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第89話 過去の旅人

 悪戯小人(スッチガン)の落とし穴で落ちた先は、沈黙の洞窟の最下層までつながっていた。謎の女の子の後をついて行くと、その先に大きな地下湖が広がる大空間に出たからだ。

 

 おそらくここがカトラの言っていた目的地なのだろう。


「こっちじゃい」


「ま、待てよ」


 女の子はユタの半分ほどの背丈しかなかったが、それでもユタよりずっと歩くのが速かった。ユタはスタスタと歩く女の子の後ろから、なんとか駆け足でついて行った。


「お前みたいな小さな子どもがどうしてこんな所にいるんだよ」


「いいから、黙ってついて来るんじゃい!」


「はあ、分かったよ……」


 地底湖はとても静かだった。ところどころにヒカルコケが生えていて、うっすらとだが辺りの様子が分かった。


 沈黙の洞窟は一番大きな地底湖のある空間から、アリの巣ように大小いくつかの洞窟に繋がっていた。大きい洞窟は東京の地下神殿ぐらいの広さがあったが、小さい物だとしゃがんでも通るのに苦労するほどだ。


 その中でもやや小さいサイズの洞窟へ、ユタは女の子を追って入った。

 中に入るとパステルカラーのカタツムリのような殻を見つけた。ただし普通のカタツムリではない。ユタの何倍も大きく、その殻には扉がつけられていた。


「入るのじゃい」


 女の子はカタツムリの殻の中へ、ユタを招いた。


「え、この中に?」


「ほら、早くしろ」


「あ、ああ。じゃあ……お邪魔しまーす」


 カタツムリの殻の中は少し異臭がするような気もしたが、思ったよりも快適な空間だった。部屋には水玉の壁紙が張られ、配置されている家具にもこだわりが感じられた。

 つまり、少し変わってはいたが、カタツムリの殻の中はちゃんとした住居になっていたのだ。


「ここで、待ってるんじゃい!」


 女の子はユタを家の中のイスに座らせた。そして木で出来たタンスの引き出しを次々と開けて、中の物をどんどん外に出していった。


「お、おい」


「あった。ほら」


「うわっ」


 女の子は見つけた物を勢いよくユタに向かって投げつけた。ユタは危うくそれを落っことしそうになりながらもなんとかそれを受け取った。


「な、なにすんだよっ」


「それでさっさと帰れ」


「なんだって?」


 そう言われてユタは受け取った物を見た。それは手のひらより少し大きい水晶の塊で、呪文の込められた魔法結晶だと分かった。


「そいつにはかなり強力な転移魔法が入っている。その結晶があれば地上に戻れるのじゃい。」


 記憶によれば、さっき通った地下湖の大空間でも天井まででも約400メートルはあり、超空間転移(エルテレポレア)を使っても到底届かないだろう。さらに地上までといえばさらに距離がある。

 幼女はそれが可能な呪文がこの結晶には込められていると言った。とんでもない価値だし、今のユタには欲しいものでもあった。


 だがユタはその事実を一旦無視し、そして幼女に対しこう言った。


「いや、そうじゃない! 転移の呪文なんて俺にも使えるさ。それよりお前に聞きたい事がある」



「…ナ ン ダ」


「っ!!」


 その時、一見何の力も無さそうなか弱いその幼女から、ユタはとてつもない威圧感を感じた。まるであのヌダロスから感じた物と似たような。


「おまえ、何者なんだ? どうしてこんなところに住んでるんだよ」


 どうしてこいつは色々知っている?

 俺は閉じこめられていた時、岩を崩した魔法も強力すぎてその姿からは不自然だった。


 こいつは味方か? それとも敵か??


 すると幼女は答えた。


「俺様は…………名はベリー・ライト! とってもキュートなマジカルガールッ! そしてお前と同じ、異世界転移した者じゃいッ」


「はぁーー?!?!」


 …………空いた口が塞がらない。


 ベリー・ライトと名乗った幼女は、クルクルと身体を回転させたり腕をシャキンと伸ばしたりしてポーズを決めながら口上を名乗っていた。


 本人は名乗りを終えると満足そうに決まり顔をしていたが、正直言って、そのポーズはとってもカッコ悪かった。

 ユタは一瞬そのせいで、自分以外の転移者という衝撃の事実を忘れていたほどだった。

ご拝読いただきありがとうございます!


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この先もよろしくお願いいたします。

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