第51話 季節外れのシロ
翌日、ユタ達はボントルべの街に向かって再び歩きだしていた。予想通り森の先の道は、薄っすらだが、雪が積もっていて昨日よりもずっと寒かった。それに降雪は先に進む度にその勢いを増しているようだった。また雪のせいで歩くのにも余計な体力を使わねばならなかった。
だがきっと、今日中にはボントルべにたどり着く。そうすれば宿屋の温かいベッドで寝ることができるのだ。そう考えると足取りも決して重くはなかった。
だが雪道が大変な事には変わりない。にも拘わらず、常に何もかも物理で解決しているせいか、一人だけ元気が有り余っているネーダはユタの周りを飛びはねながらこう言った。
「なあ、名前考えたか」
「はあ、名前だって?」
「団の名前だぞ。ボクたちの冒険団の名前。まだ決まってないだろっ」
「ああ……だから、なんでもいいって」
「じゃあ、勇者ネーダとその他」
「それはヤダ。」
「えー、じゃあ、なんでもよくないじゃーん!」
本当に団の名前なんてそれほど拘りはなかったのだが、ネーダが提案してくる名前は、どれもこれから自分が所属を名乗る時の事を考えた時に、抵抗がありそうなものばかりだったのだ。
「じゃあユタは何かいい案があるのかよぉ」
「うーん、たまねぎじゃがいもにんじん団ってのは?」
「ダメダメ!ボクのきらいな物ばかりだもん。しかも全部昨日の鍋の具材だし。適当すぎるんだぞ」
「そうか、結構がんばって考えたんだぜ」
「ハア……せめてボクの好きなものにしてよ。例えば、イノシシブタウシウサギとか」
「お、それいいじゃん!じゃ、それで決定だな……」
「え…………、いやダメだって!」
そうこうしているうちにユタ達はボントルべにたどり着いた。ボントルべの周辺はまるで真冬のような寒さで、雪も深くまで積もっていた。
「わざわざフォレストモアまで応援が来た理由が分かりましたね」
パユの視線の先には異常気象の大雪の対処に追われている冒険者達の姿があった。ボントルべの冒険者たちは、街の住人に依頼されて壊れた建物を直したり、除雪などをしていた。
「雪のせいでギルドの仕事まで手が回らないって事か? いや、でもそんな事あるのか。人狼のせいっで人も死んでるんだろう」
「とにかくギルドに行ってみようよっ 何か分かるかも」
ボントルべのギルド支部に行くと建物の中はガランと空いていて、表に出ている人は全くいなかった。それどころか部屋は暗く明かりすらついていない。
「誰もいないな」
「ギルドに人がいないことなんてあるのかなぁ……。奥の方にいるんじゃない」
するとその直後、声を聞いて出てきたのか、ギルドの職員らしき人間が奥の方から現れた。
「冒険者の方っすか? 今は冒険者依頼の発行は停止していますよ。帰ってください」
「ええ? それってどういう事ですか」
「ん? もしかして……フォレストモアから来た方っすか?!」
ボントルべのギルド職員はユタ達を奥の部屋へと案内した。小さな部屋で誰かの書斎のようだった。
「あったかあーいっ」
暖炉を発見したクレアは真っ先に火の前に陣取りそのまましゃがみこんだ。ユタも手がかじかんでいたので、暖炉の火はありがたかった。
「二人ともだらしないなぁー」
ネーダはそうやってユタとクレアを挑発した。ここまでチニイの毛で手を暖めてたやつがよく言うよ。
その後、ボントルべのギルド職員は四人に温かい飲み物を持ってきてくれた。おかげで一息つけた。その様子を見るとギルド職員はユタ達にこう言った。
「あなた達、救援で来てくれたんですよね。いやあ、助かります! あ、あなたがあの竜のアギトの頭脳にして竜の息吹とも謳われるA級冒険者のパユさんですね! 頼もしいっす!」
「おだてるのはよしてください。そんなことより、冒険者依頼が停止しているというのはどういう事なんですか。説明してください」
「あ、すみません。実はそれも、人狼が関係しているんです……」
ギルド職員の話によると、大雪の中でも冒険者たちは人狼捜索をしていたのだそうだ。しかし数日前から捜索に出ていた冒険者が人狼にやられることが増えて、ついに街の熟練冒険者は皆倒れてしまったらしい。
そこで苦肉の策でフォレストモアの最強の冒険団<竜のアギト>に冒険者の派遣を依頼したのだった。
「パユさんは大丈夫っすけど……後の三人はC級なんですって? 心配だなぁ」
「なんだとぉ! へんっ ボクを侮ってると痛い目に見るんだぞ?」
「はー、こわいこわい」
「ムキーー!! チニイ、こいつをかじれ」
ネーダの合図で兜の中から歯をむき出したチニイが顔を出した。
「きゅひひひひひぃぃ……!」
「ひぃぃッ お助けをーっ」
ギルド職員は涙目になりながら、急いでパユの後ろに隠れた。
「ネーダ。何をやってるんですか。悪ふざけがすぎますよ。冒険者がギルド職員に攻撃しても意味ないでしょ」
「はい……」
ネーダはパユに叱られしぶしぶチニイをひっこめた。
「これはー減点ですかね」
「え! そんなぁ」
それを聞いてユタはとっさにこう言った。
「パユ。減点ならネーダだけにしてくれ」
「おいっ 仲間を売る気か! 最後はみんな、一緒なんだぞ♡」
「うるせぇ! 巻き込むんじゃねーよ」
「なんだぁ、やるかあ?」
ユタとネーダはそのまま喧嘩を始めてしまったが、パユはそんな二人を無視したままギルド職員にむきなおった。
「あのバカ共は気にしないでいいですから。話の続きを聞かせてください」
「あ、あのー、師匠?」
「クレアも無視ですよ。無視。ラッツと同じです。感情で熱くなってる人間がいるときは、誰かがより冷静にならねばならないのですよ。まあ、ラッツの場合は常に暑苦しいので付き合ってられませんがね」
「は、はあ……」
そしてパユは言った。
「さあ、どうぞ。詳しい話をお聞かせください。人狼はどこに行けば会えるのですか」
「はい。一番被害が出ているのはハンザの村っす。なのでまずはそこに向かって頂きたい」
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