第90話 爆死☆
目の前のコイツは、自分と同じこの世界の人間ではないと言った。そして彼女は、形容しがたいなんとも奇怪なポーズを満足気に決めたままずっと動かない。おそらくだが、俺に感想を期待しているんだ……。
「ええっと、ベリー・ライトさん? それは何なんだ」
「フフッ ベリーでいいぞ。よくぞ聞いてくれたな! これは俺様の考案したカッコいいと可愛いが融合した最高のフォーメーションなんじゃいッ」
「ハハハ…… ん、ていうかその見た目で一人称が俺様って、スゴイ変だな。話し方もなんかオヤジ臭いし、お前本当に女の子なのか?」
それを聞くとベリーはポーズをとるのを止めた。
「そ、そそんな事ないのじゃいッ ごほん。ワタシはちゃんと女の子。どっからどう見てもそうだろう? ほら、ほら」
「あ、ああ」
可愛らしいリボンがついたスカートを両手でわしづかみにし、彼女はユタにアピールするように見せつけてきた。外見は完全に女児だが仕草はとってもたくましい。
「なんなら、見せるもん見せてもいいぞ」
「は? いらないよっ」
「フフッ ガキだな」
―絶対こいつ中身違うだろっ―
ユタはそう確信した。いいかげんベリーのセクハラまがいの行為にもうんざりしてきたので、ユタはさっさと本題を尋ねる事にした。
「なあ、異世界転移したって言ってたよな。それはやっぱり、お前も地球からこのツヴァイガーデンに来たって事なのか? それにお前色々知ってるだろ。例えばなんで転移したのかとか、あとは」
「オイ待て」
「え、なんだよ」
突然ユタの話を遮った。そしてユタにこう言った。
「俺様……じゃなくてワタシは、まだお前の名前を聞いていない」
「はあ? いや、そんなのとっくに知ってるだろ。俺のキャラも知ってたくらいなんだし」
「もちろんお前の名前は知ってる。だが名乗ったら名乗り返すのが男同士の礼儀ってもんだ」
「え、男? ベリーは男じゃないんだろ」
「うッ と、とにかく名乗れ!」
「あー……分かったよ」
めんどくさいと思ったが、ユタはしぶしぶ言う通りにした。
そして少し悩んでからこう言った。
「俺は…………ユタ。冒険者のユタだ。元は地球で高校生をしていた」
「フン、嘘をつけッ お前の名前は富士見優太だろ」
「……どうして分かるんだよぉ」
「測量魔法で見えるんじゃい」
測量魔法の名前には聞き覚えがあった。確か魔法適正を知るためにビアードが大層な機械を用いて使用していた。
「やっぱ、名前なんて話す必要なかったじゃん」
「そんなことないッ いつ、どの世界だって、礼ってのは大事じゃい」
ユタはなんか説教されたようで気に食わなかった。
「そうかよっ。そうだ。ベリーも地球から来たんだよな!」
「いいや。俺様……、ごほん。ワタシは地球という所など行った事もないワ」
「ええ? だったら、なんだってんだよ」
すると突然、ベリーは右手を高く掲げた。すると彼女がタンスから出したままにして床に散らかったままだった木の器や箱、スクロールやおかしな人形などがふわふわと宙に浮き始めた。そしてそれらはユタ達の上をクルクルと何回か回った後、それぞれが元いた場所(つまりタンスの引き出しの中)に吸い込まれるように戻っていった。
ユタはまたも驚いた。今見た光景がとっても魔法っぽかったからだ。
例えば、カトラの使う火がゲームとかに出てくる攻撃魔法だとしたら、ベリー・ライトが使ったモノは絵本などで舞踏会にいくお姫様のために、魔法使いがカボチャを馬車にかえるようなモノだ。
なんというか、ユタは同じ魔法でもそれはべつの物だとはっきり感じたのだ。
「……今のは、なんて魔法なんだ」
「ああ? 魔法だと。 こんな低レベルな魔力現象に名称なんてあるものか。それより俺様………ワタシ………」
そう言いかけてベリーは途中で黙ってしまった。途中でいちいち一人称を訂正するのが煩わしくなってしまったのだ。
「ああッ めんどくせー! 俺様は俺様なのじゃい!」
「お前、本当は男だろ。さては妖術か何かで、汚らしいおっさんが化けてるんだろ」
「違う。そんなんじゃない。ワタ、俺様……はただ、いたいけな幼女が好きなんじゃい!」
「うわっ ええ? ん、どういうこと?」
ロリがロリを好きなのか。それとも実はおっさんで、おっさんがロリを好きなのか。
事によっちゃ通報案件だ。コイツの趣味嗜好など知りたくもないが、絶対にクレアやネーダには会わせたくない。
そしてベリー・ライトは語りだした。
自分がツヴァイガーデンに来たのは、今より遥か過去の事だという事。そして元の世界にも魔法文明があり、ここに来る前も自らは魔法使いだったと言う事を。
「俺様はかつてはナイスガイだった。だから自然と美女が寄ってきたが、どいつも俺様は興味がなかった。俺様は15歳までの小さな女の子が大好きだったからだ!」
