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第59話 虎穴に入らずんば虎子を得ず

 ユタ達五人が上手く連携し、それぞれが最高に近いパフォーマンスをしたおかげで、なんとか人狼をすべて倒す事ができそうであった。後残りは十もいない。


「あともう少しです。気を抜かないように」


 人狼の数が残りわずかになった所で、パユが他のみんなを鼓舞するようにそう言った。


「よし、一気に仕掛けるんだぞ! 生物魔法、(レギア)!」


 ネーダが唱えたのは僅かに体力の回復効果もある身体能力強化呪文だ。戦闘で疲弊し鈍った動きが少しだが回復したネーダは、戦況を一気に決めようと、人狼の群れの中に果敢に飛び込んで行った。

 それを見たユタはこう言った。


「おい、そんなに突っ込んで大丈夫かよ」


「この程度、全然平気だぞ! おりゃ! さっさと倒して、ジオの妹のソアを探しに行こうよ!」


 実際にネーダは人狼二、三匹と同時でも互角以上に渡り合えているように見えた。強気な態度をとるだけの事はある。ユタはそれを見届けると再び自分の戦いに集中した。


 だがその後状況は一変した。ネーダの近くにあった空き家がボロボロと崩れたかと思うと、その崩れて出来た地面の穴から、人狼とは違う別の魔物が現れたのだ。


 その魔物は穴掘角(ディグホーン)という地中に住む魔物で、地上の戦いの騒ぎを聞いて出てきたのだった。しかも現れた数は四匹もいた。

 そして穴掘角(ディグホーン)達は穴から出ると、真っすぐネーダの方に向かって突進し始めた。


「やばい!」


 穴掘角(ディグホーン)の接近に気づいたネーダは慌てて、態勢を崩してしまった。その瞬間人狼たちに囲まれてしまった。


 それを後ろから見ていたパユはパーティ全体のピンチを感じ取った。そして同じ後方から三人を支援していたクレアに対しこう言った。


「仕方ありません。私が彼を助けに行ってきますので、その間の支援はお願いします」


「あ、はい。大丈夫です。任せてくださいっ」


 パユは風の飛行呪文を唱えると一瞬でネーダの上空までたどり着いた。そして空からネーダを狙う穴掘角(ディグホーン)目掛けて呪文を放った。


「風よ、魔を退けなさい!二重旋風(デュオラエアルー)!」


 逆回転する二つの竜巻は砂岩を巻き上げながら突き進み、進行上にいた穴掘角(ディグホーン)をすべて蹴散らした。


「ネーダ、大丈夫でしたか」


「う、うん……」


 さっとネーダの背後に降りたったパユがそう言うと、ネーダはピンチに助けが来たので一瞬だけ安堵した表情をみせた。しかし意地を張るように人狼に斬撃をお見舞いするとこう言った。


「勘違いするなよ?ボク一人でもなんとかなったんだからね」


「はあ、素直じゃないですねー」


 ユタとジオ、そしてパユとネーダが戦っている人狼の数は合わせて六匹まで数を減らしていた。今のところ新に人狼がやってくる様子もなく、このままいけば無事にすべての人狼を倒すことが出来そうだ。


「あと、もう少しだ!」


「みんな、頑張るんだぞ!」


 ユタ達はそれぞれの戦闘の工夫やコンビネーションの駆使で人狼にダメージを与えていた。しかし、ここに来て魔力が足りなくなってしまい、充分に魔法が使えずみな攻めあぐね始めた。


 ―ここまで来てやられちまうのか……―


 人狼の爪を魔力付与が消えた槍で受け流しながらジオは思った。


 すると見かねたパユは一人、人狼と戦っているユタ達と離れた所に移動した。


「こうなったら極大呪文を使います。合図をしたら人狼を一か所に集めてください!」


「極大呪文?! パユ、あんた一人で使えるのかっ」


「ええ、一応。しかし今回は消耗してるので発動にかなり時間がかかります。それまで耐えてください」


 パユはそう言うと、比較的安全なところに行き胡坐を組むと、目を閉じ瞑想を始めた。集中力を高め一刻も早く使える魔力を集めるためだ。


「まさか極大呪文とはな。やりやがるぜ! よし、オレたちもやるぞ」


「ちょっと待て。 ……あれは何なんだぞ?」


 ふと後ろを振り返ったネーダが遠くに見たのは、宙に浮かぶ不思議なもやだった。それは後ろで彼らを魔法で支援していたクレアのすぐそばに現れていた。



 ユタ達が戦っている正面に集中していたクレアは、自分の背後から危険が迫っているのに気づくことが出来なかった。


 それは突然だった。音もなく空間が突然歪み、魔力の空間転移門が現れた。そして門の中から大きくて野蛮な手が出てきたかと思うと、それはクレアを鷲掴みにし門の中に引きずりこもうとした。


