第49話 進捗第一歩目
大討伐戦からは一月ほどの時間が過ぎ、みんなが元の平穏を取り戻していた。
フォレストモアの大市場も一時は魔物のせいで街に商人達が来れなくなり、品物が無くなる事態にまで陥っていた。しかし最近になって物流が回復し賑わいも戻ってきたようだ。
その日はユタも大市場に出かけていた。探していたのは次の冒険者依頼の時に持っていく為の食材だ。
街から少し遠出の場所の冒険者依頼を受けた時には、野営をしてそこで調理をする事もある。そうゆう時にはいつもユタが調理をしていた。
「こないだ作ったサンドイッチが好評だったからまた作ろうかな。そういえば調味料も切らしていたような……」
そう呟いて思案を巡らせながら、ユタは市場の食材を物色していた。ちなみにゴブリンの肉はもう残っておらず、クレアたちに振舞うこともなかった。
戦いの後ユタは、ネーダとクレアの三人で冒険者稼業を始めていた。
二人に説得されたのもあったが、同じ冒険者としてやっていくなら龍のアギトのような大規模冒険団より、三人でやったほうが気楽だし自由に動きやすいと思ったからだ。
こつこつと魔物の討伐や採取の冒険者依頼をこなして、ユタ達の冒険者ランクはC級にまで上がっていた。
「ネーダの奴。好き嫌いばっかしやがって……。野菜が嫌いとかお子様かよ」
ユタはそう言いながら、次つぎと緑色の植物を買い置きすると自分の収納魔法に放り込んでいった。
「いやあ、こんなに買い物向けの魔法は他にないだろ」
そう言うと今度もユタは、ネーダの嫌いなネギを重点的に詰め込んでいった。
―ネーダが居なければ今でも俺はクレアと二人っきりのラブラブで、ランデブー!な旅を続けられていたのに!まあ、パーティーの戦力としては、助かっているけどさぁ―
やや複雑な気持ちで買い物をしていると、ユタは自分を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、ユタッ!」
振り返るとそこには手を振り笑顔で自分の元へと駆けてくる美少女の姿があった。走る度にブロンドの髪が風に揺れてキラキラと美しく輝いた。
「クレア、そんなに俺に会うのが嬉しかったのか? 分かった。いいよ、俺の胸に飛び込んでおいで」
ユタは一人でそう言うとさっと両腕を左右に広げた。しかしクレアはユタのところまで走ってくるとユタの手前できちんと停止した。
「ユタ、あの話きいた? ……あれ、なんでそんな変なポーズしてるのさ」
「うん。いいや?」
ユタはクレアに突っ込まれると静かに腕を降ろした。
「……話ってなんだよ」
「そう! 私達のB級昇格が決まったらしいよ!」
「本当か?!」
冒険者ランクのB級はユタ達が目標にしていた事だった。なぜならB級の冒険団のパーティーにのみ、ムーン帝国の入国が許されていたからだ。やっと先に進むことができる。
「ギルド支部でいいんだよなっ」
「うんっ 早くいこう!」
ユタは買い物も途中のままに、クレアと一緒に冒険者の冒険者依頼などを発行している地方ギルド支部へと直行した。
しかし次の日、ユタとクレアとネーダは何故か龍のアギトのアジトに呼び出されていた。わけもわからず呼ばれた三人はどこか不満そうな顔をしていた
アジトにはパユと他にもう一人見知らぬ丸渕メガネの男がいたが、ネーダは前にユタ達三人が来た事のある部屋に通されると、すぐさまパユにいちゃもんをつけた。
「あのさー! なんでボクたちこんなところに呼び出されてるんだぞ? 昨日、ギルドでB級に昇格したんだろ??」
シマシマリスのチニイもネーダのマネをして、いかつい顔を作りパユを睨みつけていた。するとパユは呆れたようにこう言った。
「やれやれ、B級の昇格がそんなに簡単なものなハズがないでしょう。大討伐戦で活躍して少し調子に乗っているようですが、まだまだですね」
「……じゃあ、どうしたらB級に上がれるんだよ?」
ユタがそう尋ねると、部屋にいた見知らぬ丸渕メガネの男がユタの問いに答えた。
「その話については私から説明させてください。」
「いや、お前誰だよ」
「あ、これは失礼いたしました。私はコリンズと申します。一応この街のギルドの支部長をさせて頂いております。はい。」
「ん、ていう事は……ギルドマスター?!」
コリンズがギルドマスターだと知らなかったユタ達三人は驚いて一斉に彼の方を振り向いた。
「ええ? あなたがギルドマスターなの? 私てっきり、もっと筋骨隆々の熟練冒険者みたいな人だと思ってたのにっ」
「クレア、それは間違いだぞ! 基本ギルド職員の仕事はボクたち冒険者みたいに魔物を倒したりするわけじゃないんだから、コリンズさんみたいにひょろひょろの人の方が多いに決まってるんだぞ」
二人でデリカシー無視の会話をしていたが、コリンズは気にせずニコニコしながらこう言った。
「確かに私は根っからの文官ですが、中にはおっしゃっていたような元冒険者の方もいらっしゃるのですよ」
「へえーそうなんですかっ 教えてくれてありがとうコリンズさん」
「いえいえ、とんでもないです」
クレアは嬉しそうに礼を言った。すると今まで静かに見守っていたパユがコリンズに説明を急かした。
「コリンズさん。そろそろ、彼らに説明をお願いできますか」
「あ、はい。そうですね」
パユにそう言われるとコリンズはメガネの位置を微調整してからユタ達に話をはじめた。
「皆さんは今までのご活躍から、充分に力のある冒険者だという事はギルドの方でも分かっています。しかしC級までの冒険者依頼が個人からの依頼だったのに対し、B級以上では街や村からの依頼も増え、その内容は難しくなり、こちらでも任せる人間も慎重に選ばなければならないのです」
するとネーダがこう付け加えた。
「たしか、A級になると国から依頼されることもあったはずだぞ」
「その通りです。さすがです。そこでですね、皆さんにはB級昇格試験を受けていただきたいのです。」
「昇格試験?」
ネーダが聞き返すとコリンズは、はいと頷いてからこう答えた。
「試験といっても皆さんは冒険者ですから、やってもらうのは冒険者依頼です。はい。ただし試験ではB級レベルのクエストに行ってもらい、試験官として上級の冒険者が同行する事になっています。」
―まさか異世界に来てから学校みたいに試験を受けることになるなんて思いもしなかった。B級の冒険者になるのはそれほど大変な事なのかもしれない―
ユタは試験という概念には慣れっこだったが、対してネーダとクレアは昇級試験と言われてもあまりパッとしていない様子だった。すると二人の様子を見てそれを察したパユはこう言った。
「つまりあなた達の冒険者依頼をこなしている様子を観察して、私がB級にふさわしいか判断するということです」
「ああ、そういう事かあ……ええっ! パユさんがクエストに着いて来るんですか??」
「そうですよ。失望させないでくださいね」
パユはそういうとキリリとした鋭い視線でユタ達のことを見下ろした。
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