2-3 王都に帰り
チャプター3
王都に帰り
あたし、ヨツナの作ったワープポータルで王都に戻って来て、すぐにテンの自転車屋へと向かう。
自転車屋入口にはあたし達の帰り待っている兵士が2人。
おそらく聖堂騎士団の連中ね、外門を通らずに帰って来たあたし達に驚きながらも。
「異界の勇者達よ、今すぐに王城に戻りなさい。
従わぬ場合、女神の神罰が下る事になるでしょう」
女神の神罰ねぇ。村で聞いたやり口からして、どうせ食事を配給しない、とかね。
確かに人間は食事をとらないと死んじゃうから、その神罰とやらは効果的でしょうけど。
「きゃー、神罰こわーい。って、その女神様に言っといて」
「な、なんと罰当たりな!」
「食の女神様のご加護を受けてるあんた達がそんなガリッガリのやせっぽちで、
神の加護の説得力あると思ってんの?」
こんなところに立たされている兵士だから、聖堂騎士団の末端の兵士。
空腹を利用されて従わされているんでしょ。
このままあたし達を連れて帰られなかったら、その神罰という名の御飯抜きの刑を受ける。
なんとも言えぬ兵士の顔にナナミは察して、ポンと作り出したのはホットドッグ2つ。
「お仕事お疲れ様です。
皆様にもお役目があるとは理解していますが、私達にも考えがあります。
今はこちらでどうか、ご納得頂けませんか?」
やわらかいパンズに極太ウィンナーにケチャップ&マスタード。
兵士達は見たことが無くても香ばしい匂いが胃袋を刺激しているようね。
ゴクリと唾を飲み込み、迷いに3秒も必要なかった様子。
よっぽどお腹が空いていたのか、かぶりついて飲み込み。
目尻に涙まで浮かべ始めてる。
……というか、うまそう、あたしも食べたくなってきたわね。
兵士2人は口元にケチャップをつけたまま、キリッと勇ましい顔をして。
「勇者様はまだお帰りになっておらず、この邸宅にも誰もおりません!」
「またこの邸宅には誰一人中には入れぬようにさせて頂いております!」
んー、やっぱり胃袋を支配するって効果絶大。
それじゃあよろしくと自転車屋の中に進むあたし達4人。
店の入り口に立ってくれている兵士2人が何か小声で話している。
「なぁ、さっき食べたの、幻じゃないよな?」
「本物だったぞ……まさか、あの娘、いやあの方は女神様……?」
……まぁ、そうなるわよね。もはや予定調和。
テンはさっそく作業場に腰かけ、新しい自転車の製作に没頭し始めているわね。
コイツのコレはいつも通り、ほっといてテーブルを3人で囲んで、
ナナミがオレンジジュースを4つテーブルに置いて、会議が始まった。
「それで、あたし達はこれからどうするか、よね?」
「うん、僕からの提案なんだけど、まずはこの国を正常な状態にしようと思っているんだ」
「正常な状態……ですか?」
色々と意味合いがとれそうな言葉を確認するナナミ。
こういう回りくどい言い方をするの、ヒィロって感じよねー。
「具体的には住人に衣食住をキチンと用意して、生活水準を安定させる。
魔族との戦争も問題だけど、それ以上の今この国の状況は悪すぎるよ」
人々が食うにも困り、活気の失われた王都。
こんな状態じゃ、戦争もまともにできないでしょうね。
「その為にはマレジキさん。君に一番の負担を強いる事になると思う」
「はい、まずは街の皆さんに食事を提供する事ですね?」
「うん、まず食べないと人間は何もできないからね。
お腹を満たしてから街を復興していこうと思うんだ」
ナナミのスキルを最も有効的に活用できる方法ね。
料理を作り出すのに体力も魔力もなにも消費するエネルギーは無いらしいから、
住民全員に食事を提供する事も余裕。
ただし、とあたしが口を挟んでおく。
「警戒しないといけないのは聖堂騎士団の妨害ね。
女神シチーセブン様と同じ事をする女、
食料を使って人心掌握する連中が放っておくはずないわ」
「だろうね、村で聞いた聖堂教会の連中の動きを考えれば、ほぼ間違いなく強硬策に出てくると思う」
もちろんそんな事にならないに越したことはないけれど。
利権に固執する人間の醜さは、あたしとヒィロは良く知っている。
彼らは間違いなく、ナナミの排除、もしくは入手に動くでしょう。
ここから具体的な相談に入る。
予想、計画、準備は念入りに。
村から借りてきた王都の地図も確認して、注意点を洗い出す。
ふとヒィロの横顔を見る。真剣ながらもどこか活き活きとしていて。
本人はガラじゃないと言うけれど、リーダーシップを取るのが似合うあたしの彼氏。
あたしはこの世界でヒィロと生きていけるのならば、それで十分だと思っている。
できればナナミとテンもそうして欲しいけれど、それは2人が決める事ね。
さて、テンの奴、こんなに可愛い子が甲斐甲斐しくしてくれてるのに、相も変わらず自転車の事ばっかり。
この会議だって、本題はナナミを守る話なんだから、ずーっと背を向けて、工具を両手にカチャカチャと――。
「――テン、用意してもらう物は把握した?」
「アルミテーブルとパイプイスを千席分、資材運搬用の三輪自転車の増産だな。
それと炊き出しが始まったら俺はマレジキの傍で作業に入る」
なによ、ちゃんと聞いてるんじゃない。
ヒィロもテンの事は全部わかってるみたいな顔して、なんか妬けちゃう。
ジェラシーはそれだけじゃないけれど。
そもそも王都の正常化とか言い出した一番の理由って、テンの為なんだからね。