2-6 神官長の嘆き
チャプター6
神官長の嘆き
神官長はまた頭を抱えていた。
前代未聞は一度切りにして欲しい。
二度目にしても、もっと間隔をあけてくれないものか。
召喚した勇者が即日に出て行って村を救うのはまだ勇者としての仕事と言えよう。
だが、あろう事か聖堂騎士団団長の首を斬り落とす。
聖堂教会の存在価値を否定する女神に等しき民の救済。
そこまでの事を望んで勇者を召喚したわけがない。
ただ少しでも人類の窮地を脱するきっかけになればと。
藁にも縋る思いで命がけの勇者召喚を行った結果が、
今、神官長の目の前に立っている少年と少女の勇者。
『大勇者』と『大魔導士』の魔王を打ち滅ぼすキーパーソンは、
神官長への詰問を続ける。
「――つまり、あなたはあの騎士団長の狼藉を知っていた、と」
「確かにやりすぎではあった。
しかしな、ああでもせねば王都の民の統制はとれん。
民同士の奪い合い殺し合いをある程度抑制するには最善の手段であったのじゃ」
「ナリテ村を見捨てた件はどうなのよ?」
「それに関してはわしはまったく知らんかった。
常駐する騎士団が略奪の後王都へ帰ったなど、
王都の者達のほとんどが知らぬことであったろう」
「何よ、神官長なんて肩書、お飾りじゃない」
胸にズシリと刺さるが、何も言い返せない。
だが、これだけは言わせて欲しい。
「わしとて、何かできるのならばしたかったわ!
だがな、この国の状況は詰んでおった。
お主たちとて、あの女神に等しき奇跡の御業がなければこうはできなかったろうに!?」
人々に無限に食を与える奇跡。
そんなものがあるのならば、いくらでも人が救える。
そう、それほどのものがあれば。
「その召喚をしたのはわしなんじゃ……。
そちらの都合も考えずに呼び出したこと、申し訳なくは思うておる。
だが、其方達はこの国の劣悪な状況を知ったからこそ、
あの騎士団長を手にかけたのではないのか!」
口にする言葉のなんと情けない事か。
歳は3倍は離れた少年少女にみっともなく頭を下げ。
「……頼む。どうかこの国を救ってはくれまいか?」
この国を憂いている、誰よりも。
もう老い先短い、枯れ枝のような首一本で済むのならば。
しばしの沈黙ののち、大勇者が口を開く。
「なら、聞きたい事がいっぱいあります。
それから、これから僕達がやる事に協力してくれますか?」
「誓おう。神官としてではなく、わしのこれまでの人生にかけて」