3-3 クラスメイトの勇者達
チャプター3
クラスメイトの勇者達
王都正常化計画は着実に進んでおり、
国が国として機能するようになるのにはもうそれほど時間はかからないと、
王国上層部ではそう見立てたが立っていた。
しかし今現在、ポーラン王国を陥れた原因が去ったわけではなく、
現在進行形でその脅威は差し迫っている。
「ハカマダ! そっちに行った!」
「任せろ!」
巨漢の召喚勇者から放たれた正拳突きがオークの顔面を捉えて吹き飛ばす。
スキル『格闘家』を女神像から授かった異世界勇者の一人、巨漢のハカマダ。
ナリテ村の森林地帯に魔族軍のモンスター部隊が現れたと報告を受け、
王都からワープポータルで急行した戦闘部隊が出撃し、敵戦力への迎撃にあたっていた。
聖堂教会ではまずは特訓、とは名ばかりの騎士団の私兵とされていたが、
王国軍所属となってからは戦力を遊ばせている余裕は無いと、
希望した召喚勇者は戦線に駆り出され、そのスキルを遺憾なく振るっていた。
「ふ、やはり実戦に勝る特訓は無いな!」
これは命を懸けた戦いとわかっていてもなお、ハカマダの格闘技は恐れるものなど何もないと、
強力なモンスター達を恵まれた体躯とスキルで蹴散らしていく。
両腕と両脚には超硬化特殊プラスチック素材で作られたプロテクターを装備。
これは我がクラスイチの変人自転車バカ、ワグルマ・テンが用意してくれた素材で作り出されたものだ。
手に入れる経緯を思い出すと、なんとも言えぬ思いになるハカマダ。
なぜかというと――。
異世界勇者ハカマダは連日の戦闘任務の合間に鍛冶屋を訪れていた。
聖堂教会から支給されていたガントレットが連日の戦いで破損してしまい、修理の為に持ち込んだのだが。
「えぇ!? 直せないのか!?」
「直してもいいが、もうこの鉄は使い物にならんぞ」
珍しい女鍛冶師は勇者の武具は優先して直したいが、直す材料が無いという。
飾りっ気がなく商売人でもない女鍛冶師は嘘は言わない、口にした事が全ての性格だ。
鉄が採掘できる鉱山はすでに魔族軍に抑えられており、王都に新たな鉱物が入らない。
そのため今ある鉄を何度も再利用しているのだが、リサイクルの過程で素材が劣化が著しく、
今のガントレットですら屑鉄製だというのに、これ以上劣化したらもう武器として使いものにはならない。
こういう鉄は回収し、王都復旧に回すようにと指示も出ている。
鉄か……心当たりは約一名。
鍛冶屋から出た足で、すぐさまワグルマ自転車店へと向かったハカマダ。
ファンタジーな世界の中で、ここだけは日本の店舗と変わらない。
作業場でガチャガチャと自転車を組み上げている店主のクラスメイト。
テンは入って来たハカマダのほうに少しだけ視線を向け、すぐに外して作業をしたまま。
「どうした?」
「ああ、実は頼みがあってな」
「自転車のオーダーか?」
「いや、自転車では無――」
「他を当たれ」
「少しぐらい話を聞いてくれ……」
自転車が関係がないなら一切興味無し。
むしろ邪魔だと言わんばかりの自転車バカ。
こいつはどこでも平常運転だなと、ハカマダは無理矢理言葉を続ける。
「俺の武器が壊れてしまってな。
直したいんだが鉄が不足していると言われてしまった。
お前なら、鉄材を用意してくれると思ったんだが」
鉱物ならば無限に精製できるスキルを持ったテンならばと頼むハカマダ。
ケンム・ヒィロから、テンは不愛想だが頼めばそうは断らない性格だと聞いているが、果たして。
「鉄でいいのか?」
用意はしてくれるらしい、というか、作業の片手間にピシュンピシュンと鉄板を傍に積み上げてくれている。
確かにケンムが言う通りだ、ならば貰っていこう思ったところで。
店の片隅に山積みになった廃棄予定のパーツの中に、気になるものを見つけたハカマダ。
乳白色のプラスチックの板のようだが、うっすらと煌きがある。
持ち上げてみると軽く、そして硬い、殴った程度ではヘコミ一つもつかない。
「ワグルマ、これは?」
「ん? ああ、自転車に使えるかと思い精製したが、失敗した新型プラスチックだ」
廃棄置き場に捨てた、と言う事は自転車には適さなかったのだろう。
テンは作業をする手は止めぬまま。
「持っていくなら持っていけ、200℃以上の熱でしばらく炙れば切断と加工が可能だ」
使い方をちゃんと教えてくれるあたり、根は親切な奴だ。
接客業に従事している故だろうが、つくづく変人である。
鉄板と新型プラスチック材を受け取り、鍛冶屋に持ち込むハカマダ。
「こいつぁ驚いた、なんだいこの高品質な鉄は。どういう配合で精錬してるんだい……!」
女鍛冶師はどこでこれほど上質な鉄板をと驚き。次に持ち込んだ乳白色の新素材に目を付け。
「なんだいこの板は……!?」
鍛冶師ともなると、素人のハカマダですら興味を持った未知の素材に一目で惹かれ、
ハカマダの手からひったくるように乳白色の板を手に取り。
「軽いのにこの剛性……、しかもこの色合い、まさか」
女鍛冶師は鍛冶に使う炎魔法を乳白色の板に叩き込む。
すぐ隣にいたハカマダが驚くのに構わずに、むしろ気に留める余裕もないと、
焦げ跡一つつかぬ板を握りしめる。
「この対魔力性能、ミスリルクラスじゃないか! これはいったい何だい!?」
ハカマダの首を締めんばかりに襟をつかんで詰め寄る女鍛冶師。
「し、しらん! こっちでは鉄の勇者と呼ばれている男が、失敗作だから捨てる素材と言っていた。
ここに持ち込めば何か使い道があると思って持ってきたんだが……」
「失敗作だぁ!? 何考えてるんだい!! ええい、鉄の勇者は他に何か言ってなかったか!?」
「あ……ああ、200℃以上の熱で炙れば加工ができると言っていたが」
「そんな事で加工が可能なのかい!?
