第85話 レギアっ
クレアの風魔法で動きを止め、カトラやネーダが牽制し、一番速いユタがダメージを与える。この作戦が上手くはまりユタ達は徐々に雷獣を追い詰めていた。
グルルル
雷獣は相変わらず恐ろしい目つきでこちらを睨みつけていたが、何度か攻撃を食らい、その動きはより慎重になっていた。
「もう少しなんだ。あとちょっとで空間転移のタイミングが合う。そしたら致命傷を負わせられるハズだ」
「そう。だったらあたしも、もう少し頑張るわ ハア!」
カトラはそう言うと、土属性の下位呪文の土を唱えた。
土は土や岩などの形を変える生活呪文で、単体での魔物に対する攻撃性能はほぼ皆無であった。
しかし、カトラは丁度雷獣の真上に今にも崩れそう落ちそうな岩を見つけていたのだ。カトラは土で少しその岩に作用させると、岩を雷獣の頭の上に落とした。
「土。そのイカツイ顔に落っこちなさい」
だが雷獣は頭上に迫る岩に気づくとギリギリで横に飛びのけた。しかしその動きを読んで待ち伏せしていたユタは、雷獣に向かって暴力の黒剣を思いっきり振り下ろした。
「くらえ!!」
キィィン
ユタの剣と雷獣の固い爪がぶつかり甲高い音が響いた。
攻撃を防がれダメージを与える事は出来なかったが、不意を突いたおかげでユタは雷獣を大きく吹っ飛ばした。
「くそっ もうちょっとだったのに……」
「けどおしかったわ。あと一歩で倒せるわね」
「ああ、そうだな。 うん? あっ、ヤバい!」
ユタは自分が雷獣を吹っ飛ばした方向を見るととつぜん焦った。
なぜならその先にはクレアがいたからだ。
「クレア! 逃げて!」
カトラもそれに気づき、後衛でサポートしていたクレアに対し危険を知らせた。だが既に雷獣はクレアのすぐ側にいた。幸いな事はまだ彼女の存在に気づいていない事だ。
「早く助けに行こう」
「ええ、そうね」
ユタとネーダは急いでクレアの元に戻ろうと駆けだした。しかしその時、クレアが突然思いもよらぬ行動をとった。クレアは逃げようとせず、わざわざ雷獣の背後から近づいていったのだ。
「おいっ 何やってんだよ! 早くそこから逃げろ!」
「ユタ、大丈夫だよ。私だって戦えるんだ。見ててっ」
するとクレアは魔法のロッドを思い切り振りかぶってこう叫んだ。
「レ、レギアっ!」
そしてクレアは雷獣に殴りかかった。
「痛たっ でも、どうだっ さっきみたいきっと上手く………」
しかし雷獣にダメージは無いようだった。それどころかクレアが攻撃したせいで、雷獣に気づかれていた。
グル……
牙をむき出しにし、新たな獲物に狙いを定めた雷獣は、クレアに勢いよくとびかかった。
「危ない!」
遠くから様子を見ていたユタはもうダメだと思った。
しかしその瞬間、すんでのところで駆けつけたネーダがクレアの前に割り込み雷獣の攻撃を防ぎ、クレアは無事だった。
「クレア 怪我してないんだぞ?」
「う、うんっ ありがとう。助かったよ」
ユタとカトラもクレアの元に駆けつけた。四人は集まると再び雷獣から距離を取った。そしてユタはクレアにこう言った。
「ごめんッ。俺がクレアの方に飛ばしたせいで危険な目に遭わせた。本当に怪我はない?」
「うん、私なら大丈夫だよっ。それに、そんなに気を使わなくてもいいよー。私だって、一人前の冒険者で小さな旅人の一員なんだから!」
「でも…………」
「もうっ でもじゃないって! 私の事は大丈夫だから、ユタはユタの役目に集中して!」
「わ、分かったよ。でも、あんまり無理はするなよ」
まだ少しクレアの様子が心配だったが、ユタは彼女の言う事を信じて再び剣を握った。だがまたクレアに危険が及ばないように、より慎重に戦う事にした。
「みんな! 気を抜かないでよね! まだ雷獣は倒せてないのよ」
「ああ、分かってる」
カトラがそう言うとユタは気を引き締め直し雷獣の元に向かっていった。
そしてユタが離れた後、カトラはこっそりクレアに耳打ちしてこう言った。
「クレア さっきは霊を使いたかったのよね」
「えっ……! うんっそうなの! でも上手く行かなかったんだ。なんでだろう」
「もっとイメージしてみたら? 魔力を腕力に変える感じの。あんた素質はあるハズなんだから、次はきっと上手くいくわよ。大丈夫、失敗してもフォローするわ」
「うんっ ありがとうカトラ!」
―きっとレギアが使えるようになれば、もっとみんなの役に立てる―
クレアは強くなりたかった。もっと大好きなユタやネーダという旅の仲間の為だ。そして偶然見つかった身体強化呪文という自分に存在した適性を嬉しく思っていたのだ。
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