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第91話 OOOネイチャ~

 ここは闇。一筋の光さえ無い。


 ―とても静かだ。頭がからっぽになる―


 音も無ければ、光も無い。ユタの意識は死ぬといつもそこにあった。

 死んだあとで意識がとある場所にあるなんておかしいと思うだろうが、そうなんだから仕方ない。


 何も無い空間で、上とも下とも区別がつかない所を永遠に漂う感じだ。まるで水面に浮かぶコケにでもなったかのよう。


 だがしばらくすると、強い浮力のような物を感じる。何かに引っ張り上げられるという方が近いか。それが、ユタが何度も経験した生き返る前の前兆だった。



 ピチョン


 ユタの額の上に、水滴が落ちてきた。そのあまりの冷たさでユタは目を覚ました。


「冷たっ」


 ユタは驚いて一気に飛び起きる。


「何だってんだよ! あれ?ここどこだ」


 周りを見渡す。するとここが沈黙の洞窟の中の一番大きな地下湖だと分かった。さっきの水滴は天井の鍾乳石から結露した水が落ちてきたのだった。


 死んで生き返ったばかりのユタは、自分が何故こんな所で一人でいるのかも最初はよく分からなかった。しかしだんだんと頭がハッキリとしてくると、誰のせいでこんな所で死んでいたのかを思い出してきた。


「……そうだ。あの変態やろうがいきなり襲いかかって来たんだ! それで不意を突かれてそのまま…… くそぉっ」


 ベリー・ライト。奴は俺と同じ異世界からやって来た人間だと言っていた。この世界に来てからそんな事を言って来たのは奴が初めてだったから、最初は少し嬉しかった。同じ境遇の人間に初めて会えたと思ったから。

 だがアイツは信用できないタイプの人間だった。見た目が女児なのに中身がおっさんだったり、変態だったり。頭がおかしいとしか思えない。


「何より、俺の事殺しすぎだろ! ふざけんなっ 不死だからって痛いものは痛いんだ」


 人間、自分の事をすぐに殺してくる奴を信用できるだろうか? 断じて否だ。


 ユタはベリーの事はすっかり忘れようと決めた。不運な災害にあったのだと。

 そして自分の現状を思い出す。未だ仲間とはぐれてしまったままだ。


 ―みんなは今どこにいるのかな。まだあの迷路を進んでいるのか、それとも地下湖まで下りてきているのか―


 しかしこの洞窟内であの迷路から通じているような出入口をまだ見かけていなかった。


「どうやったら上にいるクレア達と合流できるんだよ。」


 どうすればいいか分からないユタは思わず頭を掻いた。そしておもむろに収納魔法(ストレージ)を開くと、中から魔法結晶を一つ取り出した。それはベリー・ライトがユタに渡したものだった。


「あいつを信用するわけじゃないけど、本当にこの中に転移呪文が入っているなら地上には出られる。そして地上の入り口から沈黙の洞窟に入ってみんなを追いかければ、合流できるかもしれない」


 ベリーの事は嫌いだ。信じられない。だがそれでも一つだけ信用できる事があった。魔法だ。

 目の前で見せつけられた奴の魔法の実力。戦闘技術は間違いなく本物だ。その奴がかなり強力だと言った呪文が入っている魔法結晶だ。よほど強い物なのだろう。


「う~ん、どうしよう」


 ユタは手に握った魔法結晶を見ながら悩んでいた。しかしふとある事に気が付いた。

 手に自分の抜けた髪の毛が何本かまとわりついていたのだ。


 その瞬間に、ユタの脳内に電撃が走る勢いで記憶が戻ってきた。


「そうだった! アイツになんかされたんだ!」


 ベリー・ライトはユタを絞殺する時、魔力の封印を解除すると言っておかしな魔力を流し込んだ。そのせいでユタは我慢できないほどの熱さと痒みを感じた。


「身体は……爆散はしてないようだ」


 かつて迷いの森で蓄え続けた巨大な魔力は、ユタの身体には余りあるものだった。そこでビアードは暴走しないように体内の魔力を抑える丸薬を飲ませたのだった。

 もしその丸薬の効果が解除されたのだとしたら、今頃こなごなになっているハズだから、奴の解除は失敗したのだろうか。


「あッ俺の髪は!?」


 ユタは近くの水溜まりを鏡代わりにして自分の頭を確認した。だが髪の毛はさっき抜けた少量だけで、ビアードの丸薬を飲んだ時のようなハゲ頭にはなっていなかった。


「っふう。よかった。あんな頭は二度とごめんだからな」


 もし封印が解除されたら、あの時と似たような症状がまた出るかもしれないと思ったのだ。

 しかしそれもただの杞憂ですんだ。ベリー・ライトの呪法は失敗だったのだ。


 ユタは安心した。だがそれは、ほんの一時の間だけだった。

 なぜなら、ユタの後ろから闇の中を這いずり回るモノが近づいていたからだ。

ご拝読いただきありがとうございます!


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