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第55話 あつい気持ち

「昨日の夜はどうしたんだぞ?」


 人狼の探索中に、ネーダがいきなりそう声をかけてきたため、クレアは驚いてふえっという変な声を出して驚いた。


 そして立ち止まってネーダの方を振り向くとこう言った。


「な、な、なんのこじょっ??」


 慌てて言い間違えたクレアは取り繕うように咳払いをした。


「夜中に起きて、ユタとどっかに行ってたよね。二人で何してたの?」


「えっと……ユタにね、ちょっとお願いを聞いてもらったんだ」


「お願い?」


「うん」


 ふと前を見るとユタとパユが何か話しているのが見えた。

 今はハンザの村から出て、教えてもらった北の怪しい場所の近くに来ている。しかし、近くに人狼の痕跡は見当たらず再び探索を開始していたのだ。二人はその事について話しているのかもしれない。


 するとクレアの様子を見ていたネーダは、いじけるようにこう言った。


「今はボクが話してるんだからね。もう、ちゃんと話聞いてよ」」


「あ、ごめんごめんっ」


「それと……ボクにだって悩みがあったら相談していいんだぞ。前にクレアはボクの話を聞いてくれたからね」


「うん。ありがとうだよっ」


「えへへ」


 クレアは自分に頼れる仲間がいる事に嬉しく思った。それは少し前にはなかった事で、クレアが冒険者になってから得た一番大きな事だった。



 その頃、ユタとパユは前方を進みながら人狼の痕跡を探していた。しかし森の木と降りしきる雪が捜索を難航させた。だがその時、ユタの視線の端で何か動く物が見つけた。


「いま何かいたぞ。 俺が見てくる!」


「気をつけてください」


 ユタは側にいたパユから離れ、一人で道の先を進み、さっき見たものを確認しに行った。しかしユタが近づくと、その何かは急いでユタから離れようと走り出した。


「おいっ待て!」


 ユタも急いでその影を追うが、視界も悪く中々追いつけない。


「クソ、こうなったら使うしかないか……。空間転移(テレポレア)!」


 そう言うとユタは呪文の式句を唱えて前方に瞬間移動した。しかし雪で良く見えなかったせいか、移動先がきっちり把握できずに、ユタは予想に反した場所へと移動してしまった。


「うわあっ、危ない!」


 次の瞬間、ユタは空中に飛び出ると、ストンと落っこちた。そして人狼だと思って追いかけていた、森を歩いていた人間とぶつかると互いに転び頭を抱えた。


「つー……いきなり何しやがるんだ!」


「いたた。ああ、ごめん。魔物と見間違えたんだよ」


「そうだったのか……、なら仕方ないな。次からはちゃんと気をつけるんだぜ。もし魔物と間違って一般人を討伐しちまったら大変だからな」


「ああ、気をつけるよ……」


 意外にも相手は気のいい奴で、そこまで俺がぶつかった事を気にしないでくれた。しかしユタは、後になり厄介な言いがかりをつけられるかもしれないと思うと、そそくさとその場から立ち去りパユ達の元に戻ろうとした。


「おい、待て!」


 男はそう言ってユタを呼び止めた。遅かったかと思いつつユタは足を止めた。


「なんだよ……」


 すると男はこう言ってきた。


「お前が探している魔物ってのは、もしかして人狼か?」


「な、なんでそれを?!」


 ユタが振り返ると、男は蒼みがかった銀髪をして雪のような白いコートを身に着けている事が分かった。


「思い出した。お前はハンザにいた冒険者の一人だな。お前には、人狼はオレの獲物だと言ったはずだ」


 氷の魔法使いジオはそう言うとユタの事を睨みつけた。ユタも負けじと睨みかえす。


「はあ? そんなの知るかよッ 人探しだか知らないけど、俺たちだってギルドの依頼なんだから、譲れやしないゼ」


「なんだと? その話、一体どこで……」


 するとその時、騒ぎを聞いてクレアたちがユタの所に駆けつけた。そして二人の会話を聞いていたクレアがこう言った。


「ハンザの村のマリクって子だよ。私達その子の家に泊めてもらったとき、あなたの事を色々聞いちゃっんだ。村で人助けしてたり、悪い人じゃないんでしょ」


「うっ…………」


「私はユタの仲間でクレアって言うんだっ。ねえ、人狼を倒すっていう目的は同じなんだからさ、もう喧嘩するのはやめようよっ。


「うっ……うっ……」


 しかしジオはクレアの問いに答えようとはしなかった。するとじれったくなったクレアはいきなりジオの手をつかんでこう言った。


「ほら、仲直りの握手だよっ」


 するとジオはクレアに手で触れられた途端、顔を真っ赤にさせてそのまま動かなくなってしまった。


「ええ? いきなりどうしたの?」


「はあ、もしかしてコイツ。クレアに触られて照れてるのか? あはは」


 ユタに笑われるとジオは、クレアの手を払いのけてムキになりながらこう言った。


「違う! そんなんじゃない。ただ昔から女が少しだけ苦手で、反応しちまっただけだ」


「そ、そうだったんだ……。ごめん、いきなりつかんじゃってさ」


「うっ……だ、ダイ……ジョブ」


 ジオの様子を見るに、どう見ても()()苦手という風ではなく、女に対しかなりのトラウマがあるようだった。ユタはあれだけ強力な魔法を扱うジオが、クレアに触れられるだけでピクリとも動けなくなってしまう様は、滑稽だと思った。


「じゃあ、仲直りで、いいよね」


「うっ……うっ……」


 再びクレアがジオにそう聞くと、パユが現れこう言った。


「いえいえ、そういう訳にもいきません。あなたは一度私達の仲間に死んでもおかしくない魔法を放ちました。和解するためにも、その理由をきっちり説明して頂けませんかね」


 それを聞くと、ジオは頬は自らの頬を叩いていつもの調子に切り替えた。そして粛々とした様子でこう言った。


「そうだな……あの時はやりすぎちまったかもしねえ。悪かった。ただ、オレもオレの目的のために他の事に構ってられないんだ。分かってくれ」


 しかしジオの言葉を聞いたネーダは不満気にこう言った。


「ちゃんと話してくれなきゃ、それじゃあ分かんないんだぞ。ユタはボクの大事な団員なんだから、きっちり理由を説明してくれなきゃ……」


「そうだな……分かった。全部話す。」


「うん。それでいいんだぞ」


 その後、ユタはジオが気づいていないようなのでこう言った。


「おい、ネーダも女だぞ」


「…………」

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