第81話 地下の地下
翌日、カトラに連れられてユタ達はハイ村の村長の元へ向かった。冒険者依頼の詳しい話を聞くためだ。
屋敷に着くと村長が直々にユタ達を出迎えた。
「ようこそ、いらっしゃいました。昨日はお疲れのところ失礼致しました。さあ、あちらで歓迎の支度ができております。どうぞ」
「いらないわよそんなの。それより早く仕事の話に移りましょうよ」
「そ、そうですか……ではこちらへ」
すると村長はユタ達を奥の部屋へと案内した。全員がその応接室のような部屋に入ると、村長は頭を下げ改めて彼らに依頼をした。
「冒険者の皆さん。私どもの依頼を受けてくださりありがとうございました。それでは早速ですが、お願します。沈黙の洞窟の怪物を退治してください」
―魔物の退治がカトラの受けた冒険者依頼なのか。俺たちに助けを求めるって事はよほど強い魔物が?―
ユタはハイ村の村長の話を聞いてそう思った。
「ええ、任せなさい。クエストはしっかりこなすわ。その代わり…………」
「はい、こちらが約束した今回の報酬金です」
「ふんふん。たしかにうけとったわ」
カトラが受け取った報酬金の入った袋の中には、たくさんの金貨がつまっていた。おそらくユタ達がB級昇格でもらった100万マジカよりも多い。
その大金を見たネーダはこう言った。
「報酬がこんなに! なんだか急に悪い事をしてる気もちになってきたんだぞ……」
「いいのいいの。細かい事をいちいち気にしてたら生きてけないわよ」
「それはカトラならそうかもだけどさー!」
ハイ村の村長はマジカを渡した後、さらにもう一つ何かを取りだしカトラに渡した。
「カトラ、それはっ?」
「うん。これは情報よ。あたしが欲しい魔道具の手がかりが書かれているの」
「へえー」
報酬の取引を終えた後、村長はユタ達にクエストの詳しい説明を始めた。
話によると、ある日ハイ村から魔法鉱石を掘る為に坑道を掘り進めていた所、大きな地下水脈にぶつかったらしい。そこからさらに地下にある空間にいる魔物が這い出てきて、坑道の炭鉱夫を襲うようになったそうだ。
「ああ、ご心配なく!水脈を通って来た小さな魔物は雇った傭兵たちが退治しました。しかしその数はどんどん増えこのままではいずれ村までやってくるでしょう。それに村人も安心して暮らせません。どうかよろしくお願いします」
「その魔物はどんな見た目なんだよ?」
「そうですね。傭兵たちの話では粘液を纏った黒い塊だったと聞いてます。」
「粘液? ナメクジ系の魔物かしら」
「ええ! 私ナメクジやだよっ?」
地面の穴からねっとりとした粘液を纏った大きなナメクジが這い出てくる所を想像すると、ユタも流石に気持ちが悪くなった。出来ればそんな魔物がたくさんいる場面には出くわしたくない。
「それで。あたし達は何をすればいいのかしら。塩でも撒けばいいの?」
カトラは冗談ぽく言うが村長には通じず、村長は相変わらず真面目な態度で答えた。
「いえ、皆さんには、この大渓谷の地下にあるという大空間にいる魔物の主を討伐して欲しいのです。主さえ倒せば、増殖も止まるハズなのです」
するとクレアが尋ねた。
「その大空間ていうのが、沈黙の洞窟?」
「はい、そうです。村から伸ばしている坑道や水道も、元は全て沈黙の洞窟の端から掘っている物なのです」
「そうなんだ」
村長の話を聞いてユタ達は依頼内容をだいたい理解した。地上に這い上がってくる魔物の主がどんな奴かは知らないが、魔軍団長にも立ち向かって勝った今の彼らは、誰にも負ける気はしなかった。
ハイ村の村長はユタ達に途中まで道が記された地図を渡した。
「沈黙の洞窟に行くためには渓谷のどこかにある入り口から地下にいく必要があります。これは沈黙の洞窟の地図です。残念ながら最深部までは記されていませんが、少しは役に立てると思います」
「でも、この地図には地下に降りる入り口がどこにも書いてないんだけど」
「入口の近くには昔の人間が痕跡を残してると伝え聞いています」
ユタは村長の話を聞いて、ハイ村に来る途中の光るコケの近くで見た人の痕跡の事を思い出した。
「俺、それ見たかもしれない」
「え、嘘……さすがね! よし、じゃあ準備が済み次第行きましょう!」
「うん、そうだねっ 今度は洞窟探検になるのかぁ、わたしちょっと怖いかも」
「あはは、クレアはまだ子供なんだぞ! ボ、ボクは怖くないぞッ」
ユタ達が冒険の支度のため屋敷を出ようとすると、村長がカトラに声をかけた。
「あの、カトラさん?」
「ん?なにかしら」
「あの~沈黙の洞窟は私どもが掘っている坑道とは比べ物にならないくらいの希少な鉱石や宝石が眠っているハズなんです。ですからその~」
「はあ~、分かったわ。ついでに探しておく」
「ありがとうございます!高く、買い取らせていただきます!」
こうして、村で万全の準備を整えた四人の冒険者達は、大渓谷の更に奥深く、地下に広がる沈黙の洞窟へと魔物退治に向かったのであった。
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