こうしちゃいられないよ、あんたの武器、コイツで作ってやる!」
そして出来上がったのがこの乳白色の新素材プロテクター。
ゴブリンメイジの放つ氷魔法を凪いで防げば、
魔力で作られた攻撃がたちまち霧散する。
この性能、聖堂教会から支給された屑鉄のガントレットの比ではない。
あのあと女鍛冶師がワグルマ自転車店に突撃し、
乳白色の板を大量に貰っていたらしい。
なんでも硬質なプラスチックにミスリルを粒子レベルで混ぜ込む事で作り出された。
2つの世界の素材を組み合わせた新しい新素材だという。
性能はまさに今実証している通りで、
高耐久、高耐魔法、さらに加工も楽となれば鍛冶師垂涎の一品。
この新素材性の武器や防具が急ピッチで生産され、
これまで苦渋を舐めさせられていた魔族軍のモンスター達を押し返せるほどの成果を発揮していた。
なお新素材の名前だが「自転車に使わんモノに興味は無い」と作った本人談。
周りで勝手に『プラリル』と名付ける事になった。
「こーらハカマダ! ボンヤリしてんじゃない!」
ハカマダの後方で、森林の枝木を自由自在に伸ばしてモンスターと戦うクラスメイトの『フカツ』も、
同じプラリル製の杖を持っており、先端につけられたエメラルドで魔力を増幅し、
巨大なゴリラのモンスターを木で雁字搦めにしている。
聖堂教会で支給された杖では人一人運ぶ程度の力しか発揮できなかったというのに。
拘束されたゴリラモンスターの腹部を殴り、上半身事吹き飛ばして倒す。
「にしてもとんでもないじゃんこの杖、教会の連中からもらったボロ杖とはレベチ」
「こちらも良い感じだ。
まったくあいつら、勝手に城を出ていったと思えば、俺達とは桁違いのスキルを貰っていたんだからな」
勇者召喚の初日から抜け出し勝手に生活をし始めた4人のクラスメイト。
こんなわけのわからない世界で勝手に行動するなど無謀なとクラスメイトの皆が思ったものだが。
あの貧相な食事と、まともな娯楽のない環境に絶望した時は、あいつらだけ逃げやがってと恨み。
しかし戻って来て王都正常化計画なんて大それた事を行い始め、現実にこの国は良くなっている。
あの行動力にこちらも救われてはいる、が。
「はぁ、ワグルマめ、俺達のマレジキを……くっ!」
クラスどころか学校内でもファンが多かったマレジキ ナナミ。
ハカマダも目の保養になる美少女とこっそりファンで、裏で出回っている隠し撮り写真も部屋に飾ってあるほど。
これまで何人もの男が告白し、玉砕していったほど身持ちが固いマレジキだが、
ある時から他所からはっきりわかるほどワグルマに視線を向け始め、
異世界にやってきたその日からひとつ屋根の下で同棲までしているのだから、
ハカマダ含めクラスメイトの男子連中からすれば羨ましくて仕方がない。
鬱憤を拳撃に変えてゴブリンを殴り飛ばしている横で、フカツは。
「マレジキって、童貞がいかにも好きそうなあざとい女って、あたしらの中じゃ評判悪かったのよねー」
あれ絶対清純派ぶって男遊びしているだとか陰口を叩かれ、女子からは人気のなかったマレジキ。
家が食堂で手伝いが多く、友人と遊ぶ時間も無かったのも良く思われなかった理由だろう。
「で、この異世界に来て今度は女神様とかさ。
ああいう生きてるだけで男を釣れる女って、マジでいるんだなって」
「辛辣だな」
「それぐらい言いたくなるでしょ。
で、おまけに男選ぶ目も持ってるし。
今のワグルマとかどんだけ勝ち馬かわかってんでしょ?」
そのワグルマの作ったエメラルドの杖をこれみよがしに振り、
大木を鞭のように操ってモンスター達を薙ぎ払うフカツ。
おお怖い怖いとハカマダは苦笑いを浮かべながら。
「まぁ、あいつらのお陰でこうして戦えているのも現実だ」
「そ、飯は美味いしデザートはねだればくれるし。
実際話してみるとマジでいいコちゃんっぽいしさー」
けど、気に入らんものは気に入らん。
アレはアレと割り切れるほど若くもないし。
こっちは元の世界にいる彼氏に連絡も取れぬという怒りも込めて。
「ハカマダ、目の前のキモイの全部ぶっ潰すかんね」
「ああ、了解だ」
仕事を果たし、今日はパフェでも貰わねば気が済まぬ。
ハカマダとフカツはナリテ村を襲おうとするモンスター達を、ストレス発散半分で叩き潰していくのだった。