1-2 女神より賜りしスキル
チャプター02
女神より賜りしスキル
「そうじゃ! 異世界から召喚されし勇者には、
我らが女神からスキルを授かる事が出来るはずじゃ!
不満はそれを確かめてからでも遅くはあるまい!」
クラスメイト達のひんしゅくを受けていた神官長が思い出したように言い出した。
この世界で魔族とやらと戦うために、俺達に与えられる特殊能力があるそうだ。
が、俺にとってこの世界にはもう欠片も興味が無い。
なにが悲しくて自転車の無い世界で暮らさねばならないのか。
ヒィロとヨツナが帰りたいと言えば、周りの神官達を叩きのめしてさっさと帰ろう。
しかし、そのスキルという物に、2人の友人の目の色が変わった。
「いいね、異世界転移の基本」
「こうでなくっちゃねー」
ゲームやアニメに馴染がある2人にとって、魅力のあるモノらしい。
他のクラスメイトも満更でもない様子で、神官長の話に耳を傾けている。
「コホン、では勇者達よ、この女神像に触れ、女神よりスキルを賜るがよい」
頼む立場にしては随分と態度が大きいなと思いつつ。
女神像に駆け寄っていくクラスメイトを眺める。
「なになに……俺は格闘技の達人になれる能力だってよ!」
「ふぅん、ミーは、狙撃の名手ナリよ!」
「あたしは植物を自在に操るスキルだって」
「園芸部のユッコらしいじゃん、私は……なにこれ? 糸を操る能力?」
女神の賜り物とやらでクラスメイト達が妙な行動をはじめる。
突然動きが素早くなったり、手から炎をだしていたりと。
現実にはありえない現象だ、これがスキルという奴か。
「じゃあ僕達もいこうか」
「そうね、どんなスキルかしら」
ヒィロとヨツナも女神像に触れると。
女神像がこれまでとは違い大きく輝きだした。
神官長はこれを待っていたと言わんばかりに喝采をあげる。
「おお! 其方達こそが勇者召喚最大の鍵!
スキル『大勇者』と『大魔導士』の賜りし者である!!」
魔族を打ち滅ぼし、世界を救う大本命、2人にそんなものが宛がわれるとは。
さすが、というべきか、良き人間だからな。
神官達が大騒ぎしている影で、俺と視線を合わせようとしなかった黒髪のマレジキが女神像に触れて、
これまでとはまた違う特殊な光を浴びているが、大勇者と大魔導士とやらに注目していて誰も気が付いていないようだ。
まぁどうでもいい、さっさと終わってくれないだろうか、退屈であくびをする俺にヒィロが手招きしてきた。
「テン、あとは君だけだよ」
興味はないだろうけど、スキルとやらを授かれるなら授かっておけと。
仕方がない、拒否する理由もないか。
やる気もなく女神像に触れると、石造りの像にしては随分と暖かいな。
そして脳裏に響く、女の声。
≪貴方のスキルは、鉱物錬成・鉱物操作です≫
鉱物? 錬成? 操作?
なんの事だと疑問に思うより早く、
最初からその使い方を知っていたようにスキルの使い方が脳裏に浮かぶ。
手の中に意識を集中し、キュンと光が集い、生まれたのは鉄の塊。
完全な立方体にして不純物の一切ない純鉄。
見た目だけではない、重量も間違いなく鉄のそれだった。
「なにそれ、鉄の塊?」
「いつも自転車ばかりに触ってるから、そういう能力になったのかな」
ヨツナとヒイロがテンらしいスキルなんて言っているが。
自転車、ふと思い立ち、鉱物操作を試してみる。
鉄をパイプ状に伸ばす。まるで液体のように広がり、イメージ通りの形と長さと大きさに。
その鉄パイプを8本作り出し、パイプ同士をラグという接続パーツで固定すれば、
手の中に生まれたのは、スチールの自転車フレーム。
思い描くだけだ、それだけで、フレームビルダーと同じことが可能。
身体が震える。心が高鳴る。
なるほど、今になってヒィロとヨツナがスキルというモノに心惹かれていたのか合点がいった。
俺が作り出した自転車のフレームを見て、2人の友は”手遅れ”を察したようだ。
「あちゃー、なんてスキル貰ってんのよ……」
「テン向けすぎる能力が出来ちゃったね」
俺が次に言うセリフなど、もうわかっていると。
頬が熱くなる、俺はたぶん今、笑みを浮かべているのだろう。
「俺はここで、自転車を作るぞ」
魔族とか戦争などどうでもいい、ここでは自転車をいくらでも作り出せる。
この異世界に自転車がないというのならば、俺が作ればいいだけだ。