第64話 囚われの少女
檻の中に閉じこめられたクレアは何とか抜け出そうと試みていたが、その方法が分からず途方にくれていた。
「どうしよう、このままじゃアイツがもどってきちゃうっ」
しかし次の瞬間、檻は触れてすらいないのに一人でに開いた。びっくりしてクレアは急いで檻の外を確認したが、キプラヌスの姿は無かった。
クレアは恐る恐る檻の外へと出た。
「なんか、あっけなく出れちゃったよ」
クレアは呆然としていると、突然どこからか誰かの声が聞こえてきた。
……来て、こっちに来て…
「誰?! どこにいるのっ?」
……こっち、こっちに来て…
「もしかして、アナタが出してくれたの?」
しかし声はクレアの問いには答えず、こっちに来てと繰り返すのみであった。クレアは他に行く当てもなかったので、自分だけに聞こえるその声をたどって城の奥に進んでいった。
声をたどった先にあった小さな部屋の扉を開けると、その中には多くの複雑な機械が並んでいた。そしてその中心には青いひし形の棺があった。青い棺は壁に作られた窪みの中に立てかけられていたが、魔力による結界が張られていて動かせないようになっていた。
クレアは棺の前まで行くと、そっと棺を開いた。棺の中には太い鎖の錠で手足を繋がれた少女が静かに眠っていた。少女は棺と同じ青い髪をしていた。
「外してあげなきゃっ」
クレアは少女の鎖に触れようとすると、再び声が聞こえた。
……ふれてはダメ。あなたまで捕まってしまう…
「でも、このままじゃ可哀そうだよっ」
……ありがとう。でもその鎖はキプラヌスの結界魔法が組み込まれているから、どのみち絶対に外れないの。それよりあなたにお願いがあるの…
すると少女の声はクレアに棺の横の装置を操作するように指示した。クレアが言われた通り装置のボタンを押すと、棺を覆っていた魔力の結界は消えて無くなった。
「やった! あ、けど鎖はまだ残ったままだよ」
……これでいいわ。結界が無くなっただけで十分。私についてきて…
声がそう言うと、棺がふわりと浮かびあがった。そしてクレアの前を先行して道案内をするように進みだした。
「ちょっと待って、アナタ、ジオって言う人知ってる?」
……え、お兄ちゃん?! どうして…まさか、助けに来てくれてるの?…
「うんっ 今は私だけなんだけどさ。聞いてるよ、ソアちゃんでしょ」
……うんっ そうよ!…
それまで彼女の口調は機械的な印象だったが、その時初めて人間味のある感情をあらわにした。
クレアは棺の中のソアの後をついて行った。途中、普通なら入れないような鍵のかかった部屋や壁に隠された場所も、ソアが城の構造を氷魔法で変化させながら進んだおかげで、簡単に突破できた。
そして二人は玉座の間にたどり着いた。ソアが仕掛けを作動すると玉座の後ろに扉が現れた。
……この先はキプラヌスの書庫兼私室になってるハズよ。この中に秘密は隠されているの…
「秘密? …………そっか、結界魔法だねっ」
……うん、この城の結界魔法から逃げ出すには秘密を見つけるしかないの。この部屋ならきっと見つかるハズ…
「分かった、よし行こっ」
……ううん、私はその部屋には入れないの。だからクレアに見つけてきて欲しいの…
「そうなんだ」
……でも気をつけて! 何があるか分からないよ…
「うんっ……」
ここまでは来る途中に出くわした魔物もソアが城の魔力を使った氷魔法で倒してくれた。しかしここからはまた一人だ。それに魔軍団長の部屋なんてどんな化け物が潜んでいるか分からない。
―ええい私ぃ!おじけづくなっ! 頑張るって決めたんでしょ。秘密を見つけて、ソアちゃんとここから脱出するんだ―
そして、またみんなと冒険するんだ。
クレアは勇気を振り絞り、扉を開いた。
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