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第77話 ドラゴンライド

「つまり…………このドラゴンに乗って帝国まで行くってことかよ! じょ、冗談だろ」


「ううん、違う。正しくはワイバーンさ。ドラゴンよりは気性も荒くない。みんないい子だ~」


 クルミは自分の所に近寄ってきたワイバーンのスカイの頭を撫でながらそう言った。スカイは撫でられるとまるで猫のように喉をならし喜んでいた。だとしても、猫と竜は違うだろ!


「じゃ、後よろしくー」


「ちょ、おい! どこ行く気だよ。お前が連れてってくれるんじゃないのか」


「うーん、そうしてあげたいのはやまやまなんだけど、クルミは明日、ドラゴンレースに出なきゃいけなんだ。今年こそ優勝する」


「は?」


(ワイバーン)はみかけによらず大人しいし、その子たちは強いから空の魔物に襲われても平気だ。じゃあカトラ。後はまかせた~。あ、ドラゴンレンタル料金は後でギルド経由で請求するからよろしくー」


 それだけ言い残すと、クルミはもう一体のワイバーンを呼び出し、そのままどこかへ飛び立ってしまった。


 ―なるほど、類は友を呼ぶとは言ったものだ―


 クルミの自由奔放さはどこかカトラに近しいものを感じる。その事に勝手に納得した後、ユタはカトラに詰めよった。


「さて、きちんと説明してもらおうか。ワイバーンの背中に乗れだって? 冗談じゃない!そんなん絶対落ちて死ぬじゃうよ!」


「あははは……だ、大丈夫よ。前に乗った事あるけど、あたしは死ななかったわ」


「うーん、そうなのか」


「ちょっっっと、怖い思いをするだけよ。後、運も必要かもね」


「運かよ…………」


「だ、大丈夫よ。安全よ、死なないわよ。滅多には」


「滅多に?…………おいおい」


 カトラの言葉でどんどん不安要素が積み重なり、ユタ達はどよーんと暗い気持ちになった。


「はあ、ここがボクの墓場か。せめて魔法剣士らしく、戦場で死にたかったんだぞ」


「ううっ おじいさん。先に行って待ってるね」


 そんな三人の様子を見て、流石のカトラも心が揺らいだ。そしてこう言った。


「ううっ 分かったわよ。説明もしないで連れて来たのは悪かったわ。でもワイバーンで飛ぶ以外に大渓谷を抜ける方法が無いのも事実よ。橋なんてないし、ロッククライミングなんて出来ないでしょ?」


 カトラの話を聞くと三人は少し考えこんでからこう言った。


「あ、よく見たらこの竜、可愛いかもーー」


「よ、よーし、大冒険に出発だぞぉ~」


「よく考えたら、飛んで行った方が合理的かもな……ハハ」


 するとカトラは苦笑いを浮かべながらこう言った。


「全くあんた達は…………。よーし、行くわよ! みんな準備して!」



 そして四人は(ワイバーン)の背に乗り飛び立った。先導するカトラがスカイに乗り、他の三人はランドだ。


 (ランド)の手綱はネーダがとりたいと言い出したのだが、残念ながら身長が足りずユタが代わりを務めることとなった。ネーダはとても残念そうだ。


最初は上手く操縦できるか不安だったが、何もしなくてもランドは先頭を行くカトラの竜の背中追って飛んでくれた。


 それよりも大変だったのは竜に乗っている間に吹き付ける猛烈な風だ。少しでもバランスを崩せば地面に真っ逆さまだ。確かにこれは慣れるまで時間がいるかもしれない。


 しかし空の旅は順調に進み、あっという間に大渓谷が見えてきた。


「見て! あれじゃないっ」


 クレアが指で示した先は、地面に巨大な裂けめが南北にどこまでも続いていた。裂けめの底からは鋭く尖った岩山がいくつも連なり、まるで猛獣が口を開き獲物を待ち構えているようだった。

 そして大渓谷を超えると、その先はムーン帝国だ。


 ―いよいよか―


 ユタの手綱を持つ手に力がこもった。


「ユタ!」


 その時、突然カトラがユタの名前を呼んだ。

 何かと思い前方を見たが、そこにカトラの姿は無かった。


「あれ、スカイの上にカトラがいない。まさか、アイツ落ちたか?!」


 ユタは慌てて下を覗いた。


「ユ、ユタ! 上だぞ!」


 ネーダの声でぱっと上を見上げると、カトラが空からランド目掛けて落っこちてくるようだった。しかもなんだが彼女の足が燃えているようにも見える。


(レギア)×超火炎(エルフレム)×魔斧(ガルレイブ)…………複合呪文:インパクトブレイズ!!!」


「「な、なにぃぃ!??」」


 カトラは右足に炎の魔力を纏わせると強烈なかかと落としを竜の翼にくらわせた。バランスを崩したランドはそのままキリモミ状になって大渓谷の底へと落ちていった。もちろん、背中にいるユタ達も一緒にだ。

 ユタ達は振り落とされないように必死に手綱にしがみつく。


「カトラ~ 裏切ったなぁ~……」


 木霊が谷の底へと消えて言った。



「があ、があ…………」


 落下した兄弟竜を心配してスカイは悲しそうに鳴いた。それを聞いて、カトラは頭を撫でながら安心させるようにこう言った。


「心配しないで、ワイバーンはあれくらいじゃあ、傷ひとつ付かないわ」


「があ?」


「え、ユタ達はいいのかって? うーん、きっと大丈夫でしょ!それにあたしの計画には仕方のない事だったんだからね」


 そう言うとカトラは手綱を操り、自らも深い谷の底へと降りて行った。


次から新章ですが、話は続きます。



〇魔法解説(魔法の物理的属性)


冠詞の中には呪文に物理的な性能を付与する物が存在します。


・「レイブ」

斧のような、破壊の、衝撃の力


・「ペネ」

槍のような、貫通の、一点突破の力


・「ソルジャス」

剣のような、斬撃の、連撃の力


…………


冠詞に注目すると、呪文の能力も想像しやすいかとおもいます。


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