第60話 かけられた疑い
野蛮で大きな手に掴まれ謎の空間に引きずり込まれたクレアは、連れ去られる途中に気を失ってしまった。そして次に気が付いた時には、小さな檻の中に閉じ込められていた。
その檻は金属ではなく魔物の骨と死肉を魔法で組み上げた物だった。それに気づいたクレアは不気味で恐ろしくなり、体が自然と震えてきてしまったが、彼女は心の底から勇気を湧きあがらせると自分の体を押さえつけて震えを抑えようとした。
「くじけちゃダメだよ……きっとユタが助けに来てくれるんだから、それまでは負けちゃダメっ」
クレアはハンザの村でユタとした約束を思い出していた。
―ユタに金のロケットを預けて私は強くなると誓った。これ以上ユタとネーダの足でまといにはなりたくない―
自信をもってみんなと対等の冒険者に成れたと思った時、クレアはユタからロケットを返してもらうつもりだったのだ。
するとその時、クレアのいる檻に一人の老人が近づいてきた。クレアが目覚めた事に気が付いたキプラヌスが様子を見にやって来たのだった。
「ひっひっほ、ようやく捕まえたぞ。サリア、この女狐め! ひひ、お前さんが盗った金属器はどこにあるのジャノ~ 我に返してくれまいか」
「え?誰? 一体、何のこと?」
目の前の老人は突然わけのわからない事を言いだした。それはまるで、自分を誰かと勘違いしているようにも聞こえた。
「ぐぐぎぎ、まだとぼけるつもりか。さっさと渡せっ! …………ンん?この違和感は何ジャ」
するとキプラヌスは突然檻に顔を近づけると、鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぎ始めた。
「くんくん……ない!? お前っ 我の金属器をどこにやった! どこに隠したんだ」
「だからそんなもの持ってないって!」
クレアは訳のわからない話を一方的にしてくるキプラヌスにイラついて、強い口調で言い返した。
「あの、誰かと間違えてるんじゃないの? 私はクレアでそのサリアって人の事なんか全く知らないし、あなたの物も盗んだ事なんかないよっ」
「ふんっ この際てめえがどの誰だろうがどうでもよいわ! ……だが我の実験場であるこの北の大地にお前さんが踏み入った時から、我の金属器を肌身離さず持っていた事は知っているのジャ。さあ、どこに隠した!」
「だ、だから知らないって言ってるでしょ」
だがその時点で、クレアの脳裏にはキプラヌスの求める金属器についてある心当たりが出来ていた。クレアがずっと持っていて最近手放したものだ。
―多分、金のロケットの事を言ってるんだ。でもどうしてそんなものを欲しがるんだろう――
クレアが中々口を開かないと分かるとキプラヌスは諦めてこう言った。
「どうしても言わないつもりカノー。ならば拷問の準備がいるノー。ひひ、楽しみに待っておれ。ひっひっほ」
「えっ」
キプラヌスがいつ戻ってくるか分からない。けど次に戻ってきたらおしまいだ。
「とりあえず、何とかしてここからでなくちゃ」
その場から去るキプラヌスの背中を見届けると、クレアは脱出の方法を練り始めた。
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