「キャッ 何っ」


 クレアは突然後ろから捕まえられ何が起きたのかも分からず、ただ必死にもがいていた。

 門の中では魔軍団長(ゾディアック)キプラヌスが笑っていた。


「ひっひっほ。捕まえたわい、この女狐め!さて、どう痛めつけてくれようカノー。ひっほ」


 クレアをつかむ腕はキプラヌスの意思に呼応しだんだん大きくなった。そしてクレアがもがく事すらも難しくなっていった。


 ―うっ……苦し……助けて……ユタ!…………―



「クレア!」


 異変に気が付いたユタは目の前の人狼を瞬殺すると、クレアの所へ駆けつけるために瞬間移動の呪文を唱えた。


超空間転移(エルテレポレア)!」


 上級呪文は長距離の瞬間移動が可能だ。ユタはキプラヌスが開けた転移門の目の前に一瞬で移動した。


「クレア!!」


 しかし既にクレアの身体はほぼ門の中に飲み込まれた後だった。クレアを鷲掴みにする手の内から僅かに露出していた彼女の手を見つけると、ユタはそれに触れた。


「絶対助けるから、いいから俺の事待ってろよ!」


 ―うん、絶対待ってるっ――


 そしてクレアを飲み込んだ門は、そのまま空間の歪みと共に消滅してしまった。


「クソーッ!! クレアッ!!!」


 人狼の相手もそこそこに、ネーダとジオもユタのいる場所に走って戻ってきた。


「ボクのせいだ……ユタ、ボクがみんなの足をひっぱったから」


 ネーダは今にも泣きそうな顔でそう言った。苛立っていたユタは思わずネーダに八つ当たりしてしまいそうになったが、ぐっとこらえるとこう言った。


「ネーダのせいじゃないさ。それより、どうにかしてクレアを助けださなきゃ」


「でも、どうやって?! もう転移門は消えちゃったんだぞ!」


「クソ、何だってんだよ……何か、何かないのか」


 クレアが消えた辺りの空間を、手で空を掻くようにしながら、まるでもがくように注視した。しかしそれでもユタには何の痕跡も見つけることが出来なかった。


「クレアが消えたのはそこですかっ?」


 事態に気が付いたパユが空を飛んでくるとユタの側に降りた。


「おせぇよ!」


「すみません。私の責任です。ですがその話は後です。急がないと間に合わなくなります」


「えっ、間に合うのか!」


 パユはユタを見て頷いてみせた。


「奴がクレアを連れ去った時に使った魔法はおそらく空間魔法。ユタ、あなたと同じです」


 そう言うとパユは魔導書(スクロール)と同じ効果を持つ魔法結晶を四つ取り出すと、転移門があった場所に等間隔に設置した。そしてマンドラゴラポーションを飲んで魔力を回復させた後、突然ユタの手をつかんだ。


「何する気だよ」


「これからキプラヌスの開いた門をもう一度開き直します。その時にあなたの魔法適正を借ります」


「そんなことができるのか」


「ええ、しかしこれはかなりの荒業なので、開けたとしてもその後に私の魔力は空になってしまうでしょう。ですからあなた達だけでクレアを助けにいってください」


「分かった。クレアは俺たちで絶対に助けてみせる」


「頼みましたよ……。ではいきます!」


 パユが魔法結晶に魔力を込めだすと上空の空間が歪みだし先ほどと同じような空間転移門が出現した。


「これは、思ったよりも数段キツイ……。長くは持ちません。皆さん、早く!」


 魔力を流し門を維持するパユは額から滝のような汗を流しとても苦しそうな顔をしていた。適正がない呪文を使うことは、魔道具の補助があってもそれほどに精神と肉体に負担がかかった。


「よし、オレが先にいってるぜ」


 そう言ってジオが一番にとびこんだ。続いてネーダが入ると彼女は門の中からユタに手をのばした。


「ユタっ 早く!」


「うん!」


 ユタはネーダの手をつかむと、そのまま引っ張られるように門の中へと飛び込んだ。そしてユタがパユの手を離した瞬間、魔法が維持できなくなって、門は急激な速度で小さくなりやがて消滅した。

次から新章です。再びゾディアックと対峙することになりそう。バトル展開にも期待?


※連載中なので本編ページの上部や下部にある「ブックマークに追加」からブックマークをよろしくお願いいたします。またいいねもお願いします。作者への応援や執筆の励みになります。


〇魔法属性について

生物魔法が新登場したので、魔法属性について簡単におさらい。この知識でより楽しんでいただければと思います。


・基本四属性

風エアル、火フレム、土ゴラム、水ウォータス

下級呪文は生活魔法として扱われる。

・その他の属性魔法

雷バルバトス、???、霊レギア、氷フリーズ

・存在が珍しいレアな魔法属性

空間魔法、???、???、???


???はまだ出ていない魔法属性です。

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