「…………フツーに、きもいなっ」
―まずい。ネーダは15歳だ―
「そしてある時、この世界ツヴァイガーデンに召喚されてしまった。最初は己の不運を嘆いたが、すぐにそれは間違いだと分かった。なぜなら召喚された時に俺様の身に新たな力が備わっていたからじゃい」
「あ、まさか……!」
「そうだ。キャラだ」
特殊能力とは、この世界特有の力だ。すべての生き物が能力を覚醒させる可能性があるが、死の危機に瀕したときに僅かな可能性でしか発現しないため、覚醒者は非常に少ない。
冒険者に覚醒者が比較的多いのは、クエストなどで日常的に死の危険に直面しているからだろう。
ユタの知っている自分以外の覚醒者は二人だ。カトラの妹のモモの予知の能力。それと龍のアギトの団長トリーナも何らかの能力を持っているらしい。噂によれば対人最強クラスの能力なのだそうだ。
それと魔物では暴竜が煙をだして魔法攻撃の無効化していた。魔軍団長のキプラヌスも自分の事を覚醒者だと言っていたが、結局なんの力だったのかは最後まで分からなかった。
「それで、俺様は授かった特殊能力で、自分の姿をロリッ娘に変えたんだ!」
「は? すまん。もう一度言ってくれ」
聞き取れなかったわけじゃない。どうにも信じられなかっただけだ。キャラって、そんなしょうもない物だったんだっけか?
「俺様のキャラは、自分を好きな姿に変えられる能力だったんだよ。確かにイケメンだった元の姿も悪くはなかった。しかし今のこの華奢で美しい姿が手に入ったんだから、後悔はないんじゃいッ お、おい! どこに行くんじゃい」
「バカらしい。付き合ってられっかよ」
ユタはベリーから何か重要な情報を引き出せるかもしれないと思って着いて来たが、今までの話を聞いてこの女の子(男)は完全にギャグキャラだと認識していた。すなわち完全なるトラップ。RPGで例えるなら、NPCと何度も会話してでしか見つからない隠しクエストできっとレアな報酬がもらえると思っていたら、ごみクエストだった。そんな気分だ。
ユタはそのままイスから立ち上がると、家の出口に向かった。
―こういう奴とは話すだけ疲れるだけだ。時間を無駄にした。早くみんなと合流しよう―
ベリーとの会話で得た有益な情報は、この世界には俺の他にも転移してきた奴がいる事。そいつらが全員地球から来たとは限らないということだ。
―もしかしたら転移者というのは案外珍しくないのかもしれない。この先も出会うかもな―
それにしては異世界物の定番である地球の文化の輸入物というのを見かけない。だがいずれ見つかる可能性はある。
ユタは新しい未来が見えて少し気分が明るくなった。すっかり頭から抜けていたが、他に転移者がいるなら地球への帰還も考えられる事だからだ。
「少しだけど世話になったなベリー・ライト。ああ、地面から出してくれてありがとな。もう会わないだろうけど、じゃあな」
「待つんじゃい」
「え? ぐあっ 何すんだ!」
次の瞬間、ベリーは式句も唱えずにふわりと宙に浮かぶと、家を出ようとしたユタの胸倉をつかみそのまま地面に叩きつけた。そしてベリーはユタの身体をその小さな身体で跨いで逃げられなくした。
「くそっ 離せよ」
ユタは抵抗しようとしたが、自分の身体の上の小さな幼女をピクリとも動かせない。コイツ、一体なんトンあるんだよ。
するとベリーは両手でユタの首に触れてこう言った。
「お前は弱いな。そんなんじゃ何も守れないぞ」
「は、はあ? うるせぇ! いいからどけよッ」
首に触れていた幼女の手に、力が込められていく。
「ううっ……」
「さっき測量魔法を使った時に見たんだが、ロクな呪文を覚えてないだろう! まあいい。とにかくお前の魔力は汚いなー。俺様の嫌いな奴の匂いがする! それに封印されてるじゃないか。 俺様はそういう歪んだ魔力が大っ嫌いなんじゃい」
ベリーが首を絞める力がまた更に強くなった。そして僅かだが、焼けるような痒みも感じて来た。ユタはだんだん強まる異常のせいで今にも暴れ出したかったが、ベリー・ライトはそれを許さない。
「や、やめろ…………」
「これは親切なんだぜ。フフッ 俺様がその封印を解除してやるよ」
「ふ、封印?」
―まさか、ビアードが飲ませた魔力抑制の丸薬の事か? あれは確か解除したら魔力暴発で俺の身体が爆散するんじゃ―
「これもサービスだ。ありがたく思え!」
「うう、うわあああああぁぁぁ!!!」
次の瞬間、ユタは死んでいた。それを確認すると幼女はよちよちとまたがっていた死体の上から降りた。そしてパチンと指をならす。すると死体は何処かへと転移していった。
それを見るとベリーは何事もなかったかのように家の中へと戻っていった。
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