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3-2 自転車十色


チャプター2


自転車十色






自転車には人が求めるあらゆる形があり、

使い手にあった車種を顧客に提供する事も我々の役目。

尊敬する爺さんの教えは、俺が自転車に向き合う根幹にある。

特にこの世界ではそもそも自転車という存在が無く。

加えて王都の復興に求めらる機能も時が経つにつれて明確になっていく。

ナリテ村の木こり、以前三輪自転車を渡した男だが、

昨日、調子が悪いと店に持ってきて、点検し、俺は愕然とした。

この自転車を使い始めて2週間、たった2週間で、

木材という重量物を運ぶためか、チェーン等の駆動系パーツの消耗が早すぎる。

ブレーキワイヤー、パッドの消耗も著しい。

車のないこの世界では馬車や牛車を除けば三輪自転車こそが最も積載量の多い車両である。

故に、元の世界よりもさらに頑強さが求められているようだ。

改良の必要にあたり、木こりに求める性能を聴き取りした。


1・速度は求めていない。

2・積載量を増やし、安定性を高めて欲しい。

3・頑強、かつ壊れても現場修理が可能であれば尚良し。


この希望を満たすのならば、一般的に普及する三輪自転車の常識は捨てなければならない。

まずは駆動系、チェーンタイプが元の世界でも主流であり、

メンテナンス性に優れた機構ではあるが、この世界でメンテナンスができる者は今は俺しかいない。

ここは思い切ってチェーン駆動をやめて、『シャフトドライブ機構』を採用した。

これはフレーム内部にギアとシャフト、ピニオンを組み込み内蔵メカニズムだけで後輪を回転させる駆動機構だ。

(ミニ四駆と同じと言えばわかるだろうか)

