第83話 闇に揺れる人魂
四人はその場にいた穴掘角をすべて倒すと少し休憩を取る事にした。
ネーダはランタンを置き地面にゆったりと座り込んだ。カトラは岩壁に寄りかかり、ポンチョから地図を取り出すとじっと眺めはじめた。
「まだ着かないのかよ? 結構進んだと思うけど」
ユタは収納魔法から回復ポーションを出すとカトラに渡した。クレアにも二つ渡してあり、クレアがユタに代わりにネーダに渡してくれていた。
「う~ん。どうなのかしらね」
「どうって……それは地図に書いてあるんじゃないのかよ」
「ううん。もらった地図は途中までしか道が書かれてなかったじゃない。ほら」
そう言ってカトラが見せて来た地図にはハイ村から続く地下道が書かれていたが、途中で道は切れてしまっていた。
「本当だな。じゃあどうするんだよ」
「ええ、この地図のココ。端っこまでは来ていると思うの。だからもうすぐこの下にある大空間に出られるハズよ。ただこの先の道はマッピングしていくしかないわね」
するとそれを聞いたネーダがこう言った。
「それならボク達の出番なんだぞ!ボクとチニイが先頭に立って、しっかりと通路を探索するんだぞ。なあ、チニイ」
「きゅ、きゅい~…………」
「ん、チニイ?」
いつもならネーダが名前を呼べばすぐに兜から顔を出すのに、チニイはネーダが兜を叩いて呼びかけたとしても外に出てこようとしなかった。
「チニイ?どうしたんだぞ」
「ネーダ、どうしたの?」
「クレア! チニイが出てこないんだぞ」
「ええ? いつもは呼んだらすぐに出てくるのに」
クレアはネーダの兜の隙間から中を覗いた。
「大丈夫かな? 何だか震えてるみたいだよ」
「えっ チニイ!?」
ネーダはそれを聞くと急いで兜を脱いで中にいたシマシマリスのチニイを外に出した。しかしチニイは兜の外に出してもネーダの手の上で縮こまって震え続けていた。
「本当だ。なんか……弱ってないか」
「どうしたんだぞ? どこか調子が悪いのか??」
「きゅい…」
チニイはそう頼りなく鳴いた。
するとその時、ユタ達の前方から一つの光が近づいてきた。それはまるでランタンの光のように闇の中で揺らめいていた。
「みんな、気をつけて! 何か近づいて来るわ」
「きゅ、きゅい!」
「あ、チニイ!」
その光が近づいてくるとチニイはあわてて飛び上がり、咄嗟にネーダの服の中へと潜りこみ身を隠した。オーバーオールの隙間でチニイが未だに震えているのをネーダは肌で感じた。安心させるためにネーダは服の上からそっと頭を撫でた。
「チニイ、急にどうしたんだぞ?」
「…………ネーダ、チニイの様子がおかしいのはきっとアレのせいよ。アイツの接近を感じ取っていたんだわ」
「え、アレって? うっ うわあああ!!!」
そこに居たのは、ユタ達に近づいてきていた光の正体。獅子の身体と蛇の尾を持ち、全身に雷を纏った魔物―雷獣であった。側には二匹の雷幻霊を引き連れている。
グルルル
雷獣は牙をむき出しにし電気の雫をいくつも迸らせながら、こちらに向かって威嚇をしてきた。
「ヤバくないか。今にも襲ってきそうだゼ」
ユタがそう言った次の瞬間、雷獣は四人の足元に電撃を放出した。雷だ。
「走って! まとまってたら狙い撃ちにされるわ!」
「くそっ」
ユタ達は狙いを逸らす為それぞれバラバラに分かれた。魔物達もあちこちに電撃を撃ち始めた。しかしこの狭い洞窟の中だ。いつまでも逃げ続けるのは難しいだろう。
ネーダは走りながら兜を拾うとそれを被った。そしてアルカイトの剣を抜くとユタ達に向かってこう言った。
「ボクが雷攻撃を引き付ける! そのうちに、魔物の方に攻撃するんだぞ! それっ 属性付与:雷」
ネーダは剣に雷魔法を纏うと、それで魔物の雷撃を誘導し攻撃をずらした。
「分かった! こっちは任せろ!」
「ネーダ、気をつけてねっ」
氷の城で氷幻霊と戦った時にはユタ達は炎の上級魔法が使えず手も足も出なかった。
雷の魔物の弱点は土属性だ。またもやこのパーティに土属性の使い手はいなかったが、代わりに今はユタの手にはどんな魔物も斬り裂ける魔力の込められた剣があった。今度は前のように手こずったりはしない。
雷攻撃がネーダに集中して魔物の気が自分から逸れているうちに、ユタは目の前の雷幻霊に狙いを定めた。
ズバババッ
背後から雷を纏い浮遊する骸骨の中心目掛けて剣を振り下ろした。すると骸骨は真っ二つに割れ、雷幻霊は倒されたのだった。
「よし、一匹倒したぞ」
「やったんだぞ!」
「ああ。もう一匹は……」
ユタは振り返ると、クレアとカトラが残りの雷幻霊と対峙している所が見えた。
「クレア あれ、いくわよ!」
「あれ? あ、うんっ 分かったよ」
すると二人はほぼ同時に式句を唱え呪文を発動した。
「二重旋風!」「超火炎!」
風と火の二つの属性呪文は互いの属性を高め合った。より激しく高温になった炎は一直線に進み雷幻霊を雷ごと飲み込んだ。
「へへへ、やったねっ」
「あッ クレア危ない!」
二匹の雷幻霊を倒しほっとしたのもつかの間。クレアとカトラの元に雷獣がその鋭い爪を振りかざしながらとびかかってきた。
「クレア、怪我はない?」
「うんっ 大丈夫だよ」
二人の元にネーダとユタも駆け寄ってくる。
「ごめん。ボクが抑えきれなかった。気をつけるんだぞ。コイツの雷撃は強力だぞ」
「ええ、そのようね……見た目からして何かもう強そうだもん」
たてがみに雷が流れて逆立った様はまるで某アクション漫画の主人公を連想させた。目も比喩ではなく、本当に光っているようだ。凄まじい眼光でこちらを睨みつけていた。
「あいつが依頼の魔物じゃないんだよな。あんなに強そうなのに」
「そうね。黒くもないし粘液もないもの。多分違うわ」
「そうなんだ……」
次の瞬間、雷獣は咆哮をあげた。それと同時に奴の纏う雷の勢いも増えたのが分かった。
「あ、あれは……! 雷宿霊?!? 雷の身体強化呪文だ」
「なんだって? それってつまり」
「さっきより強くなってるって事だぞ!」
「う、嘘だろぉっ」
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