第９３話 魔力の解放
ユタの中では、知らない間にある呪文の幻想が作られていた。
それは魔力を強烈な勢いで放射し攻撃力へと変えるシンプルな物だったが、今のユタに必要な攻撃魔法であった。
ユタは今までに誰かにこんな攻撃呪文は教わった事はなかったが、この呪文を見た事はあった。
悪戯小人の罠にハマり、生き埋めになった後だ。ユタの周りを不思議な魔力波が包み込んだと思うと、周りの岩石は一瞬で塵に変わりユタは脱出できたのだ。
「きっとあの時 ベリー・ライトが使ってた呪文だ。という事はこの呪文のイメージを俺に伝えたのは、アイツか？！」
―確かに俺を殺す直前。ロクな呪文を覚えてないとか、お前じゃ仲間を守れないとか言って俺の事をバカにしていた気がする。じゃあ、サービスてのもこの事かよっ―
一体どうやって呪文のイメージを送り込んだのか。奴の力は底がしれない。
ベリーの使う魔法はこの世界で知った魔法技術のどれとも違っていた。奴の元居た世界の魔法という奴なのだろうか。
「くそっ なんだか見下されてるようでヤナ感じだゼ」
あんなフザケタ幼女だかおっさんだかも分からない奴から施しを受け、苛立ったユタは近くに転がっていた石ころを思いっきり蹴飛ばした。
しかしだ。そうは言ってもだ。現状でこの力が打開策となりえる事はユタ自身も分かっていた。少し考え落ち着いた後、ユタは頭の中にあるイメージを反復した。
「イメージ通りなら、俺にだって使える呪文のハズだ」
残念ながら奴のように無詠唱という訳にはいかない。
頭の中で呪文の情報をさらに整理する。
属性：きっと単純な無属性だ。属性魔法が苦手なユタにとってはとても助かる。
ランク：不明。下級呪文のような気もするし、極大呪文のような気もする。分からない…
分類：遠距離攻撃呪文だ！これならスライムの反撃を受けずに済む！
発動の為のイメージもちゃんとある。だが念には念をだ。なので試しにテストをする事にした。
ユタは軽く腕を前に突き出し、魔力を正しく使うイメージをした。上手くいけば手の平の辺りから猛烈な勢いで魔力波が噴き出るハズだ。
ポォォ…
―お、なんか上手くできそうだ―
ォォオ…… シュドドドドドドドドド
「うあッ」
突然ジェット噴射のような勢いで噴き出した魔力に驚き、ユタは態勢を崩して呪文を中断させた。だが放った魔法の威力は凄まじいのモノで、魔力波があたった地面は消えて無くなってしまっていた。
「……ハハハ スゴイぞ！ これなら絶対、倒せるゼ！ よし、さっそくスライムをぶっ倒すとするかよ！」
ユタはそう言って勢い勇んで立ち上がった。しかしそれは出来なった。
突然ユタはその場に倒れた。
「あ……れ………？」
ユタの右半身が全く動かなくなっていたのだ。感覚は既になく、視界もだんだんぼやけてくる。
―ど、どうしたんだ？ いきなり何が起きたんだ―
そうこうしてる内にユタの身体は全身が動かなくなってしまった。
ベリー・ライトがユタに渡したこの呪文―イクスブレイブは、発動の為に魔力の他に生命力をも代償としたのだ。
ユタの魔力量を持ってしても、イクスブレイブの最大出力の為には魔力がぜんぜん足りなかった。なのでイクスブレイブは、ユタにさらなる対価を要求したのだった。
しばらくして生き返ったユタは、沈黙の洞窟の中、一人で大声で笑っていた。ひとしきり笑ったあと、ユタはこう言った。
「イクスブレイブか……なるほど、確かに勇気が必要だ」
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