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06 推し友が欲しい(2)



「あ、あなたは!」

「そんな無益なことで争いをしてはいけないわ。ここは学び舎、あなたたちにはもっとやるべきことがあるでしょう?」


(ここは手を取り合い、一緒にザロヴィア様を愛でましょう! 愛を語り合いましょう!!)


 しかしフェティローズの予想に反して、赤髪のプルマはキッと眉根を釣り上げて反抗した。


「ここにいるアリア様はご自分の立場もわきまえず、ザロヴィア様と二人きりでお話しされていたのですよ。ザロヴィア様はみんなのザロヴィア様、フェティローズ様だってそう思いますでしょう?」

「ええ、そう思うわ」

「「「はい?」」」


 3人全員が唖然とした。

 特に発言した本人であるプルマは「婚約者であるフェティローズ様だって独り占めしてはダメですのよ」と嫌味を言ったにも関わらず、フェティローズに真顔で返答され動揺を隠しきれない様子だった。


「な、なによ。それで勝ったつもり? わたしは婚約者だからあなたとは違うのよってアピールでもしたいわけ? とんだ性悪女だわ」

「ええそうです、わたしは卑しい女なのです。ザロヴィア様にだってそう思われておりますわ。だから勝つだなんてとんでもないこと」

「「「え???」」」


(なんといったってスケッチブックを見られてしまったから!)


 自信満々に答えるフェティローズ。

 さらに混乱を極める他3人。


「気持ちはみんな一緒。ザロヴィア様を愛する者同士、手と手を取り合って──」

「き、貴族でもなんでもないくせに、気安く触らないでくださいまし!!」


 フェティローズが掴もうと手を伸ばすと、プルマは手を払いのけた。

 自分がやったことの重大さに気付き、プルマの顔が徐々に青ざめる。

 緑髪のスウィートは、誰かに気付いて「ああ!」と恐怖の声をあげた。


「これはいったい何の騒ぎですか?」


 ザロヴィアが登場した。

 それだけで野次馬が彼に道を譲るため、真っ二つに割れる。


「ざ、ザロヴィア様」

「プルマ・カイザス子爵令嬢、並びにスウィート・アルダム男爵令嬢。俺の婚約者が何か失礼な事でも?」

「と、とんでもございませんわ」

「ええ。フェティローズ様に限ってそのようなこと……」


 顔を青ざめさせながらお辞儀をする二人。

 ザロヴィアは一度フェティローズに視線を送ったあと、再びプルマとスウィートに向き直った。


「アリア・クインザ嬢には道を尋ねられ、その時に少し話をした。俺がいつどこで誰と話そうが、あなたたちにとやかく言われる必要はないと思いますが?」


 いつになくザロヴィアの声が厳しいもので、二人はすくみ上った。

 ザロヴィアは続ける。


「さきほど、俺の婚約者フェティローズへの侮辱ともとれる発言が聞こえた。いくらここが学園内で、生徒同士の無礼講が許されているとはいえ、褒められたものではありませんね。性悪女、貴族でもないくせに……、か」

「「……っ!!」

「お待ちくださいザロヴィア様」


 声をあげたのはフェティローズだ。


「性悪女というのはわたしにも覚えがあります。彼女たちが一方的に責められて良い話ではありません」

「フェティあなたはまたそうやって……」

「本当のことです。それに、貴族でもないくせに、という彼女の発言も、言い方はさておき仕方ないと思いますわ。なにせ、今の貴族名鑑にはアルモンド家は載っていないのですから」


 知っているのはザロヴィアだけ。

 3人は目を見開いて驚いていた。


「先日、両親とともに国王陛下に謁見いたしました。そこで、我が父は侯爵の地位を下賜されました」

「侯爵!? え…………でも貴族名鑑には」

「実は、アルモンド家は元々ルードリッヒ王国の人間ではないのです」

「じゃあ……アルモンドって、あのドレッツェ国の王族……?」


 はい、とフェティローズは頷いた。

 ルードリッヒ王国の属国であるドレッツェ国は、属国といいながらも特別な地域だった。理由は、聖女と呼ばれる特別な力を持つ女性が生まれるのは、ドレッツェ国だけ。どんな傷でもたちどころに治し、魔物のはびこる大地を一瞬で浄化できる聖女は、周りの地域から崇められ、畏敬の対象だった。


