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第79話 肉体コミュニケーションズ!

「やったあ~、やったあ~」


「…………ぃ、おいっ ネーダ!」


 ユタが何度も声をかけると、ネーダはようやくユタに気が付いた。


「うん? あれ、ユタ? よかった、無事だったんだぞ」


「ああ……って、それはいんだけどさ。お前ら何やってんだよ。ていうかコイツ誰だよ」


 そう言ってユタは目の前の不思議な恰好の人間を指さした。動物の皮で作られたマントで体全体を覆って、頭には同じく皮で作られた底の深い羽根つき帽子をかぶっていた。


「この人はここに住んでる人だぞ。向こうにもたくさんいるぞ」


「え、こんなところに人が?」


「うん。村があるみたいだ」


「村が…………」


 深い渓谷の底だが、この辺りは日の光が差し込み人が暮らせる環境も十分にあるようだ。しかし何故こんな地下深くに人が住んでいるのか分からなかった。だって、こんな暗く過酷な環境の地下より地上の方が住みやすいはずだ。


「じゃあ……さっきの奇行はなんだよ」


「あれは」


 するとユタの話を聞いた村人がやや興奮しながらこう言った。


「お前、奇行とはなんだ! さっきのはハイ村に代々伝わる神聖な儀式なんだぞ」


「は? 儀式? 俺には何か意味があるようには見えなかったけど」


「当然だ。これは何百年も前から、先祖代々受け継がれてきた神聖なものなのだ。儀式の意味なんて、そんなものは誰も知らん!」


「ああ~なるほど。よくわかったよ。ハハハ」


 どこの世界にだって、どうやったって理解できない物、分かち合えない物というのは存在する。

 そしてユタには村人の言う儀式の神聖さは理解できなかった。


「ところで、なんだってその、おかしな儀式なんかに参加してるんだよ」


「お、おかしな?? お前、誰の頭がおかしいって?!」


 村人はまたもユタに対し怒って文句を言おうとしたが、ユタはそれを無視した。するとクレアが質問に答えた。


「ここの人達と仲良くするには必要な事なんだってっ カトラがそう言ってたんだよ」


「え、なんだって?! カトラがここにいるのか」


「うん。向こうで誰かとずっと話してるよ」


「そうか…………あの野郎めー。じゃちょっと行ってくる…」


「あ、あんまり痛い事はしないでね?」


 クレアの教えてくれたカトラのいる場所に向かおうとすると、村人がユタの行方をふさいだ。


「ダメだ!儀式をしないと、この先には入れられない」


「そうだぞ! ボクもやったんだから、ユタもちゃんとやるんだぞッ」


 ユタは何とか村人を避けて通ろうとしたが、どうしても先に通してはくれなかった。


 ―あんな無様な動きはしたくない。普通に一生の恥だろ!―


 どうしても儀式をしたくなかったユタは突然呪文の式句を唱えた。


空間移動(テレポレア)!」


「あっ」


 ユタはテレポートを使って村人の妨害を上手く躱すと、そのまま村の奥へと走りさっていった。


「あいつ、ズルいんだぞ」



 ユタは先に進むと、確かに人々の集落を見つけた。石レンガ造りの立派な家が立ち並び、地下とは思えないくらいの充実した暮らしぶりを感じられたが、住人はみんなさっきの頭のおかしい村人と同じ服装をしていた。ここの民族衣装か何かなのか?


 そして一番大きな家の前で、ユタはついにカトラを見つけた。


「てめっ カト…………」


 だが少し近づいた所で、異常な様子に気付きユタの動きは止まった。


「コンニチマッスル 広背筋」


「コンニチマッスル 大胸筋」


 ―さっきも見たよソレ―


 ユタは恐る恐るカトラに声をかけようとした。


「カトラ…」


「しっ 静かにしてよ! 今大事なとこなのよ。邪魔しないで! しっ、しっ」


「あ、ごめん……」


 ユタはそのまま、カトラと目の前の村人との儀式が終わるのを待たなくてはならなかった。



 四時間後……。やっと最後のマッスルが終わった頃には既に日は暮れかけていた。


「ふう、これでいいわね」


「はい。多少荒いですが、まあいいでしょう。儀式完了とさせていただきます」


「よかったわ (ほんとにっ)」


「では早速、本題に移ってもいいですかね」


「ちょっと待ってよぉ。あたし今日は疲れたわ、明日にして頂戴よ」


「分かりました。ではそのように。宿を手配しておきますので、そこでお休みください」


「ええ」


 カトラとしばらく踊っていた相手はハイ村の村長だった。

 村長はカトラと言葉を交わすと、そのままどこかへ去っていった。


 そして儀式を終えたカトラはユタの方に向き直るとこう言った。


「無事だったのね。まあ、あなたなら大丈夫だと思ってたけどね。それであたしに何の用??」


 数百メートル上空を飛行中に突然ワイバーンから突き落とされ、挙句の果てに暗い谷底を放浪し、やっと合流できたかと思ったら、何時間も気の狂いそうな踊りを見せつけられたユタはこう言った。


「とりあえず…………一発なぐってもいいか???」

しばらく後、村の入り口を見張っていた村人に見つかり、ユタは無理やり儀式をさせられる事になった。


「どうしても、やらなきゃダメ?」


「はぁい!」


「…………」


「行きますよ、はい、コンニチマッスル 大胸筋!」


「こ、コンニチ…………マッスル」


「聞こえない! もう一回!」


「コンニチマッスル! 大胸筋!!」


「もっとマ!の発音を意識して!」


「コンニチマッスル 大胸筋!!」


「そうです! 次行きますよ」


ユタの後ろでレッスンの様子を見ていたネーダとクレアは絶賛大爆笑中だ。


「ぶくく なんか、似合わないねっ」


「ユタァ? そこはもっと力を込めなきゃだめなんだぞぉぉ?」


ユタは恥ずかしくて死にそうになりながらも、死ねない自分の身体を恨むのだった。

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