元の世界でも自転車にシャフトドライブを採用している事は非常に珍しく。

現状、とある老舗メーカーの通学用ハイクラスモデルに採用されているぐらいで、

経験の少ない自転車技士ならば、その存在自体を知らない者も少なくはない。

特徴としては頑強かつメンテナンスフリー。

万が一壊れた場合の手間はチェーン駆動の比ではないが、今回はこの頑強性に着目した。

シャフト、ギア、ピニオン等の内部パーツには、

この世界でミスリル以上の硬さを誇るアダマンチウム(これも希少鉱石らしい)を採用した。

重量はあるが壊れない事を最優先。

シャフトドライブを採用する事で三輪自転車のスウィング機構は使えなくなるが、

操作性よりも頑強性を求める現場の声に応えた形だ。

そしてブレーキも一般的なアウター・インナーワイヤー方式ではなく、『ロッドブレーキ』を採用。

鉄の棒、ロッドを引っ張る事でブレーキをダイレクトに動かす、古くから使われているブレーキ構造だ。

俺が知る限り最もシンプルな構造をしており、頑強さは随一。

もし壊れてしまっても木の棒あたりを括り付ければ動作する。

ブレーキパッドにはまだ課題があるが、ロッドブレーキならば少し教えれば現地で調整が可能。

後ろカゴにあたる部分も材木運搬専用キャリアに変更。

日本の法律では許されない程に長く作り、安定性も上がっている。

前カゴも下ステー、およびランプかけをアダマンチウムを採用して強化。

元の世界では自転車には求められぬ運搬性能を追求した、

コストパーフォーマンス度外視の実用三輪自転車が完成した。

……アダマンチウムを採用している事に関しては、ヒィロには言わなければバレないだろう。

試作機を作って木こりに納品するとこれが大好評となり正式採用。

さらに他の資材運搬部門からも要望も受け、キャリアタイプを変更し増産をしている。

元の世界では求められる物が違う。

なんとやりがいのあることかと、俺の心が昂り続けていた。

これほどのやりがいのある自転車屋は、元の世界にもそうはないだろう。

やりがいはこの三輪自転車だけで終わらない。

次の仕事はこの世界の住人ではない、俺と同じ召喚勇者のクラスメイトの来客だ。


「ヘーイ、ワグルマっち、オレのチャリの準備OK?」


ヘッドホンでジャカジャカと音楽を聴きながら、小躍りして入ってくるクラスメイト。

聖堂教会から庇護、という名の管理されていた召喚勇者達は、

今は各々の能力を活かして王都正常化計画に協力してもらっている。

この……名前はなんだったか、呼び方はDJ男でいいか。

この男からの注文は、乗車した状態で戦闘が可能な自転車が欲しいという物だった。

所有スキルは射撃武器からネルギー弾を発射する能力、それを活かすことができる自転車が欲しいと。


「ああ、注文通りに仕上げておいた」

「OH! このハンドルについたアームはなんだい?」

「エアロバーを応用した狙撃姿勢用のサポーターだ。

 自転車に乗った状態からすぐさま狙撃姿勢に移行できるようにしてある」


今回の自転車のテーマは、人体だけでは不可能な機動力と狙撃力の獲得だ。

ベースは以前組んだ電動アシストクロスバイクと同じだが、

タイヤサイズは20×3.0インチと小径かつ極太タイプを採用してストップ&ゴーと安定性を重視。

フロントサスペンションは狙撃時のブレに繋がるためオンオフを切り替えるセレクタースイッチをハンドルに設けた。

リアキャリアにはパニアバックを装備して必要な装備を積載可能にしてある。

名付けて『スナイピングeバイク』専門分野では無いながらも自信作に仕上がった。

バッテリーの充電はクラスメイト達の寝泊まりする場所に発電機を用意してあるから問題は無い。

余談だが、異世界に来てからミュージックプレイヤーの充電が切れ、

この男が数日音楽無しで生活していた時の落ち込みはかなりの物だったらしい。

発電機を渡したら鼻水を垂らしながら泣いて喜んでいた。


「これはイーじゃない!」


乗車状態で愛用のエアガンを構えたり等を試し、気に入ってくれたようだ。

ちなみにエアガンに関しては鞄に入れて学校にこっそり持ち込んでいたのでこの異世界に持ってこれたという。

見つかれば大目玉だろうに、見上げたガンマニアだな。

スナイピングeバイクを渡し、次のオーダーの自転車の組み上げに入ろうとしたところで、

DJ男が廃棄(スキルで分解)予定のガラクタ置き場のあるものに気が付いた。


「ワ、ワグルマっち、ソコにあるの、ガン!?」

「ああ。そのマシンのテスト用に作った銃の事か? 廃棄する予定だが」


資料用にあずかった銃カタログを参考に、何丁か作った銃が目に留まったようだ。

内部構造まで紹介されていた本だったので、弾丸さえあれば放つ事も可能。

素材もできる限り実銃に使われている物で組み上げたため、ほぼ同じと言っていい。

ここが日本なら銃製造で逮捕されていただろう。


「ワグルマっち! 捨てちゃうぐらいならオレにコイツをくれよ!」

「それは別に構わないが……、1人でそんなに撃てないだろう?」


DJ男のスキルは射撃構造をする武器ならばどれでもエネルギー弾を発射できると聞いた。

ようはパチンコでもスリングでも使える、今手に持つハンドガン一丁で事足りると思うが?

どうもガンマニアとしては、それで満足するわけではないらしい。


「チャリマニアだって、1人で何台も持ってる奴いるじゃなぁい?」

「ああ、そういう事か」


確かに、ロードバイクやマウンテンバイクやらと何台も保有する者はいる。

銃もそれと同じで、状況によって使い分けるという事か。


「ヌフフ、FA-MASにP90、OH! PSG-1まであるじゃなーい!

 ワグルマっち、ガンスミスをやる気はないのかーい?」

「俺は自転車屋だ」


同じ趣味人間としてDJ男の気持ちはわからなくはないが、俺は銃にあまり魅力を感じない。

スナイピングeバイクと銃を上機嫌で抱えて自転車屋を出ていくDJ男。

さて、そしてさらに30分後には新しい来客がやってくる。


「鉄の勇者殿。我らは王国軍です」


現在王国の治安維持を行っている王国正規軍か。

話を聞けば、俺達召喚勇者が使っている二輪の自転車を軍でも採用したいという。

馬は新しく用意するには年単位の時間はかかる。

しかし自転車ならばその手間が省ける。

馬には及ばないながらも歩行に比べれば何倍もの移動速度が出せる。

聖堂騎士団によって衰退した王国軍の急遽再編の一環として、

自転車部隊を試験的に導入しようと計画が立ち上がったらしい。

自転車が人に活用されるというのならば、それに協力しない理由はない。

俺は自転車技士、人が自転車を求めるのならばそれを手伝うのが役目。

この世界での自転車屋はなんと忙しい事か、仕事が次々とやってくる。

忙しい、が、なんと面白い事か。

俺は自転車屋としてやり甲斐しか感じない。

あまりにも満ち足りた日々を送るのだった。




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