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3-1 賢人会議



チャプター1


賢人会議





ポーラン王国の政治を担う5人の老人達。

彼らは賢人と呼ばれ、この王国の行く末を決める立場にある。

聖堂教会神官長、統括大臣、地政学者、王国軍最高司令官、そして国王であるポーラン14世。

今、王都の会議室において緊急会議が開かれていた。

まず口を開くのは統括大臣。


「神官長殿、先日召喚し逃亡した勇者が昨日、騎士団長を殺害した件、誠なのか?」


魔族と戦うために召喚したはずの勇者が、この国の者を手にかけた。

特にあの騎士団長は賢人メンバーでは無いながらも、この会議に幾度となく参加した事もある重鎮。

信じられんとやたら大袈裟な振る舞いで問う統括大臣に、神官長は。


「うむ、大勇者の手で、ミュラー家の宝剣ごと首を落とされておったそうじゃの」


大事をなんだそんな事かと、あまりにも軽く答える神官長。

その態度に、統括大臣は机を殴りつけ。


「神官長! 召喚の責任者たるあなたの失態ですぞ!?」


その叱責に同意するのはもう一人。

統括大臣よりは落ち着いた雰囲気ながらも、かわりに粘りつくような視線を向ける地政学者は。


「さよう、強力な召喚勇者を手懐けられなかった。

 神官長、これはあなたのお立場にも関わりますな」

「ふん、わしの席が欲しいか学者よ?

 あいにくともはや聖堂教会に価値は無い」

「何を? 騎士団長1人失った程度で我が国の管理体制に影響が出るはずがありませんな」


その程度の情報しかないのかと神官長は地政学者を冷めた目を向けながら。


「女神シチーセブン様がの、勇者の1人に御身と同等の力を与えられた」

「どういう意味ですかな?」

「女神様のお力も忘れたか学者よ。

 その勇者は、食事を無限に生み出せる」


統括大臣と地政学者は動揺する。

食を徹底的に管理することでこれまで国民を支配してきたのは全員が理解している事情だ。

ならば女神の力を持つ勇者など、その構造を根底から覆す存在。

統括大臣はさらに声を荒げ。


「バカな! 勇者召喚の際に習得スキルを確認しなかったのか!?」

「その前に大勇者が連れ出しおったわ。

 あの者、他の勇者達とは明らかに違うしたたかさよ」

「だから、なんで貴様はそう他人事のように!」


大臣の叱責も馬耳東風、神官長はどこ吹く風と。


「女神の権威を失ったわしにもはやなにができようか。

 我が王よ、此度の件、いかな処罰もお受けいたします」


まだ会議に口を出さぬ王に、自らの処遇を願う神官長。

その態度に、王は重い口を開いた。


「神官長、勇者の管理をできなかった其方の落ち度、

 その責はとってもらわねばならぬが……。

 なぜ、そんなにも喜んでおるのか?」


王は神官長と長い付き合いだった。

その関係もあったからこその国の重鎮であり、信頼も篤い。

古くからの友の問いに神官長はニヤリと笑み。


「女神様が我らに救いの手を差し伸べて下さった。

 神官長として、これを喜ばずにいられましょうか?」


これまで聖堂教会のやってきた事を良いとは思わない。

しかしそれしか国が体裁を保つ方法はなかった故に後悔もしていない。

そして女神は教会ではなく勇者の手を借りて人々に施しをもたらした。

主神のご意思に従わずしてなにが神官長か。

なにを悠長な話をしていると、統括大臣と地政学者はもう冷静ではいられない。


「我らの権威はどうなる!?

 女神の名が無くば愚民共を誰が従わせるというのか!?」

「王よ! すぐさまその女神の力を授かった勇者を捕らえるべきでしょう!

 場合によっては――」

「――貴公ら、しばし黙れ」


王の低い声が静かに響き渡った。

ここ十年以上も見せなかった王の気迫に、文官あがりの統括大臣は情けなくも気圧される。

王はこれまで静観している王国軍団長に向け。


「軍団長、聖堂騎士団が権威を失った今、治安活動はそちらに任せる。

 召喚勇者と協力し、王都、そして転移魔法で繋がった各町を今度こそ死守せよ」

「はっ! 聖堂騎士団はいかが致しましょうか?」

「女神への背信行為で罰せねば他の者が納得するまい。

 分隊長より上の者は一時収監せよ、よいな神官長?」


あの騎士団長の横暴っぷりから教会への反発はすさまじい。

彼らに殺された者とて100や200で済まないのだから。

当然神官長はよく理解している。


「すでに待機を命じております。

 今外にでれば、民たちにリンチされるのが目に見えておりますからな」

「これまでの罪状を洗い出し適切な処分を下せ。

 それで、その女神の力を授かった勇者という者は?」

「とても可愛らしい娘です。

 その見目麗しさも相まって、女神の生まれ変わりと崇められておりますよ」

「ふむ、一度挨拶に出向かねばならんな」


王がわざわざ出向く、そんな下手な姿勢にと、黙れと言われた統括大臣は我慢できずに身を乗り出し。


「王よ! 我らが国が異界の勇者に靡くような真似はおやめください!」

「ほう、これまで散々教会側について王族をないがしろにした者が言う事か?」

「そ……そのような事は……。これは、我らの面子の問題です!」

「面子? 地方の民を見捨て、王都の管理もおろそかに、

 民を飢えさせ見殺しにしてきた我らの面子と言ったか?」


王はこれまで溜め続けた憤りを滲ませはじめる。

魔族軍に何も太刀打ちできずに、

ただ追い込まれていく人類を憂うも力及ばなかった自らを含めての怒り。

聖堂教会の力が失われた今こそ、再び実権を振るわんとする。

それから続く会議は、大勇者の提唱する王都正常化計画を全面的に支持する決定が成された。

聖堂教会の権威にすり寄っていた統括大臣と地政学者からすれば喜ばしくはない状況。

会議が終わった後、統括大臣と地政学者は二人だけで密談を交わす。


「このままではまずい、現状王都で最も力を持つ召喚勇者に、どうやって取り入るか……」


召喚勇者に取り入ろうにも統括大臣は出遅れた。

政敵である王国軍は炊き出しの初日の時点で警備を請け負っている。

あの軍団長、聖堂騎士団を蹴落とす機会を虎視眈々と狙っていたのだろう。

女神と同一視される勇者、敵対するにはあまりにも発言力が高すぎる。

唸る統括大臣に、地政学者はというと、あまり慌てた様子は見せず。


「大臣、その強者にゴマを擂る考えを改められてはいかがですかな?」

「なんだと? 教会に取り入って賢人になった学者風情が!」

「まぁまぁそうカッカなさらずに、ですから、ゴマを擂る必要はもうないのですよ」

「……何がいいたい?」


この地政学者、狡猾さで言えば統括大臣も一目置く男。

なにか妙案があるのかと、不機嫌そうな顔のまま期待する統括大臣。

地政学者は簡単な事です、と。


「ようは、誰よりも先にその女神の勇者をこちらの物にしてしまえばいいのですよ」

「簡単に言ってくれるな」

「簡単ですよ、連れ去ればいいのです」


頭を下げる必要などない、所詮は子供、奪えばそれで終わり。

突発で思いついたにしては地政学者の計画は実に魅力的で。

統括大臣の口元に、歪んだ笑みが浮かび上がる。


「大臣、これまで耐え忍んでいたのはこの時の為ではありませんか。

 いえ、もう大臣とは呼びますまい、未来の王よ」


そうだ、この歳まで生きてきたのは、大臣程度で終わるためではない。

今こそ権力の頂点にたどり着くべき時なのだ、と。



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