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2-8 ”ソレ”
チャプター8
”ソレ”
”ソレ”はこの世にあらざる者だった。
形だけは人であっても、中身は異物。
人の世界の異物は平然と王都を歩く。
困窮した民を救う女神に街中が沸き立つ中、
”ソレ”はある場所にたどり着いた。
聖堂教会本部の前広場。
そこに首を落とされ転がる遺体が放置されていた。
かつてはポール・ミュラーと名乗っていた美丈夫も、
泥にまみれた土気色の首は、だらんと舌をこぼしてみっともない。
”ソレ”は分かたれた首と身体を担ぎ、また歩き出す。
誰にも知られず、気がつかれず。
”ソレ”はケキキと小さく笑うような音を鳴らし、夜の闇に消えていった。