1-7 神官長の憂鬱
チャプター07
神官長の憂鬱
勇者召喚儀式の責任者である老齢の神官長は頭を抱えていた。
召喚の儀式当日に王都から出ていった勇者4人が、もう一週間も帰ってこない。
しかもそのうち2人は勇者として最大戦力となると伝承に記された大勇者と大魔導士。
あとの2人のスキルは確認していなかったが、うち1人は廃屋のあった場所に金属の屋敷を立てたというではないか。
街の植木屋から聞いた話では、妙な姿の少年少女に観葉植物の生産地を聞かれたそうだ。
木などと! 今はそんなモノを気にする余裕は人類側にはない。
各地からの軍の撤退による領土減少、人材、および慢性的食糧不足。
衣食住の全てが足りなぬこの状況で、何を考えているのか。
残った異世界人は20人。全員合わせても最大戦力の2人に比べ1/10にも満たぬ戦闘力しか持っておらず。
育成に時間はかかる、おまけに食にうるさく、こちらが切り詰めている食料にすら不満をもらし、
一向にモチベーションがあがらない。
200年前に行われた前回の勇者召喚の記録にもこんな事は書いていなかった。
ままならぬ、どしたものか。
人類側は過去に例を見ぬほど追い込まれている。
つい先日もここから馬で3日ほどの距離にある林業の村との連絡が途絶えた。
魔族軍の侵略が疑われ、早馬が向かい、今日戻ってくるはずだ。
頼むから魔族の侵攻であってくれるな。
あの地まで抑えられたのならば、いよいよこの国に未来はない。
そして戻って来た早馬の一報は、神官長の淡い願いを打ち砕くものだった。
「報告します! ナリテ村が魔族軍に占拠されておりました!」
――終わった。奴らはあの地の拠点として、王都に侵攻してきてしまう。
もはやここまでかと神官長が涙を瞳にたたえ……。
「が、現在は召喚勇者によって魔族軍は退けられたそうです!」
「――は?」
自体が飲み込めぬ、いや展開が早すぎる。
もう一度兵士の報告を聞き、間違いないかと3度確認し。
神官長はその場にへたりこんだ。
「そ……それで……勇者はいずこに?」
「現在ナリテ村の復旧作業に協力されております」
「そ……そんなものはこちらの兵士に任せればよい!
勇者には早急に王都に戻るように伝えよ!
「はっ!」
身体からどっと力が抜けた。
もう生い先も長くないのだから、もう少し労わってくれと神官長は頭を抱える。
こちらのあずかり知らぬ所で勝手に動いて、知らぬところで魔族軍を撃退しているなど。
「此度の勇者には、不安しかないのぉ……」
頼むから、魔王を討伐しこの地に平穏をもたらすまで、少しでもこの寿命を削らんでくれと。
神官長は胸を抑えて、しばし寝込むのであった。