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第61話 魔法の三銃士

 魔法の転移門を通りぬけた途端、ユタの肌に凍るような冷風が吹きつけた。辺りは夜のように真っ暗だが、不思議と物ははっきりと見えた。


「ううっ 冷た! 急に寒くなりすぎなんだぞ」


「おい、足元を見て見ろよ。みんな氷で出来てやがる」


 ネーダは足元を見ると、自分たちが立っているのが氷でできた細い道の上だというのが分かった。氷の道はまるでジェットコースターのように複雑にくねくねと曲がった構造で、何の支えもなく宙に浮いているようだった。


「どおりで寒いわけだよ。こんなに周りに氷があるんだもん」


 ネーダは嘆くように言うと、チニイを首に巻いてマフラーの代わりにした。寒がるネーダを見ていたジオはこう言った。


「寒いのか? 確かオレの火の魔石が余ってたはず。分けてやろうか」


「え、いいのか? ありがとうなんだぞ!」


 ネーダは火の魔石を受け取ると、それをポケットにいれてその中に手を突っ込んだ。するとジオは魔石をユタにも渡そうとした。


「おい、お前もいるか」


「いや、俺はいいよ。それより、おかしくないか?」


「おかしい? そんなのここに来た時からずっとそうだ。地面はなくなってるし、さっきまで日が出てたのに、いつの間にか夜になっちまってるんだから」


「いや、そうじゃないよ。俺たちが追ってきたクレアもキプラヌスもどこにも見当たらないって事だよ」


「そういや、ソアも奴と共にここにいるはずなのに見当たらない。それどころか氷だらけで他に人がいそうな場所が存在しやがらねえ」


 ジオの言葉ではっとしたユタ達は一斉に辺りを見渡した。しかしそこには、闇の中に冷たい風と不思議な形にうねる氷の道があるだけであった。


「ここには何もないよ。もしかしてボク達、罠にかかったんじゃないの?」


「そ、そんな! てことはソア達を見つけられないって事か」


「それどころか、ここから一生出られないかも……」


 おそらくここは、自然にあるような場所ではない。キプラヌスの支配下にある結界空間だ。

 結界魔法は儀式呪文に分類され何らかのルールがある空間を創造できる。そして発動が極めて困難な分、その秘密を暴くか術者を倒すことでしか解除ができないのだ。


「クレア……」


 もうクレアに会うことが出来ない。ユタは悲しさと悔しさに打ちひしがれそうになり、とっさに首からかけてあった金のロケットを取りだした。クレアに返す前はいつも、つらい時にはコレで勇気をもらっていたのだ。


 ユタは彼女を思いロケットをぎゅっと握りしめた。

 クレアはユタにとって特別だった。いきなり異世界に迷いこみ、絶望の中にいた俺にとってずっとクレアの存在が希望の光であったからだ。森を出てからも彼女のおかげで迷いなく進むことが出来ていた。


 ―今度は俺が君を救ってみせる―


 そう思った時、ユタは手の中のロケットに熱を感じた。

 たまらずロケットを手から落とすと、ロケットは突然まばゆい光を放った。


「うわ、まぶしい!


「なんだ、なんだぞ?!」


 光がだんだん小さくなってくると一筋の光の線の形になり、それは金のロケットに描かれた翼の生えた獣の紋章の中心から一直線に伸びていた。


 ユタは指先で何度かつつき、触っても大丈夫か確認してからロケットを拾い上げた。


「なんだってんだよ……一体」


「おい、あれを見ろよ……」


「え?」


 ジオが指差した先に、先ほどまで無かった大きな城があった。ロケットから出た光が真っすぐその城へと伸びていた。


「やった!きっとあそこにクレア達みんないるはずだぞ!ユタ、そのロケットで何かしたの?」


「いや、俺にもよく分からないんだ……」


 だが昔、ビアードがロケットに魔法の力があると言っていたのを聞いた覚えがあった。もしかしたらその魔法の力がここで運よく発動したのかもしれない……。


 どちらにせよ助かった。ネーダの言う通り、きっとあの城の中にクレアはいるはずだからだ。


「よし、いこうぜ きっと待ってやがる」


 焦るジオをユタは止めてこう言った。


「ちょっと待て、ポーションで魔力を回復しよう」


「あとせっかくだから、三人で気合入れてから行くんだぞ」


「は……?」


 何言ってんだこいつは。


 ユタは収納魔法(ストレージ)を使い、中に一本だけあったマンドラゴラポーションを取り出すとそれを三人で分けた。


 その後ネーダは二人に剣を取り出すように言った。


「いいかい、これからやるのは魔法剣士流の士気の上げ方だぞ。一流の魔法剣士は戦いの前はみんなこうするんだぞ」


「へえ~、おもしろそうじゃねえか」


「じゃあ、ボクのマネして教えた通りにやってね」


 そう言うとネーダは剣を取りだし胸の前で掲げた。しかしユタはそれが出来なかった。


「あ、ちょっとタンマ。」


「なんだよっ いいところなのに! 何ぃ?」


「俺さ、さっき人狼と戦ったとき剣を壊しちゃったんだよ」


 そう言うとユタはボロボロになり束だけになった鉄の剣を見せた。


「ええっ どうするんだよ! それじゃあ一緒に気合が入れられないじゃん!」


「いや、他に心配することあるだろ……」


 呑気にネーダの間の抜けた返答に突っ込みを入れてみたが、実際それどころではない。壊れた剣じゃキプラヌスとも戦えないだろう。しかしジオは何食わぬ顔でユタにこう言った。


「そんなの簡単だ。ユタも刀剣召喚(ショードレーブ)を使えばいいんだ」


「え゛!?ジオ!?」


 ジオが淡々とユタに刀剣召喚(ショードレーブ)の使い方を教えている時、ネーダは謎の不安感から共同不審になりかけていた。


「む、無理なんだぞ。そ、そ、そんなほいほい使えるわけないんだぞ!」


「……刀剣召喚(ショードレーブ)


 によき ^^


ユタが式句を唱えると手の中に魔力の剣が生えてきた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


 ユタがあっさりと魔法剣の具現化に成功したのを見て、ネーダは激しく嘆いた。


「また、ボクのプライドが傷つけられた……損害賠償はどこに請求すればいいんだぞ?」


「べ、別にいいだろ。俺が魔法剣を使えたって。ほら、これでやりたかった気合もできるゼ。それと請求先は、こんなすぐ壊れる鉄の剣を渡した人が悪いと思うので、龍のアギトのカトラさんまでお願いします」


「うう、それもそうだ。分かったよ、じゃあ早速やるんだぞ。あ、請求先了解です」


 ユタ達はネーダの指示で三人が向き合うようにして円陣を組んだ。


「剣士たちに勝利の加護を。ルゼルラ。」


 これは呪文ではなく、仲間の無事を祈る言葉なのだそうだ。そして三人は同時に呪文を唱えた。


「「刀剣召喚(ショードレーブ)」」


 それぞれ出した剣、槍、剣を同時に掲げると、三人の中心でクロスする地点で三つの武器をぶつけあった。


 カー―――ン……


 武器がぶつかった共鳴音が辺りに響き渡った。反響した音が氷に当たって何度も反射し、美しく響いていた。


「行こう。みんなを助け出すんだ」


 ユタ達は闇の中に浮かぶ城に向かって歩みだした。

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