第71話 暴力の黒剣
ユタは一人でフォレストモアの魔道具屋にやってきた。新しい武器の制作を店主のキルシュに依頼していたのだ。
事前にキルシュには、大討伐戦でネーダと連携して倒したイレギュラー魔物(暴竜)の角の一部を、素材として渡していた。武器や魔道具の中には魔物の骨や角などを加工する物もあり、強力な魔物ほど強力な品が作れる。
暴竜討伐の功労者という事もあり、本来は龍のアギトが保管する角をかなりの量分けてもらった。
暴竜はネーダと二人で倒したが、彼女は素材の受け取りを拒んだ。
「ボクにはもう充分な装備と武器がある。このアルカナイト合金の剣とグラディウス家に伝わる魔法マントさえあれば既に最強なんだぞ?それに比べて、ユタの装備はまだまだ貧弱だからね。素材くらい譲ってあげるよ!」
生意気にもネーダは自らの装備をみせつけ自慢しながらユタにそう言った。しかしネーダの言う通りであった為、何も言い返す事はできなかった。
アルカナイトは魔力の伝導率が高い鉱石だ。それ故、魔法武器に適していて魔法剣の威力を高める効果があったのだ。だが元の世界の金のように希少価値がとても高かった。それだけでネーダの剣が一級品という事が分かった。
「そうか。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうからな」
そうしてユタが一人で角を使う事になったのだった。
キルシュがユタに見せた剣の刀身は今までに見た事がない不思議な色をしていた。まるで鏡面に垂らしたシャボンがゆったり移動しているような文様だ。しかし色合いは正直綺麗ではなく、はっきり言って泥とか油みたいにも見える。
「はあ?なんだこれ。錆びてんじゃないのか?」
「……安心しろ。切れ味は本物んダラ」
そう言うと、キルシュはその剣を持ち試し切り用丸太を軽く斬りつけた。すると丸太は綺麗に真っ二つに分かれた。
それを見てユタは、「おぉ」という声を漏らした。
しかし剣を振ったキルシュは何処か不満そうな顔をしていた。そしてユタに剣を渡すと代金も受け取ろうとしないで、そのまま店の奥に引っ込もうとした。
「ちょっと、まだ金も払ってないゼ」
「…………いらんダラ」
「え、なんでだよ」
するとキルシュは、溶接用のゴーグルで顔は見えなかったが、深いため息をつくとユタにこう言った。
「お前が渡したのは、イレギュラーの素材なんだろ?」
「ああ、そうだよ」
「イレギュラーの素材で武器を作れる機会はあまりない。それにイレギュラー素材の武器は元の魔物に関連した特殊能力が宿る事もあるしな。おれもヤル気がでるってもんだ」
「へえ、特殊能力? なんだそれ、凄いじゃん」
「ないよ」
「え?」
「この刀身を見ただろ。これはもっと美しい色になるハズだったンダラ。認めたくないが、失敗だ。だが武器としては何の問題もなく仕上げたつもりだ」
「失敗…………」
ユタは自分の手の中にある黒い剣を見つめた。たしかに見た目は美しくない。
だがさっきキルシュは試し切りしてみせたように、かなりのキレアジはあるようだ。
―失敗したのは残念だったけど、正直いうと、支払いが無くなった方が助かったな―
ボンドルベから帰ってからというものの、連日の宴会が続いたせいで出費が重なり、武器に払う金が少し足りなくなっていたのだ。
「分かったよ…………そう言う事なら、仕方ないな。じゃあ、これは貰っていくよ」
「ンダラ。鞘はそこに立てかけてある。一応、銘は暴力の黒剣としてある。おれは少しこもって反省会だ。ああ、どこで失敗したのか全然わからないんだ」
そう言うとキルシュは店の奥へと下がっていった。
ユタは鞘を拾うと剣を収め、腰のベルトに挟んだ。
―特殊能力なんかなくても、とりあえず使えればいいよね―
ユタは店を出て、元来た道を戻っていった。
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