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第82話 沈黙の洞窟

 ハイ村から出て峡谷を進み、四人はユタが数日前に通ったヒカルコケの群生地帯に来ていた。


「ほら、見ろよ。ここら辺なんかおかしいだろ」


「そうね。確かにこの辺りの岩だけ周りと色が違うわ」


「ここに何かあるんじゃないか」


 ユタは岩壁に不自然にできた色の違う岩の場所のコケを取り除いた。


「やっぱり。ここの岩壁は奥に押せるぞ」


 そうしてその岩壁をゆっくり押すと、そこだけぽっかりと抜け落ちた。壁がドボンと抜けると奥にある空間に落っこちた音がした。


「やった! やっぱりここが沈黙の洞窟の入り口で合ってたんだねっ」


「でもこのままじゃ小さすぎて入れないんだぞ。よし、ボクが周りの壁も壊して入り口を広げる!」


「お、おい! こんなとこで壁なんか崩したら、全部崩落するんじゃないのか」


 もし入り口の所の壁だけじゃなく天井なんかも壊してしまったら、みんな纏めて生き埋めだ。ユタはネーダを止めようとしたが、その前にカトラがネーダの前に立ちふさがった。


「待ちなさい」


「そうだよ。言ってやれよカトラ」


「あたしもやるわ!」


「ふぁ?」


 そして二人は同時に式句を唱えると、魔法を同時に岩壁に向かって放った。


超雷霆(エルバルバトス)!」


超火炎(エルフレム)!」


「うわぁ まぶしっ 痛ッ熱ッ」


 ネーダとカトラの呪文はそれぞれ強力な雷と火炎を生み出し隙間から岩の壁を破壊した。ちょうど入り口の所だけが脆くなっていたようで、運よく天井など余計な所が必要以上に壊れる事は無かった。

 近くにいたユタは危うく火傷しかけたようだったが。


「わあ……ポッカリ空いたね」


「道は開けたわ! 者ども突撃よ!」


「あちち!危なッ 魔法は味方に撃つなってあれほど……待てって!」


 そうして四人は壁の穴から沈黙の洞窟へと入っていった。



 洞窟の中は迷路のように入り組んでいて、しかもとても暗った。頼りになるのは偶に見つかるヒカルコケとと手元にあるランタンの光だけだ。

 もし一度道に迷えば二度と日の下には戻れなさそうだ。だがそんな環境でも、魔物はユタ達に容赦なく襲いかかった。


「ユタ!そっちに行ったよっ」


「大丈夫。ちゃんと見えてる。  っらあああ!」


 ユタは自分に向かって突進してきた穴掘角(ディグホーン)をギリギリまで引き付けると、真っすぐ目の前に剣を振り下ろした。

 ユタの持つ暴力の黒剣(バイオレンス・エッジ)は見た目こそ最悪だが切れ味は一級品だ。硬い角を持つ穴掘角(ディグホーン)も一刀のうちに切り伏せた。


「うん、よく切れるな」


「よくやったんだぞ!ユタ!」


「あんた達、気を抜かないの! まだいるわよ」


 目の前には残り二匹の穴掘角(ディグホーン)がいた。一匹が地面に潜ると、もう一匹はこっちに向かって突進してきた。


「ネーダっ そっちにいったよ!」


「任せるんだぞ! 属性付与(エンチャント)(バルバトス)


 ぐががが!


 雷を纏った剣は穴掘角(ディグホーン)を電撃で痺らせながら切り裂いた。

 倒した魔物達は魔力霧(アニマ)に変わって消えていった。


「ふう、やったな」


「うん!」


 ネーダとユタは戦闘が終わるとそれぞれ剣を鞘にしまった。二人の戦いぶりをみていたカトラはこう言った。


「あんた達。強くなったわねー。魔力の量も上がってるし、技の切れも桁違いだわ」


「そ、そんなに褒めても何もでないぞ」


「いやホントよ……」


 カトラは純粋な気持ちから二人を称賛した。事実、先のキプラヌス戦で魔力も増加し、ユタのネーダの戦闘力は飛躍的の伸びていたのだ。


 仲間の成長は嬉しかったが、クレアは心の内でまた仲間にどんどん引き離されていく気がして、また少し焦りを感じていた。


 ―もっと頑張らなきゃ―


 クレアはこぶしを強く握りしめた。

 だがその時突然、クレアの背後の地面が盛り上がったかと思うと、そこからさっきの穴掘角(ディグホーン)が飛び出しクレアに襲いかかった。


「クレア!」


「ええっ きゃあ!」


 気づいた時にはもう遅く、呪文で迎撃する時間も残されてはいなかった。だから咄嗟に腕を出して思いっきり払うような事しか出来なかった。

 しかしそれは、クレアが思った以上の効果を発揮した。


 ドガッ ズガガガ ズズン


「……ほえ?」


 外側に広げた腕に当たった穴掘角(ディグホーン)は思った以上の速度で吹っ飛んだ。そして地面を何度か跳ね反対側の壁にめり込んだのだ。


「わ、わたし 一体……」


「クレア、スゴイ力なんだぞ! 魔物をパンチ一発で倒しちゃうなんて! ホントにすごいんだぞ!」


「え、そうかな」


 壁まで吹っ飛ばされた穴掘角(ディグホーン)はそのまま魔力霧(アニマ)となってクレアに吸い込まれていった。


「今のは(レギア)を使ったのかしら。だとしたらかなりの素質を持ってるのね」


「えへへ、そうかなぁ 私呪文なんて唱えてなかったけど」


「きっと無意識に使っていたのよ。世の中の天才と呼ばれる人間はそう言う事もあるそうよ」


「テンサイ?! えっへへ そんなに褒めないでよ……えへへっ」


 魔物を一撃で倒せるような力が自分にあった事をクレアは未だ信じられなかったが、それでもみんなに認められ、役に立てるのだと分かると嬉しくなった。


 そんな風に無垢に笑うクレアを見るとユタも嬉しくなった。


 キプラヌスを倒し秘密を知ったときから、クレアは時々考えこむ事が多くなっていた。しかし、力を得た彼女の表情からはどこか清々しさも感じられる。


 だが同時にユタは寒気も感じていた。


 ―クレアがあんな怪力をもっていたなんて知らなかった。あんまり怒らせない方がいいかもな―


 ユタは出会ったばかりの頃を思い出し、迂闊にクレアの着替えを覗くのはやめようと思った。

ご拝読いただきありがとうございます!


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この先もよろしくお願いいたします。

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