門といってもその先には何もない、そこにポツンと立っているだけの門構えだけ。

そこに杖をあてて、ヨツナは魔法を使う。


「開け、ワープポータル!」


何もない門に、プルンと揺れる水のような膜が現れる。

村長は驚いている、これを知っているらしい。


「こ……これは、まさか伝承に記されているという、

 遥か離れた場所とを瞬時に行き来できる転移魔法ではありませんか!?」

「お、話が早いわね。そうよ、このワープポータルは王都の広場に繋げてあるわ。

 だから、これからはこの村と王都までの移動は一歩で終わるってワケよ」


これで村の防衛も食糧問題も解決。

さらにこれからを見据えた僕の計画にもこのワープポータルは役立ってくれるはずだ。


「さぁ、それじゃ一旦テンの店に戻って、作戦会議といこうか」



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