第58話 人狼の巣
ユタ達はジオの案内により、とある村に辿り着いていた。
「着いた。ここがブルーフォール村だ」
そこは既に廃村と言うのが近かった。ほとんどの家はどこか壊れていて、ハンザよりずっと終わりを感じさせられる。
「魔物どころか人もいないけど……ここがそうなのかよ?」
「ああ、人狼はここからやって来てる。つまりここで、キプラヌスが人狼を作ってやがるんだ」
「ふーん、ところでキプラヌスはどうやって人狼を生み出すんだ?」
「それは……」
するとその時、ユタは目の前に村人らしい老婆がいるのに気が付いた。
「おい、誰かいるゼ」
「気をつけてください。魔物かもしれません」
しかし老婆はどう見ても人間であった。そして老婆はこっちに向かって何か言っているようだった。
「なんかしゃべってるみたいっ 私、話を聞いて来るね」
クレアがそう言って駆け寄ろうとした直後、老婆の身体の微細な変化に気づいたジオは叫んだ。
「だめだ近づくんじゃねえ!アイツはもう人狼だ!」
ジオの警告の直後に、老婆は叫び声のような遠吠えを上げながら身体を変化させた。内から肉と皮が何度もせり上がり、痛みを伴いながら数秒後には肉体の構造が丸っきり別のものになっていた。
アおおおお……ン!
一匹の人狼が遠吠えを放つと、壊れた家から人間がぞろぞろと現れた。そして次々に苦痛の表情を浮かべながら人狼へと変身を始めた。その光景はまさに地獄であった。
「っ……こういう事か。ここの人狼が進化種じゃないっていうのは、魔物じゃなくて元が人間だからって……」
「……そうだ。オレの村の人間も、奴の実験でみんな」
「そんなの、許せないんだぞ!」
ネーダは激しい怒りに燃えていた。すぐさま刀剣召喚を唱えると、怒りを闘志に変えるように、迫りくる人狼に向かって剣を構えた。
ユタはネーダほど大儀による怒りは無かったが、同じようにかなりの苛立ちを感じていた。
人狼はユタ達に三方から囲むように迫っていた。
クレアはビアードからもらった魔力増幅ロッドを、ユタは鉄剣を手に取るとそれぞれ戦闘に備えた。
「いいですか。私とクレアが後方から魔法でサポートします。三人は前でなるべく人狼の接近を防いでください」
「分かった。いくぞ!」
ユタとネーダとジオは同時に飛び出すと、それぞれ目の前の人狼に攻撃を仕掛けた。
ザシュッ!!
武器による攻撃で人狼はひるんだ。しかしこの程度の攻撃では倒すことができない。彼らは即座に次の攻撃へと移った。
ユタは最初に仕掛けた攻撃の勢いを緩めずに、そのまま空間転移を絡めた高速斬撃を浴びせた。瞬間移動の十連斬撃は消滅までは行かなくとも、一瞬で人狼の体力を立てなくなるまで削った。
「はあ、はあ、どうだ!」
ユタが振りかえると、自分が攻撃した人狼が地面に倒れているのが見えた。しかしまた新たな人狼が二匹、ユタの所に近づいてきていた。
「はあ?まじかよ。一度に二体は流石にキツイかもしれない……」
その時ユタの背後から突風が吹いて、一匹の人狼を風で吹き倒した。
「超旋風」
ユタの後ろにいたクレアが、見かねて呪文で援護したのだ。
「ユタ、こっちは私に任せてっ 今のうちだよ!」
「助かったクレア! ……くらえッ はあああ!」
ネーダは魔力の剣で人狼の腕を斬りつけた後、一度素早く距離を取り呪文を唱えた。
「属性付与<雷>!」
ネーダは自分で生み出した刀剣召喚の剣に、空いている方の手で雷の魔力を込めた。一撃の火力は上級魔法の超雷霆が上だったが、消費魔力の少ない下級呪文の方が継戦能力は高かった。
電撃を纏った剣でネーダは正面の人狼に斬りかかった。人狼は鋭い爪で剣を受け止めようとしたが、剣の電撃にしびれて防ぐ事が出来ず、その隙にネーダは肩から袈裟斬りにして一匹倒した。
「ふっ決まったんだぞ……」
ネーダはニヤリとほくそ笑むと、その場でカッコよくポーズを決めた。
「ネーダ、中々やるじゃねえか」
遠距離から下級の氷魔法で人狼と戦っていたジオは、ネーダの戦いを見て感心した。
「そうだろぉ!なんたってボクはグラディウス家の魔法剣士だからね!」
「ああ、本当に英雄みたいな強さだ!」
ジオに褒められネーダは鼻高々になるとこう言った。
「ハハハ! そうだろぉ、そうだろぉお!! お前もそんなちまちま戦っていないで、ボクの戦いを見習ったらどうなんだぞ?」
「ああ……そうだなっ オレもそうするぜ」
「え?」
するとジオは今使っていた氷の詠唱を止めると、別の呪文を唱えだした。てっきり前に使ったことのある突華氷傑を撃つつもりだと思ったのだが、ジオが使ったのはなんとネーダと同じ刀剣召喚だった。ジオの手には、魔力の槍が精製されていた。
「そ、それは……!」
「ん?別に驚く事じゃねえだろ。こんなん生活魔法だから誰でも使えるはずだし」
「あ、そうだね……」
しかしジオの詠唱はまだ終わらず、ネーダの心にはどんどんダメージが蓄積していった。
「あんまり使ったことがないが」
そう言うとジオは魔力を槍とは反対の手に込めて式句を唱えた。
「属性付与氷!」
凍てつく氷で敵を貫く魔法の武器の完成だ。
「ボ、ボクの専売特許が……アイデンティティが……」
その魔法は誰かのハートも貫いた!
「よし、これでネーダと同じだ……ネーダ?」
「ぐすっ……お、お前には負けないから!!!」
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〇魔法剣
ネーダが使うエンチャントの呪文は、剣などに火や雷の魔法属性を付与させる事のできる魔法だ。この他に魔力の剣を召喚する魔法剣があるがどちらも魔法剣といい、魔法剣を使って戦う魔法使いを魔法剣士という。