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第62話 氷城の番人

 金のロケットから伸びる光の線に導かれて、ユタ達は巨大な氷の城の前にたどりついた。城に入るための大きな扉は閉ざされていたが、ユタが扉をゆっくり押すと僅かに奥へと動く感触があった。


「どうやら開くみたいだ」


 ユタが確かめた後、三人は城の中に突入する準備をした。

 ユタとジオが大扉の両側で分かれた後、いつでも扉を開けられるように合図を待った。


「みんな、覚悟はできてる?乗り込むんだぞ!」


 ネーダがそう言うと両側の扉を同時に開き、三人は城の中へと踏みこんだ。


 城の中は闇に覆われた外とは正反対で光に満ちた空間であった。言い換えればとてもまぶしかった。


 広いエントランスフロアの奥のユタ達の正面の場所には、おそらく上層階へと続く階段が存在した。階段の他にはこの真っ白い空間には何もなかった。クレアがいるのは上の階だろう。


「おい、気をつけろ! 何か居やがる!」


 ジオの声でふと前方を見ると、階段への通り道を遮るように、何かが正面にあるのに気が付いた。それは美術館などにあるような裸の男の彫刻像だった。


「いや、何いってんだよ。ただの置物だろ」


 ユタはそう言いながら不用意にも彫刻に近づいた。しかしユタがその彫刻と目があった瞬間、その彫刻はゲル状になって溶け始めた。驚いてユタはとっさに退いた。


「これ、なんの魔物なんだぞ?」


 赤いゲル状の身体を徐々に肥大化させていく魔物を見てネーダは言った。


「さあ……こんなキモイの知るかよ」


 話している間にも魔物はどんどん大きくなっていき、見上げなければそのすべてを視界に収めることが出来なくなっていた。するとジオがこう言った。


「もしかして粘態生物(スライム)じゃねえか」


「は?粘態生物(スライム)だって?こんなにデカいわけないだろ」


「そうなんだが……でも上位種はよくいる青じゃなくて、赤や黒みたいな色になるって話を聞いた事がある」


「マジかよ……」


 目の前の魔物は今や部屋の天井までの大きさまで膨らんでいた。


 ―こんなのどうやって倒すんだよっ――


 巨大なスライムにあっけにとられていると、ユタ達に恐れていたことが起きた。スライムは自らが満足するまで体を肥大化させると、その巨体を少しずつ傾け始めたのだ。


「おい、おいおい! こっちに落ちてきやがるぜ!」


「あいつ、ボク達をペッちゃんこにする気なんだぞ」


 スライムはその自重でどんどんと落下の速度を上げていった。ゴオッという音と風圧から容易に衝撃の凄まじさが想像できる。


「くっ こうなったらヤケクソだ。凍りやがれ。 突華氷傑(ペネフリージア)


 そう言って放った氷の魔法弾はスライムの下の方に当たると砕けて、スライムの下半身を凍らせ動きを鈍らせた。


 しかしその氷はスライムを長い間拘束するだけの力はなかった。スライムは氷を破り、すぐにまた三人にのしかかろうとした。

 だがネーダはジオの作った一瞬の隙をムダにはしなかった。


 ジオの氷魔法を好機とみると、ネーダは剣を抜きマントをはためかせながら、スライム目掛けて一直線に飛び出した。


(レギア)!」


 呪文で身体能力を強化する魔力のオーラを纏うと、勢いのまま凍り付いたスライムの身体に一撃をお見舞いした。


 バリリーン


 図らずも二人の連携攻撃が上手く決まると、攻撃をくらった箇所のスライムの身体はボロボロと崩れた。スライムはひるんでやや後退し、落下が一時止まった。


「やったんだぞ! これなら、いけるんだぞ」


 ダメージは与えられたが、攻撃を受けてスライムは怒りだしブルブルと身体を震わせると、一層激しい動きでユタ達に覆いかぶさろうとしてきた。


「まずい! このままじゃつぶされちまう!」


 目の前に迫るゲルの塊を見てジオが叫んだ。


 ユタは周りを見渡しこの危機的状況からの打開策を探していた。

 すると、さっき攻撃を受けひるんだ影響か、スライムの身体の右側に隙間が出来て部屋の向こう側を覗く事が出来た。


「こっちだ。急げ!」


「うん、分かったんだぞ」


 三人は一勢に隙間のできた右側へと走りだした。


「あの穴だ。あそこから向こう側にすり抜けよう」


「オッケー!じゃあボクから行くんだぞ」


 ネーダは(レギア)を使い跳躍力を高めると、壁を伝って向こう側へとすり抜けた。


「二人も早く来るんだぞ」


「分かってる ユタ、今オレが道を作る」


 するとジオは再び氷の魔法を使うとスライムを凍らして隙間までの階段を作った。


「滑って登りにくいだろうが、勘弁してしてくれよ。」


「大丈夫だ。それよりも急ぐぞ。もう崩れかけている」


 ジオが作った氷の階段はスライムの重さに耐えきれずに、次々に大きな割れ目が出来ていた。ユタとジオは階段が崩れる前に向こう側に行くため、隙間まで走って駆け上った。


「まずい、もう足元が崩れちまう」


「……ち、ジオ! 穴に飛び込め!」


「あ、ああ!」


 一か八か、二人がスライムと壁の隙間に飛び込んだ瞬間。同時にジオの氷も崩れた。

 スライムは氷の拘束がとけ、一気に二人を押しつぶした。


 ずずずず


 部屋中に凄まじい振動が響き渡った。氷の粒子が舞い、一時的に辺りが真っ白な水蒸気で満たされた。


「二人とも! 大丈夫なんだぞ?」


 先に階段の方にすり抜けていたネーダが視界不良の中で叫んだ。すると先の方で声が聞こえた。


「おい、こっちだぜ」


「ジオ、無事だったのか。ユタは?」


「……悪い。あの時無事に通り抜けられたのは、オレだけだったんだ。」


「え、ユタがやられたっていうのか?! 信じられないんだぞ……」


「つぶされる瞬間、背中を押された気がした。多分あいつはオレの事をかばって死んだんだ」


「そ、そんな……」


 しかしその時、二人の背後から誰かが声をかけてきた。


「誰が死んだって?」


「ユタ! なんだ、驚かせるんじゃないんだぞ!」


 ユタは既に、先に来ていた二人と同じように、スライムを避け奥の階段まで登って来ていた。


「でもどうやって……お前は、あの時つぶされちまったはずだ」


「俺は空間呪文が使える。なんとかギリギリでこっち側に瞬間移動に成功したんだよ」


「そ、そうだったのか……」


 先ほどまでユタ達がいた辺りはスライムのゲル状の身体で埋め尽くされてしまっていた。そしてスライムは身体をもごもごと動かし、落下の衝撃で床中に散らばった破片を集めようとしていた。


「おそらく次の攻撃が来るまでにはまだ時間がかかるはずだ」


「おい、今なら倒せるんじゃねえか? かなり無防備に見えるぞ」


「いや、意味ないよ。それよりも先に進んだ方がいい。今なら楽に進める」


 三人の攻撃であのデカスライムの身体を全部削り切れるかは分からないし、ここでデカスライムを倒すことはユタたちの目的とは関係ない。だからユタは気にせず先に進むべきだと思ったのだ。


「そうだな。行こう」


 ユタ達は階段を上り城の上階へと進んでいった。

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