 聖女を輩出するドレッツェ国だが、限られた血筋の者からしか聖女は生まれなかった。その一族の一つが、アルモンドの名を受け継ぐ者たちだ。


 アルモンド家は王族の末裔として、ドレッツェ国では公爵の立場だったが、ルードリッヒ王国では貴族ではない。フェティローズがザロヴィアと婚約するにあたり、アルモンド一族は丸々ルードリッヒ王国に籍を移した。


「本来なら、父が侯爵となった後に学園に編入する手はずだったのです。しかし、国王陛下自らの事情で下賜の時期がずれ、貴族名鑑にもアルモンドの名前が載ることなくここに来る羽目になってしまいました」


 口をパクパクさせるプルマとスウィートを見て、フェティローズは申し訳ない思いになる。ドレッツェ国の歴史の事が詳しければ、アルモンドという名前だけで平民ではない事が分かるかもしれない。しかし、今は貴族名鑑にもない名前だ。アルモンドを、ドレッツェ国の『アルモンド』だと結びつけることが、どれだけ困難な事か。


(せっかく推し友を見つけられたのに、これでは空気が悪すぎるわ)


 もっとフラットでありたい。


(仕方ないわ。彼女たちが落ち着いてから、推し活にもう一度誘ってみましょう)


 彼女たちだって、ただザロヴィアのことが好きな女子生徒の一人なのだ。

 本当はもっとザロヴィアと話したりしたいはず。

 婚約者であるフェティローズが、羨ましかっただけ。


 フェティローズはザロヴィアを促し、その場から離れる。

 

「あ、あの!」

「ん?」


 アリアだった。

 フェティローズを慌てて追いかけたために、顔が紅潮して息が上がっている。


「助けてくださって、ありがとうございます!!」

「助けて……?」


 悲劇の仲間割れ騒動から助けたのは事実だが、目を潤ませて喜ぶほどのことだろうかと、フェティローズは思う。


(あ、ザロヴィア様を見て興奮してるのね。分かる、分かるわぁその気持ち。わたしだって未だに慣れてないもの。隣に立ってるだけでフェロモンを感じるもの……)


 フェティローズは、頬に手を添える。

 その仕草を照れ隠しだと勘違いしたアリアは、ますます興奮したように声を弾ませる。手を差し出し、握手を求めた。遠慮がちにフェティローズが応えると、パッと顔を晴れやかにしたかと思えば、すぐに眉を八の字に曲げた。


「初めてお会いしたとき、うまく挨拶出来なくてごめんなさい……」

「気にしなくても大丈夫ですのに」

「い、いえ! フェティローズ様、すっごく美人で綺麗な人だなぁって、私思ってたんですけど、いざ面と向かうとすっごく緊張しちゃって……」

「そんなことだろうなと思ってましたわ」


(というかわたしもガッチガチに緊張して威圧していた覚えがありますし)


 フェティローズにとっても苦い記憶だ。


「みんな悪役令嬢だなんて噂してますけど、そんなロマンス小説に出てくるような嫌な女の子なわけないって思ってました。わ、私に勇気があれば、言い返していたんですけど……」

「気にしなくていいんですのよ。悪役令嬢っぽいと思いますわ、わたし自身は」


(だってわたしはザロヴィア様の婚約者なのよ。こんな卑しい女がよ? 立派な悪役じゃない? もっと、アリアさんみたいに可憐で清純でいかにも正統派、みたいな女性の方がヒロインっぽくない?)


 フェティローズとしては、自分が悪役令嬢と呼ばれることは腑に落ちている。

 しかしアリアと、なぜかザロヴィアも二人そろって首を横に振っていた。


「でも、今のフェティローズ様を見て確信しました! フェティローズ様は、絶対に悪役令嬢なんかじゃない。私、フェティローズ様のファンになっていいですか!?」


(ええ!? どういうこと!?)


 そんな潤んだ目で見つめられたら、基本的に可愛いものに弱いフェティローズは頷くしかない。

 アリアは嬉しそうに胸の前で拳を握った後、フェティローズとザロヴィアにお辞儀をして、足早に去っていく。

 ぽかんとするフェティローズに、やや嬉しそうなザロヴィアの声が響いた。


「フェティが悪役令嬢だなんてありえないですから」

「どういうことですか?」

「胸に手を当てて自分自身に聞いてみてください」


(いやだから、ザロヴィア様を独占してるんだから、立派な悪役令嬢よ……?)


 言い返そうにも、ザロヴィアはさっさと歩きだしてしまう。

 慌てて追いかけたフェティローズは、最後の最後まで疑問符を飛ばしまくっていた。 



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