第73話 リトルパラ
うるさいなぁ…………
ユタは魔道具屋で剣を受け取った後、黄金果実亭の二階にある自室に戻るつもりだった。しかし宿の扉の前から、いつにもまして騒がしい人の声がしてきたのだ。
ユタが出かける前には仲間であるクレアとネーダの他の客は誰もいなかった。たった二人だけでこんなにバカ騒ぎをしている可能性は低い。少なくともユタは知らない。
―なんだか厄介事の予感がする。それにこの聞き覚えのする声は?―
ユタは恐る恐る扉を開けて一階の酒場に入った。
すると視界の先では、ネーダが酔っ払ったある女冒険者と話しているのが見えた。実際には、ほとんど一方的に絡まれているだけだったのだが。
クレアは二人の隣でお腹を大きく膨らませ、幸せそうな顔をしながら居眠りをしている。
「ええーー! あんたがユタの団長なの??」
「そうだぞ。なんか文句ある」
「ええ……うそぉ」
酒瓶片手で目を丸くして驚くカトラに対し、ネーダはややむくれながらそう言った。
「でもぉ~、なんか頼りなさそうだわ。それに小っさいし子供だわ」
「子供じゃない、小っさくない!」
「あっそう。じゃあ、あんたのとこの団は何ていう名前なのよ?教えなさいよ」
「え、それは…………まだ決めてないんだぞ」
「はあ?なによそれ」
ボンドルベに行く道中にも悩んでいたが、結局ユタ達はしっくり来る団の名前を考える事ができなかった。
するとそれを聞いたカトラは空になった酒瓶を新しい物と交換しながらネーダにこう言った。
「とりあえず、適当に決めときなさいよ。後からでも申請すれば団の名前は変えられるのよ」
「そ、そうなのか! うーんでもどうしよう」
「団の名前が無いと、冒険者依頼でも何かと困るでしょ」
「うん。確かにそうなんだぞ」
普通、何かのチームを結成したならまず最初に決めるのは名前だ。ユタ達が三人で組んだ冒険団にはそれが無かったため、クエスト受注の際などにも少しの不便があった。
すると突然カトラは懐から紙とペン、それと魔法結晶を取りだした。ネーダはその様子を不審に思いこう言った。
「な、なにしてるんだぞ?!」
カトラはにやりと笑った。
「ふふんっ あたしが決めてあげるのよ。」
「は、え? な、な、な、何を???」
「決まってるじゃない。団の名前をよ」
「へ? 何言ってるんだぞ???」
クレアはそう言うと、取り出した紙に字を書き記した。それはあっという間の出来事だった。
「うーん、これでいいわ。小さな旅人(仮)完璧ね」
「だから、小っちゃくないんだぞ! しかも(仮)って……え、何してるんだぞ?!」
カトラは魔法結晶に魔力を込めると、小さな鳥型の魏魂人を召喚した。そしてそれに書いた手紙を持たせると、ギルド支部に向けて飛ばしてしまった。
「ああ! なんてことをしてくれたんだぞ。もうこれで決まっちゃったんだぞ………」
「ふふん、決まらなくて困ってたんでしょ。とりあえず決まってよかったじゃないのよ」
「う、ううん。まあ、そうだけど。…………でも、ホントに、後で変えられるんだぞ?」
「ふふ、小っちゃなネーダは小さな旅人の団長か。あっははは!」
「ああー! お前、そうやって揶揄うのが目的だったんだぞ?!?」
するとその時ネーダがユタの事に気が付いた。
「コイツ、ヤバいんだぞ!!!」
「うん、知ってる。」
カトラの性格は直接剣の指導を受けたユタは身をもって知っていた。
そんな二人の気もしらず、カトラは新しい瓶に手を伸ばそうとしていた。
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