1-6 大勇者と大魔導士
チャプター06
大勇者と大魔導士
戦う事に意識を向ければ、脳裏に浮かぶ無数の戦術。
スキル『大勇者』は喧嘩すらほとんどした事がない僕に、戦いの術を伝えてくれている。
緊張はある、けれど、心には余裕があった。
ヨツナと共に茂みに潜み、村の入口を封鎖するゴブリン7匹をじっと見据えれば。
右手に握るオリハルコンの剣が、ゴブリン達の首を刎ね飛ばす未来が見えた。
「まずは僕が飛び出してゴブリン達を切り倒す。
ヨツナはその中から逃げ出そうとしたゴブリンを魔法で片づけて欲しい」
「りょうかーい。あたしのスキル『大魔導士』の実力、試させてもらうわよ」
「よし、行くよ!」
茂みから飛び出し、まずは一番手近な、背中を向けたゴブリン目掛けて剣を振り下ろす。
音に振り返る前に、ゴブリンの体が縦に真っ二つに引き裂かれた。
包丁で絹ごし豆腐を切るよりも手応えがない、剣の切れ味が鋭すぎて地面ごと切り裂いた。
そのままの勢いを殺さずに剣を横に振りぬき、ゴブリンを皮鎧ごと断つ。
残りゴブリン4匹、いや、今斬り落としたのであと3匹。
うち1匹が村の中央へと駆け出した。
「逃がさないわよ! ライトニングボルト!」
パンッと空を奔る紫電が、駆けだしたゴブリンを撃ち抜き、消し炭となってパラリと崩れ落ちる。
その間に僕がもう1匹、ヨツナの二発目の魔法で最後の1匹を倒し、
ものの5秒もかからずに7匹のゴブリンを全滅させることができた。
「これは……すごいね」
剣の振り方を体がわかっているように動ける。
スキル『大勇者』の効果によって、僕の剣技は達人の域にも達していた。
そしてこのテンが作ってくれた剣。
斬れない物なんてこの世に存在するのだろうか?
ヨツナも手応え上々と、ミスリルの杖を振り。
「杖無しで試してた魔法と6倍は出力が違うわね。
さっすがミスリルと大きな宝石」
互いに強力なスキルと最高クラスの装備。
これがもしゲームだったのなら強くてニューゲーム状態だ。
しかしここでうぬぼれて油断はしない。
僕達は戦闘の素人で、この村にはまだ村人が居る、人質に取られるわけにはいかない。
入口から村の内部の様子を見つつ、作戦を練る。
ここから村の中央にある場所まで距離はかなりある。
またモンスター達も大量に配備されていて、その数、遠目に見えるだけで1200は超えていた。
「さて、僕達2人で村人を守りながらモンスターを倒すことができると思う?」
「無理ね。村人は分散して管理されてるし。
村人を無視していいなら全滅させる事はできるけど」
「ううん、人命第一で行こう」
ゴムの木が確保できればそれで終わりというわけにはいかない。
資源を採取する人だって必要だから。
それに一応、勇者なんて呼ばれる立場なわけだしね。
「じゃあ、人質を取られる前に速攻でアタマを潰す、でいいのね?」
「うん、それでいこう」
阿吽の呼吸、ツーとカー。
僕とヨツナの意思疎通は最低限で十分だ。
入口から村の中央まで、距離にして1Km。
僕は剣を腰だめに構えて、両脚にエネルギーを収束させていく。
体内に流れる魔力を魔法として使うのではなく、闘気として身体を強化。
さらにヨツナの強化魔法も上乗せする。
「パワーブースト、ディフェンスブースト、スピードブースト」
「突っ込むよ、合わせて」
「おっけー♪ さぁ、弾になってこーい!」
瞬間、爆音と共に、僕の体が大砲で撃ちだされたかのように加速する。
100メートルを突き進むのに0.5秒もかからない。
ターゲットまであと5秒。
通り道で邪魔するモンスター達が発射音で振り向くも、
弾丸と化した僕が纏う闘気に触れて、ちぎれて飛んでいく。
それにしても雑魚モンスターの数が多い、このまま触れ続ければ減速してしまう。
だから、それをわかっているヨツナの魔法が放たれた。
「蹴散らすわよ! ライトニング・ストーム!」
1000以上のモンスターの頭上に降り注ぐ雷の嵐。
高出力の雷撃で消し炭になったモンスター達は塵と化して消えていく。
モンスターの群れが消えた中、一匹だけそこに生き残るモンスターが居た。
全身が真っ白な鉱物で作られた鳥の化け物、ガーゴイル。
ヨツナの魔法でダメージを受けなかった、ということは、
魔力に対して強い耐性を持つ鉱物、ミスリルでできているのか?
ミスリルガーゴイル、どのモンスターよりも脅威判定が高いとスキルが教えてくれている。
コイツがこのモンスター部隊のリーダーか。
接触まで残り2秒。
ミスリルよりも硬度の高い鉱石など、この地上には極僅かしか存在せず。
特に疲弊しきった人類側にとってしてみれば、
上級武器でも傷つけられず、魔法でもダメージを与えられないミスリルガーゴイルには成す術などないだろう。
接触まで残り1秒、ミスリルガーゴイルは僕の握るオリハルコンの剣を見て驚愕している。
遅い、いや、そういう状況になるように突撃したのだから当然。
「テンに感謝しないとね」
ズンッと大根を切る程度の感触で、ミスリルガーゴイルの上半身と下半身が分かたれた。
オリハルコン、神のみが錬成しうる、人は授かる事でしか手に入らぬ神造錬鉄。
あとで調べて分かった事だが、人類側に残されているオリハルコンは現国王の王冠に0.5グラム使用されているのみらしい。
リーダーを失ったモンスター達は一目散に撤退。
その様子を牢獄代わりに使われていた家屋から見ていた村人達が、続々と外に出てきた。
「勇者……?」
「勇者様だ!」
「勇者様が、我らの村を救ってくださったのじゃ!」
勇者が人々を救う物語なんて、今時では逆に珍しいぐらいだ。
使い古された古典、今更語るまでもないお伽噺。
だけど、だからこそ。
「……この気持ち、悪くはないかな」