第80話 カトラの秘め事
カトラの頭にゲンコツが振り下ろされた。
「痛! いきなり何するのよ!」
「…………あ゛?いきなり何だって?! それはこっちのセリフだっての! そもそもとつぜん空から叩き落したのはそっちだろっ」
「うっ あはは、悪かったわよ。でもスリルがあって楽しかったでしょ」
「は?」
「……あはは、…………そうでも無かったみたいね」
―冗談じゃない。こっちは死にかけた……いや、一回死んでるんだ。楽しいわけあるかぁ!!!―
カトラはユタが結構怒っているのだと察するとふざけるのをようやくやめた。
真面目な話。ユタはカトラの奇行についていくつか聞きたいことがあった。何か理由がなきゃ流石のカトラでも、あんな飛んでる竜の上から落とすような事はしないハズだからだ。
まあ、少なくとも今こうして呑気に話しているのだから、カトラが魔王軍の手先で俺たちを本気で殺そうとしているという事ではないようだが……
「ちゃんと納得のいく説明はしてくれるんだよな」
ユタはじろりと睨みながらそう言った。
「ええ、もちろん。 えっへん、聞いて驚きなさいっ あたしがここにあんた達を連れて来たのはとってもいい話があるからなのよ。ふふん、冒険者としても成長できるハズよ。感謝しなさいよね」
「ふ~ん。…………もしかしてあの村人から冒険者依頼を受けてて、それを手伝えとか言うんじゃないよな」
「…………え? それは」
「だよね。いくら何でも無理やりこんなとこに連れてきておいて、あたしと働けたから良い経験できたでしょ ……なんてないよな」
「あ゛……あ゛あ゛……」
「そうだよね。ごめんごめんw ……で、とってもいい話ってなんだよ」
「えっと、そのぉ~」
「うん」
「ク、クレア達と合流してから話すわ! ほら、行きましょう!!」
そう言うとカトラはそそくさとユタから離れていった。ぎこちなさを不思議に思いながらもユタはカトラの後をついていった。
そして二人は、ハイ村の村長が用意してくれた宿代わりの石レンガの家に向かった。
村長が用意した家には既にクレアとネーダが待っていた。その家は村にたまに来る客人用に用意されたもので、ユタがいつも泊まっている黄金果実亭よりも広い部屋とベッド、立派な調度品が用意されていた。
クレア達二人もハイ村の謎の儀式で忙しくしてはいたが、本当のところカトラの行動の理由を知りたがっていた。
「ああ!そう言えばボクらも儀式に夢中で、理由を聞いてなかったんだぞ」
「おいおい……」
四人はテーブルに向かい合って座った。テーブルの上には用意された食事も並ぶが、みんなの視線は自然とカトラに集まった。
カトラは何故かこの家に入ってからだんまり気味だ。いつも騒がしくしてる彼女にしては珍しい。
「私たちカトラの事は信じてるけど、理由があるなら教えてほしいんだ。 あとランドも蹴られて痛がってたから謝っといた方がいいよ」
「え、ええ、そうするわ」
「それで、どうして?」
「え~……それは…………………… ごめんなさーい!実はみんなに冒険者依頼を手伝ってほしかったのよ」
予想通りだったが、話を聞いたユタは思わずカトラに口を挟んだ。話に矛盾を感じたからだ。
「いや、だったら何でここに来る前に俺たち相談しなかったんだよ。わざわざあんなことして無理やりこんなとこに連れてこなくても、フォレストモアに居た時に、俺たちにそのクエストの事を頼めば良かっただけだろ」
「王国では出来ない話なのよ。特に団長のいるフォレストモアなんかではね」
「は?もしかしてヤバい話なのか」
「ううん?ちちちがうのよ!? ただあたしがこれ以上団長から懲罰を食らいたくないってだけ…………。えと、今回受けた冒険者依頼は王国のじゃないのよ」
「つまり王国以外のクエストを受けると懲罰を受けるのか。冒険者が勝手に国外のクエストを受けるのは良い事では無いんだな」
「あ! お願いっ トリーナには黙っておいて」
「まあ、それはいいけどさ……」
この大渓谷はムーン帝国とグロリランド王国の丁度境界線だ。二つの国にまたがっていればこういう事も有り得なくは無い。
カトラの不審な行動の謎は分かった。しかし動機についてはまだ分からない事があった。するとクレアがカトラにこう尋ねた。
「でも何でわざわざ王国じゃない国のクエストを受けるのさ。クエストなら他にもギルドで受けられるんじゃないの」
「それはねぇ、報酬がいいのよ。多少の危険を冒してもやる価値はあるくらいにね。ほらこの村をみれば分かるでしょう。このハイ村はそこらの村よりも豊かな生活をしているわ」
「うーん? そう言われればそうかもっ でもどうして?」
「この大渓谷の底には貴重な魔法鉱石が採れる場所があるのよ。それをハイ村は色んな国に売ってるってわけ」
ここで言う魔法鉱石とはネーダの剣のアルカイトの事ではなく、主に魔法結晶やスクロール等の呪文の記憶媒体に使われるものだった。だがアルカイトよりは劣るがこの世界において重要な資源には変わりなかった。
「でも、カトラは一応A級冒険者だろ? 俺たちの助けが必要なのかよ」
「ううん……。ちょっと一人じゃ無理そうなのよ。でもこんな冒険者依頼だから竜のアギトの誰かに頼むわけにはいかないじゃない? お願いっ 手伝って! 報酬は期待できるわ」
「やってみようよ! なんだか面白そうだぞ」
「本当に?ありがとう!!」
「カトラが困ってるなら、私手伝うよっ」
「ううっ ぐすんぐすん やっぱり持つべきものは友達ね!」
二人がそう言うと、カトラはちらりとユタの方を見た。
「ねえ、あんたは助けてくれないの? こんなに美少女がお願いしてるのに」
「ユタ、一緒にやろうよっ」
「……くそ、分かったよ! やるよ手伝うよ」
ユタがそう言うとカトラはニコリと笑った。そしてイスから立ち上がると三人に対してこう言った。
「みんなありがとう!本当に助かるわ! 詳しい話は明日村長から聞けると思うから、今日は明日に備えてもう休みましょう」
「うん、分かったんだぞ」
そして別れ際にユタがカトラにこう言った。
「いやあ、カトラと冒険者依頼に行けるなんて光栄だな!!明日は勉強させてもらいますよ師匠!」
「そ、それはもう忘れなさい!」
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